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異世界の成金道  作者: (ちきん)
第三章教会とダークエルフと財政官
39/59

3-9見積もり

六太は狼娘ラクアからお風呂設置プロジェクトの

進行具合を度々せっつかれていた。


期間は特に設けていないということで、

かなりゆっくりやっていたのは事実だ。

しかし、期間定めないって言ったし。

子供のような言い訳だが、言葉面だけを捉えた方が

都合がいいと判断し動く六太のような人間もいるのである。


『どこに行くの?』


『まだ日も暮れてないから、

 大工さんに相談しに行ってこようかと』


宿屋ファインからミミーを連れて六太は出てきた。

日が暮れるまでにはもうしばらくかかりそうなので、

外はまだ人通りも多く、大通りは賑やかさを保っている。



ここ数日はユールの素材集めと獣人会の食材集めをするため、

六太は森への運搬作業ばかりだった。


しかし、蜥蜴男ギュリゲや鹿男ニバの腕がいいのか、

一日に2回も往復すれば、十分な食料や素材が集まるようになっていた。


労働時間も短くなってきて、今日は昼過ぎに

上がっていいと言われてしまった。


一方で、早く帰れたことにより、

宿屋ファインのお仕事にかからなければならないので、

結局仕事だよ、

と定時に終わることのない働き方は六太を休ませて

くれることはないのであった。



第4区から大通りを進み、クサリお勧めの大工さんがいるという

第7区へ。


第7区になると貧民街も近くなるため、

第4区に比べて少し雑然とした感じが強くなる。

が、それほどの違いはなかった。


『え~っと、ここかな』


六太はクサリに書いてもらった地図を参考にやって来た。

地図は□や△やらよくわからない絵の間を

くねくねと蛇行する矢印が描かれており、

矢印の先にはがっかりな似顔絵らしき線の集合体。


『地図だと分からないけど、

 第7区の大工の一人ならあそこの露店を

 左に曲がった所にあるわ』


ミミー達のナビの方がクサリの残念地図より役に立ちました。

六太は優秀なナビに従い、曲り角の先にある

工房らしき建物へと進む。


「す、すみません、こちらに

 大工のマイコーさんはいらっしゃいますか」


六太はその建物の入口から中の人に声をかける。

建物内部は倉庫のような造りで、二階建てほどの天井に

建築資材やら道具やらがきっちり整理されて並んでいる。


「「がたっ」」

と倉庫の端の方にある事務用に使われていると推測できる

机とイスの所で音がする。

よかった、人がいた、と六太が安堵していると、

音を立てた人物がやってくる。


「何の用かい。ワシはビーバーの妖怪。

 マイコーはワシじゃが」


にかっと笑ってダジャレを決める男。

眼鏡をかけ口髭を生やした

ビーバー顔の獣人が六太の目の前にやってきた。


「なんじゃ、面白くなかった?」


六太の無反応に不満だったようで、

ビーバー男マイコーは説明を始めた。


「妖怪と用かいをかけた洗練されたダジャレじゃ。

 しかも自分で‘何の用かい(妖怪)‘という質問に

 答えているという構成、爆笑ものじゃろ」


「す、素晴しすぎて

 笑うのを忘れてしまいました……ははっ」


六太は苦し紛れの言い訳を言う。

それを聞いたマイコーは眉間に皺を寄せ、

不機嫌そうに六太のことをじっと見ると、

六太の肩を叩いてきて言った。


「そうかそうか。

 これでも既にダジャレ暦40年以上になるベテランじゃから

 当然そうなるのもムリのないことじゃ」


ダジャレを解説している時点で笑わせる気がないような?

