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異世界の成金道  作者: (ちきん)
第三章教会とダークエルフと財政官
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3-18脱出

「……なんでお前がこの場所にいるんだ?」


蜥蜴男ギュリゲと鹿男ニバの閉じ込められた牢屋に

六太は両手両足を縛られて放り込まれた。


こいつは大神官の周囲を嗅ぎ回ることはしていなかったはず。

ギュリゲもニバも六太という場違いな存在に戸惑っていた。


「夕方頃に突然襲われて……

 クサリ邸の庭からユールと二人掠われたみたいで、

 それからは何が何だか……」


六太から答えを聞いて獣人二人は余計訳がわからなくなっていた。


クサリは財政官であり、この街の要職にある。

その人物を誘拐するのは理解できるが、一時的にクサリ邸に

滞在している、いわばただの客を誘拐してなんの意味があるのだろうか。


人質?


その可能性もないことはないが、大神官は六太やユールの

どこに人質的な価値を見つけたのか不明だ。

クサリと交友関係がある人物なら誰でもいいということか。


ニバは現在の条件では答えの出ない難問に頭を悩ませていた。


「……やはり……

 大神……官の目的が……わからないと

 ど……どうしようもない」


「そりゃそうだが、オレらは

 まず拘束されている現状をどうにかしないと

 どうしようもないぜ」


蜥蜴男のギュリゲの正論にまたニバは打ちのめされる。


「そう……だな……」


すると、六太がもぞもぞと動き出した後、

手と足の自由を奪っている縄を外し、

何事もなかったかのように、すくっと立ち上がった。


「ろ、六太。

 何で立てるんだよ」


そのギュリゲの声に六太は振り向くと、


「いや……企業秘密って言いたいですけど」


六太はもったいぶりつつも、掌の上にあるモノを

獣人二人に見せる。


シビレネズミがそこには乗っていた。


「なんだ?

 確かシビレネズミだろ、そいつは。

 ペットか何かか?」


「ペット!?

 そ そんな調子に乗ったこと言ったら殺されるって。

 スキル【ネズミ使い】のおかげではあるんだけど、

 テイムしているペットというより

 お世話になっている相棒かな」


六太は酷く慌てながら、ギュリゲの

ペット発言を訂正していた。


テイムした獣のご機嫌取らないといけないとは

よっぽど有用なのだろう。

ニバはまだ普段より重い頭を持ち上げ、

六太を見上げる。


「どっちでもいい。

 オレらの縄もほどいてくれ」


「……頼む」


もちろん六太もそのつもりだったので、

二人の縄をシビレネズミの歯で切っていく。





牢獄は扉に小さな鉄格子の窓が付いており、

それ以外は岩で補強された土壁でできている。


長方形をした牢屋で、

扉から奥に向かって長く、横幅がそれに比べて細くなっている。

2m近い獣人のニバやギュリゲが横になると、

ギリギリ頭がぶつかるほどの横幅である。



「脱獄といえば、

 看守の持っている鍵を奪っての脱出だろ」


「……それが一番可能性が高い……。

 しかし大神官の妖艶なメイド……が相手なら

 オレら……束になったところ敵わん」


「くっ、悔しいが格が違うな。

 だが、なんとか倒す方法を━━」


獣人の二人はどう倒すかの相談を始めた。


六太はまだその妖艶なメイドという人物を見たことがない。

そもそも闘いになって役に立てるとは思えない。

獣人二人の話を聞く限り、奥の手のネズミによる奇襲すら

命のムダになるだろう。


六太は獣人の二人の会話をただ黙って聞くしかなかった。


『六太、この牢屋って看守っていないと思うわよ』


「!?」『えっ、どうして?』


ミミーとは頭の中だけで会話ができるのに、

六太は驚きでつい声に出しそうになる。


獣人の二人も一瞬六太を見るが、

手の上のネズミと向き合っている姿を見て、

すぐに話し合いに戻った。


『だって、ここ第2区にある大神官の屋敷の地下にある

 牢屋よ。

 騎士団の牢屋と違って、部屋数もここだけだし、

 常に使っているわけじゃないみたい。

 埃が扉の前に積もっていたから』


『なるほど……ということは

 もしかしたら、このまま死ぬまで

 この部屋とか……それはいやだっ』


『それはないでしょ。

 だったら、すぐに殺す方が簡単だし、

 逃げられる可能性もゼロになるからね』


六太は厳しい現実にうな垂れてしまう。

そんな豆腐メンタルな六太だが、

ミミーを落とさないように手の位置はキープしている。

ミミーはやれやれといった感じで、

六太に手を扉の鉄格子の所へ持って行くように伝える。


そこからミミーは牢屋の外に脱出し、

扉の外にかけてある閂を他のネズミと共に持ち上げ

扉の鍵を開けた。


「「「ガチャンッ」」」


扉に鍵をかけていた閂の木が石の床に落ちた音が小さく響くと、


「「 !? 」」


獣人二人が話し合いを中断し身構える。

扉の方に視線を向けると、

六太が扉を開け、牢屋の外にシビレネズミがいた。


「……すげーなっ」


ニバは唖然とし、ギュリゲは辛うじてそう感嘆の声を漏らした。

六太と鹿男ニバ、蜥蜴男ギュリゲは牢屋からの脱出に成功した。












「これでようやく枢機卿、

そして法王への道が確実なものになりますね」


ルクティの街の『教会の長』である大神官は、

第2区の屋敷の地下にいた。


そこは、大神官がこの地に着任してから

新たに地下に増築した隠し部屋。


広さは大広間と言っていいサイズで、

縦横の幅はほぼ一緒でおおよそ正方形に作られていた。


「最後はここまであっという間でしたが、

 全体としては想定よりも早かったですね」


妖艶なメイドは両手に抱いているハーフダークエルフのユール

を部屋の真ん中に下ろす。


「ここの街は良かった。

 実験や材料に使えるいつ死んでもいい亜人連中は

 貧民街に捨てるのに困るほどいた。

 おまけに商売が盛んなせいもあって、

 寄付などの金も簡単に集まりましたしね」


「それにこの王草や

 この子のように亜人で神の祝福保持者も

 見つけられましたしね」


「気を付けて魔方陣を出てください。

 その砂を作るのに何人の亜人、ほとんど獣人でしたが、

 その子供らの骨を使ったか分からないのですから」


「承知しております」


王草をユールの上に置き、

床に砂で描かれた魔方陣を消さないように

慎重に妖艶なメイドは魔方陣の外へと移動した。





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