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異世界の成金道  作者: (ちきん)
第三章教会とダークエルフと財政官
38/59

3-8往復

ラノンベルヌの森は今日も朝早くから

多くの冒険者を迎え入れていた。


六太も久しぶりに森にやって来ている。

今回は、獣人会の鹿男ニバと蜥蜴男ギュリゲと一緒に

薬草などの素材採取が目的である。


『これでいいのかしら……』


『いいんじゃない。適材適所。

 オレみたいな軟弱ピーポーは

 地味に後方支援に回った方が

 結果的にはよくなるんだから』


ミミーと六太は、ルクティの街と森とを繋ぐ道の上を行く。

荷台の上で牛ののんびりとした速度で

コトコトと揺れながら。



六太は森に来ているのは事実だが、

鹿男ニバや蜥蜴男ギュリゲが集めてきた素材を

自前の荷車に載せ、

これまた自前の牛に引っ張ってもらい

街に運ぶ簡単なお仕事。


獣人の彼らは、冒険者としてもDランクに属する

上級ハンターで、優れた獣人の身体能力もある。


現状人間並みのゴブリンハーフの六太が

一緒に森に入るのは足手まといでしかない。


結果、一日で計3往復した。




「ふぅ~、これで半月くらいは病院の

 ユールちゃんも困らないかな」


鹿男ニバが汗を拭いつつ、収穫物の荷台への積み込みを終える。


日もだいぶ傾いて来ており、恐らくルクティの街に到着するのは

夜になるだろう。


「お疲れさまっ、今回も大量だな。

 いつもこんな採れてるの?」


六太はかなりの量を一日で運んだので、尋ねてみる。


「まぁな。

 ここ最近はこんな感じで多いかな。

 魔素の量が増える時期とかなのかもな」


「へぇ~」


どうやら蜥蜴男ギュリゲの積み込みも終わったらしく、


「お待たせっ、じゃ街に戻ろうぜ」


その蜥蜴男の声を合図に、六太は牛を進ませる。

荷台は獣もかなり積み込まれており、

獣人の二人は歩きで帰還することになった。

これ以上載せると牛も限界だろうしな。

六太が御者台に乗っていることすら、

申し訳なく思ってしまうレベルだ。


「(頑張っておくれ)」


六太は牛の背中を見ながら、

街に帰ったら美味しい草をやろうと心に決めた。


「おいっ何う゛ぉーとしてんだよ。

 しっかり手綱持て。

 疲れてんなら、ほら喰え」


蜥蜴男の顔が急に顔の前に現れ、干肉を渡された。

六太はそれほど空腹ではなかったが、

ありがたくもらって食べる。

ちょっと塩っぱいっ。


「うめ~だろ。

 クサリが作ってくれてるんだぜ。

 仕事の後はこの肉に限る、もちゃもちゃ」


「……確かに旨いかも」


「だろっ」


同意を得られ満足した様子の蜥蜴男ギュリゲ。

隣では馬を挟んでギュリゲの逆側にいる鹿男のニバは、


「オレにもくれよ」


と。


「もうない」


と返される。


「いや結構な枚数持ってきてたろ。

 一枚くらいくれ」


「六太にやったのが最後だ」


二人でまとめて持ってきた食料の一つである

干肉。

それをどうやらほとんど蜥蜴男ギュリゲが食べてしまったらしい。


鹿男ニバは血管が切れそうなくらい

歯噛みしてギュリゲを睨みつける。

六太はそれを側でみただけで持っている手綱を震えで

落としそうになり、相手が自分でないことを喜んだ。


「この大食らいがっ」


という叫び声と共に、ニバは御者台を飛び越えて、

もちゃもちゃ肉を喰らっている蜥蜴男ギュリゲに跳び蹴りをかます。


「━━つっ」


蹴られてもなお干肉だけは落とさないギュリゲ。


「なにしやがんだ」


「うるせぃ、オレの分も含まれてることくらい察しろ」


「へん、全然食べないから

 てっきりクサリが作ったこの肉が嫌いなのかと

 思ってたぜ」


「獣人会の構成員で

 そんな奴いるかっ」


ケンカが始まり、荷車を引いている牛も若干驚いたようで、

獣人の二人から離れようと速度が上がった。


『一日森の中で動き回って

 まだ元気があるなんて。

 六太も分けてもらえばいいのに』


『やめとく。

 肉を争って肉弾戦、駄洒落でもキツイよ』


六太はミミーを会話相手に街へと急ぐ。

獣人会とは揉めないようにしようとも心に決め、

夕焼けの中、二人の獣人を後方に置き去りにして

六太は街へ帰るのである。







「はい、それではまた」


ふぁ~、溜息を盛大に吐き、クサリはイスに座り込む。

今日もすでに8組の陳情者・団がやって来て対応した。


第1区にある庁舎の2階にクサリの部屋がある。


元々は8階建ての建物の最上階に財政官の部屋は用意されていたが、

太りすぎて階段を上るのが億劫になった

貴族などの一部の有力者からの意見で、

2階に移ってきた。


なんでこんなに人に合わないといけないの。

クサリは若干財政官の業務に辟易していた。


元々社交界や政治に関わることがなかったのに、

財政官になったらそればかりだ。

まぁ、わかっていたことだけど。

クサリも財政官の試験を受ける前に、

合格後の仕事内容くらいは調べていた。


「━━でも、財政官だからできることもあるし……」


クサリは今期の予算を

貧民街のプロジェクトに当てるために作成した書類を見る。


基本的に、予算を何に使うかはほぼ財政官の決定一つでできる。

それでも、一応利害関係者には、多少の説明もし理解を得ないと、

後々些細な意趣返しをされかねない。


そのために作った書類。


「計画作りは楽しいんだけどなぁ……」


街の問題点を見つけ、原因を探し、対応策を練る。

成果が上がり、困っていた人が喜ぶ。

街が活気付く。

やはり財政官の仕事は辞められない。


クサリが次の計画を考え出すと、扉をノックする音。

コンコンコン。


「クサリ財政官、次の陳情団が来ていますが、

 お通ししていいですか」


秘書官の話に内心はうんざりしていたが、

クサリは顔に出すことはしない。


「今日は終了です。

 書類だけ提出してもらうか、

 明日以降にいらっしゃるよう伝えて下さい」


「畏まりました」


秘書官はキレイなお辞儀をし、

静かに扉を閉じて部屋を出て行った。


また一つ溜息を吐き、今度は深く息を吸い込む。


さて、今度は私が出向いて、説明する番だ。

クサリは体を背もたれから離す反動を使って

イスから立ち上がる。


必要な書類をバッグにしまい込み、部屋を出る。





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