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異世界の成金道  作者: (ちきん)
第三章教会とダークエルフと財政官
35/59

3-5ハーフダークエルフ

「おはようございます」


「…………ぉはよぅ……ぃます」


クサリの仕事を手伝うようになって一週間。

最初は怖かった獣人会の人達も一度仲間と認めてくれると

すぐに親切で人当たりのいい人達に変わっていた。


しかし、六太が任された仕事は、

そんな人達の中で異質な存在。


薬師【ユール】の仕事をサポートすること、

つまり彼女の手足となって動く雑用係である。


薬師ユールこそ貧民街の病院を支える要であるが、

どうも人見知りというか、

怖がられているような節がある。

出会って間もないのだから当然といえば当然なのだが、

六太はこの女性との接し方に苦慮していた。


「……ユブィ(リア)草2(枚)取って……さぃ」


「…………ぅん」


薬師ユールは言葉が足りない傾向にあった。

六太としては仕事で一日中一緒にいるので、

なかなかに辛い。


しかし、それ薬師ユールが『ダークエルフ』という

差別されている亜人の中でも特に穢らわしい存在とされている。


その種族に生まれてしまえば、劣悪な環境が約束されたも同然だ。

六太が見る今の薬師ユールは、

褐色の肌と灰色の長い髪を持つ十歳前後の少女。


人より少し耳が長く、少し無口な普通の少女。

六太にはそうとしか見えなかった。










ユールは病院のすぐ隣に作られた物置に

少し手を加えて人が住めるようにした所に住んでいた。


ベッドと小さい机が置かれたその部屋は、

質素。

薬師としての自前の道具はほぼ病院に置いてあるから

最低限生活に必要なもの以外荷物はほぼない。


ぱっと見た感じは牢獄に見えなくもない。

加えて何の飾り気もないその部屋を見て、

コレが女性の部屋とは誰も分からないだろう。



ユールは毎晩寝る前に習慣にしていることがある。


読書である。


蝋燭の光の中、その小さな机に向かって

薬師として必要な薬草などの知識が載っている

分厚い本を熱心に読み込む。


この母親の形見の本こそが今のユールの師匠である。

ユールには薬師の師匠にあたる人物がおらず、

彼女の薬師としての技術は

昔見て曖昧に記憶している母親を真似ているだけ。


現状の技術では、質のあまり良くないポーションを

作るのが精一杯。

それゆえ、病院の要になって欲しい、

という自分を拾ってくれたクサリの期待に十全に応えられていない。


「(……次のページまで読もう」」


蝋燭も勿体ないので、あまり長くは勉強できない。

それでも、薬師ユールはできる限りのことをしたいのだ。


最大限の集中力で次のページまで読破し、

蝋燭の火を吹き消す。


部屋は一気に真っ暗になり、辛うじて窓の外から射し込む月明かりで

ベッドの輪郭の一部がわかる。

そこを頼りにベッドに上り、身を横たえ、

彼女は全てを吸い込みそうな闇が広がっている天井を見上げる。


次第に重くなる瞼を閉じると、

さっきまで読んでいた本の内容を頭の中で読み直す。


一通り終わる頃に

意識が段々と闇に紛れて消えていった。








お父さんはダークエルフだった。


ダークエルフは土の神にとても愛されたエルフ族の一つ。

彼らの住む土地は常に清浄で豊かな大地に恵まれており、

作物を育てれば豊かに実る。

薬草を育てることもでき、通常より優れた効果を持つものが収穫できる。


しかし、人跡未踏の地に住み、

他の種族と出会わないようにしていた。



お母さんは人間だった。


とても深いヨルチアの森の側にある小さな村で薬師を営んでいた。


神官もいないその村で、村人みんなの健康を預かっていた。


薬師であるためにも、様々な薬の材料を手に入れる努力が欠かせない。

行商人や村の素材屋から買い付けるのと合わせて、

自分の足で、ヨルチアの森に薬草採集に頻繁に出掛けていた。



ダークエルフだったお父さんと

人間だったお母さんが

出会うことはないはずだった。


しかし、偶然出会い、愛し、子を育んだ。






「行けっ、オレが引きつける」


「……頼んだ」


二人の怪我人を残して、父は3頭のストーンベアへと威嚇の矢を放つ。


「「「グゥアッ」」」


3頭の内の1頭の肩に矢が吸い込まれると、

肉を幾らか抉る。


「グォゥッ」


大したダメージにはならなかったようだが、

相手に敵意を抱かせる程度にはなったらしい。

父は威嚇を時折しながら、追いつかれないようにストーンベアを

怪我した仲間から遠ざけていった。




その日、母はよく採取しにいく解毒用のポーションの材料になる

草の群生地に行く。

しかし、前回採取した時と比べてあまり増えていなかったので、

その日は別の場所を探しに森の奥へと足を伸ばした。


「こっちもダメか……」


母は知っている群生地を幾つか確認して回ったが、

採取にはもう少し待った方がいい若い草が多かった。


草の成長速度は大体把握しているけど、

今回は遅い。

ただ、植物の成長速度などは神様の気まぐれで

早くなったり遅くなるのは当たり前。

母は腹を立てても仕方ないと諦め、


「もう少し森の奥まで足を伸ばすかな」



そして母は父に出会う。





父はヨルチアの森の奥に住むダークエルフで、

狩人をしていた。

その日三頭のストーンベアに遭遇してしまい、

負傷しながらなんとか森の表層まで逃げてきたのだ。


ギリギリの場面もあったが、

仲間から引き離すことだけでなく

なんとか父自身も逃げることに成功していた。


「(傷が深い)……里までは戻れないかな……」


諦めたように父は目を瞑ると、疲労もあり

すぐに意識を失った。




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