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異世界の成金道  作者: (ちきん)
第三章教会とダークエルフと財政官
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3-16連絡の約束

「だぁ~~、終わったぁ~」


六太は最後の草を刈り取って、陰る日の下に現れた敷石道の上に寝転んだ。

山となった刈り取られた草が六太の2日間成果である。


隣ではハーフダークエルフのユールも倒れている。

同じように刈り取られた草の山が側にある。


二人の頑張りにより、庭が手入れを完了した。


一部だけ。


クサリの屋敷の庭は非常に広い。

そして手入れがされていない部分はトコトンされていない。


それ故、六太とユールの二人が屋敷の側面から裏手に向かって伸びる道沿い

に周辺を手入れするだけでも相当大変なのである。

それは屋敷の裏手にまとめられた、

100人乗れるくらいの物置より大きく、

120人はいけそうな草の山が物語っている。


ただ、やはり草いじりは地味だけど悪くない。

六太はこの世界に来てから散々植物採集に明けくれていたので、

既に草いじりの面白さを見つけ始めていた。


加えて、必ずご褒美があるならば、もうやめられないし止まらない。


そして、今回も、


「……………………」


ユールが最後の草を裏手の草の山に捨てに行った時に

見つけ、驚愕していた。

六太もそんなものを見つけているとは露知らずに

最後の草を捨てに来た。


「ふぅーー。

 ?

 あれどうかした、ユール」


ユールが固まっているので、六太が何事かと近づくと、

手に持っているのは、なんてことない草。

植物にあまり使うことがない言葉だが威厳がある、

と六太は感じた。


「……なんで……ここに……」


「その草が何か?」


六太にはソルダース村近辺に自生する幾つかの植物のことは

知っていても、それ以外については全く勉強していない。

不勉強なのである。


一方のユールはといえば、まだ10歳という若さながら

一応ポーションが作れる薬師。

植物の勉強も毎日かかさずやっている。


「……王草」


その草の名称に聞き覚えがない。

不勉強六太がユール先生に質問すると、

答えは【草の王様】。


「ということは、

 もしかしてスゴイ草だったりする?」


六太が間抜けな質問をする。少しでも勉強していれば

なかなか恥ずかしくて訊けないことをさらっと訊いてしまう。

ユールは目を見開いて、


「もちろん……ですぅ。

 この草一本を手に入れるために

 大きな商会がつぶれかけたという話も……ありますぅ。

 どこで採れるかすら薬師大事典にも書かれて

 ない……ですぅ……」


ユールは興奮して声をいつもより大きくするが、

最後の方は通常モードに戻っていた。


「じゃあ、万能薬的なものが作れるとか?」


「……はい……

 大事典には……そうありますぅ」


「むぅ、凄くないか……それは」


六太もようやく王草の価値の一片を理解し、

それ相応の驚きの感情が芽生えてくる。


しかし、それでも六太にとっては売ったらどれくらいになるのだろう

程度の関心しかないのは悲しい事実だった。


分け前は期待すべきではないだろう。

いくら発見者と共に作業していたとはいえ、

ここの屋敷自体クサリのモノである。


なにより、クサリは高給取りの財政官ではあるが、

庭師を雇わなかったりと倹約しているのは見て取れる。

街を良くするために、己の住宅手当などのムダな出費は

抑えているらしい。

もし王草がそれなりの額になるのなら、

己の給金はほぼ0にして、その分を貧民街へと回すだろうと

容易に想像できた。


それに、ユールも肩身の狭いハーフダークエルフとして

一人前の薬師になるためにもお金はこれから必要だろう。


一方六太は、つい最近に手に入れた財宝もあり、

住む場所も複数あり、ガリアナ王国の国民にもなれる

予定である。

余裕がある以上、遠慮くらいする人間ではあった。



━━事実、ユールがクサリに王草を見せた際に、

六太は遠慮した。


ただ、売却先はファイン商会を使うようにはお願いし、

クサリも信頼を置いている商会だったようで賛同してくれた。


六太はまだシノギの弟ライトに当主就任のお祝いをしていなかったので、

王草という貴重な品を買える権利は

そのプレゼントとしては悪くないレベルだろう。












「え!?

 ニバとギュリゲから連絡がない?」


六太はクサリの書斎でクサリから相談を受けていた。


クサリに王草を見せた後、夜も更けてきて

ユールは眠りつく。

それを確認して、クサリと六太は書斎に場所を移していた。


「そうなんです。

 今日の夕方までには獣人の子が連れ去られている事件について

 連絡をくれるって約束していたんですけど、

 まだないんです」


「ギュリゲならまだしも、……ニバが

 そういう約束を破るなんて考えにくい」


「きっと何かあったんだと思います」


二人とも深刻な顔で黙り込む。

この世界で一年も経っていない六太ですら

実に簡単に人が死ぬことを知っている。


ましてやこの世界で生まれたクサリなら、

二人が生きていない可能性もかなり高く見積もっているだろう。


二人の間に続く沈黙は重々しく、

書斎の灯りは魔道具なので静かに光り続ける。


第2区の夜は暗闇が濃く寂しい。


貴族の大きい家が並び人通りはほぼない。

大通りは警備をする人は稀に通る程度。


ルクティの街の中心地の夜は

まるで死んだかのように静かに過ぎていく。




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