六太の頭の中にそんな疑問が湧いたりもしたが、

さすがにそんなことを尋ねたりはせず、本題に戻った。


「それで、リフォームの相談をしたいのですが……」


「なんじゃい。

 お客さんかい。して、どんな家かのぉ」


ダジャレからの仕事への切り替えが速い。

六太は少しその変化についていけず気圧され気味だが、

持ってきた宿屋ファインの改装予定箇所の図面を出す。


「ほう……これは、もしかして

 第4区の宿屋ファインかい?」


「これだけでわかりますか?」


「わかるもなにも、あそこを立てたのが

 ワシの師匠じゃから。

 師匠の仕事くらいは見習い時代に

 覚えたもんじゃい」


続けてマイコーは事細かに師匠がどれだけ厳しかったかを

苦い顔をしながら見習い時代を六太に語り出した。


今回六太はつてがない状態だったので、

この街でも相当偉いらしいクサリに頼った。

貧民街のすぐ側にある第7区の大工を紹介されたときは、

不安に感じなかったとは言い切れなかった。

しかし、それも杞憂だったらしい。

どうやらアタリを引いたようだ。


六太は、マイコーの師匠への憎しみと罵詈雑言が

止まるのを大人しく待った。







「ほぅ、小さい風呂を複数作るのか。

 それに大きな風呂も作るのか?」


「ええ。そのつもりです」


六太は工房の奥の机のある場所まで案内されると、

そこでオキク茶を出される。

独特な香ばしい薫りがするお茶で、

黄色の液体は少し視覚的に食欲にダメージを与える。

いざ飲んでみると悪くない。


六太が怪訝な表情から美味しそう表情に変わったのを見て、

大工の親方マイコーはニヤリとしてやった顔をする。


「くく、こいつのおいしさが分かるとは

 お前の中々見所がありそうだ。

 ただ、大きな風呂について

 必要かどうか疑問だがな」


いきなり六太の案はダメ出しを受ける。


「どうしてです?

 宿屋にあったら、いちいち風呂屋に

 行かないでも済むじゃないですか」


「そりゃそうだが。

 風呂屋のような大きな風呂はそれだけで

 結構維持するのに費用がかかる。

 宿泊客だけが使うとなるとちょっと

 考えものじゃ。

 風呂を使えるようにするなら、

 小さい方だけで十分じゃって」


う~んと悩み始める六太。

畳み掛けるように、大工の親方マイコーは続ける。


「小さいとお湯を出す魔道具も大きいのに比べて

 安く済む。

 排水や防水の処理だって小さい方がしやすい」


「う~ん、専門家がそういうなら

 止める方向でいきます」


「そうしろ、そうしろ。

 特に排水が面倒なんじゃよ。

 この街の地下に作られている

 下水のシステムは古いから

 大量の排水を一気に

 受け付けるようには作られていない。

 だからお湯を抜くのは、大きいと工夫が必要で

 金がかかるんじゃ」


本当は大浴場も欲しかったが、

宿屋ファインはばかばか儲かる宿屋でもない。

金のかかり具合が非常に大きいと聞き、

六太はもう完全に諦めていた。


「でしたら、小さい部屋の一つに

 ちょっと特殊な部屋を作りたいんですができますかね」


「むっ!?

 どんな部屋じゃ」


「えっと、サウナというものでして━━」


サウナの案は親方の興味をそれなりに引けたようで、

詳しく説明すると特に難しくないとの返事を貰えた。

そうなると、後は計画の具体的な案を練り、

見積もりを出して貰うことになった。


思ったよりあっさり終わりそうだ。

六太はとんとん拍子に進む風呂設置プロジェクトに

余裕が大分でてきた様子だったが、


「見積もりを出してみなけりゃ正確にはわからんが、

 規模的なところから考えて、

 最低300万くらいはかかるじゃろうよ」


親方マイコーの口から出た金額を

六太が理解するまでに時間を要する。


「……」


高い。思ったより高い。

六太はラクアから風呂設置プロジェクトを任された。

ということは、おそらく資金の工面も全部やらさられることになる。

ただ、この金額を宿屋ファインが出せば、経営状態を悪くしかねない。


かといって、安心して借金できる銀行のような機関は

この世界でまだお目にかかっていない。

六太はこれから先の資金繰りに暗澹としていた。


一方目の前の大工の親方ビーバー男のマイコーは、

早速第4区の宿屋ファインへと向かう準備を始めていた。

その一挙手一投足からはわくわくが止まらないのが

見て取れた。






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