表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の成金道  作者: (ちきん)
第三章教会とダークエルフと財政官
33/59

3-3優しき大神官

六太はルクティの街にいる時は

相棒シビレネズミのミミー達にお願いし、人の噂話の収集していた。


その目的は、

「宿屋ファインの評判」

「街の人の不満」

だ。


【ネズミ使い】として

人の話をネズミ達に集めさせていた。


「宿屋ファインの評判」は

失敗した。


『宿屋ファインに対する近所の評判は

良好みたい』


ミミーが六太の懐に入って報告する。

クサリの仕事の手伝いは、

荷物運びと病院を紹介するだけだったので、

終了するとすぐに解放された。

なので、今は、第7区の住宅街を歩いて帰宅中である。


『……気付かなかった』


『何が?』


『宿泊客の声が集まらなかった……』


そもそも地元の人が宿屋を利用することはない。

つまり、情報を集めようにも

対象となる宿泊客がいないのだ。


『え、そんな声集めようとしてたの?

てっきり、集めにくいご近所での実際の評判

が欲しいのかと思ってた』


『……すみません』


六太は気を取り直して、もう一つ「街の人の不満」の

調査結果について考える。


旦那の浮気、彼女の三股、もっともてたい、仕事したくない

金が欲しい、玉の輿に乗りたい、試験勉強したくない、

売上げが前月比で良くない、もっとキレイになりたいetc


『どこでも人の不満なんて似たようなものか』


まったくもって人の望むことなど大差ないらしい。

六太はうんざりするが、これはこれで安心もする。


ただ、集めてみたはいいが、

この調査についてはなにか宿屋とか商売に活かせないかと

考えてしたもの。


それなのに、具体的なプランが全く思付かない。


『そう簡単には商売のタネは見つからないか』


『ちょっと六太、

考えることほとんどしてないよね。

もっと考えてから諦めてよ。

そんなんじゃ、わたしたちのご飯のレベルが

落ちちゃうじゃない』


またミミーに怒られてしまいました。

謝って、じっくりと諦めずに考えていこうかと思います。


六太は人にぶつかりそうになりながらも、

ぎりぎりの所で避けながらふらふらと進み第4区の自宅に

戻った。

もちろん良いアイデアは思い付いていない。









ルクティの街の権力者の一人。


教会の長である【教会の大神官】は、

この地に赴任してきて、3年が経つという。


過去に疫病の蔓延を防いだ実績で、

二十代で大神官まで駆け上がった男である。

四十を超えた今は、後進の指導にも力を入れており、

彼の元から多くの神官が生まれて巣立っていったという。


そのため、大神官の評判は概ね良好であった。

彼が部下達に指示して行っている

貧民街などでの慈善活動も好評であり、

いずれは枢機卿にもなれるのではという逸材らしい。


ただ、そんな大神官にも悪い噂があった。


博愛のように見せているが実は亜人差別主義者であるとか、

高級住宅街にある貴族所有の屋敷に住んでいるとか、

女信徒を手籠めにしているとか、なんとも俗物的な噂……




「「「バチィッ」」」


第7区の往来で少年を庇い

中年の男性が殴り飛ばされていた。


「てめぇ、何のまねだッ」


「それはこっちのセリフです。

 何をしているんです。

 こんな幼い子らに」


「貧民街の獣人の連中は、

 すぐに盗みをしやがるから

 躾が必要なんだよっ」


どこかの商店の店主らしき中年の男性が喚いている。

その声の先には、獣人の少年と

教会の関係者であることを示している

黒く丈の長い服を身に纏った男性がいた。


「この子がモノを盗んだのですか?」


「……いや。

 しかし、……こいつらは貧しくて卑しい獣人だ。

 どうせ今やってなくても

 前にやってたかもしれねぇ」


神官らしき男性の質問に店主らしき男性が口ごもる。


「それは臆測で、しかもこんな小さい子を殴って

いい理由にはなりません」


神官らしき男性の強い言葉と視線に、

店主らしき男性がたじろぐ。

周囲にも人が集まって来てしまったことにも気付き、


「ちっ、

 もし盗みしてるとこ見つけたら

 ヒドイからな」


捨て台詞を残して足早にその場から離れていった。


神官らしき男性は立ち上がり、

怯え震えている獣人の少年を抱え上げる。


「大丈夫かい。

 おやっ、足と肘に擦り傷があるね。

 ヒール」


少年が怪我をしている所に手をあて、

ヒールと唱えると怪我はみるみるうちに治っていく。


それを見て、獣人の少年は目の前の男性が

神官であり、自分を守ってくれる存在だと認識したらしい。

震えていた体はさらに震えさせ、

せきを切ったかのように獣人の少年は声を出して

泣き始めた。


「大丈夫、もう大丈夫だから」


慰めの言葉を聞いても獣人の少年は泣き止まない。

その状況に少し困ったような表情をした神官だったが、

何かを思い付き、


「そうだ、お腹減ってない?

 ご飯食べさせてあげよう」


と優しく微笑みかける。


「うん、たべるっ」


元気な子供と共に、神官は少年と手を繋いで

その場を離れていく。


そして、第7区にある何の変哲もない家。


キレイにはされているが、質素な造りの灰色の外壁の

建物の扉を神官は開く。


「お帰りなさいませ、大神官様」


恭しく頭を下げ、かなり整った顔立ちに

十分な食事で整えられたふくよかさを持った

艶っぽいメイドが主人を迎えた。


「だ、だいしんかんさま」


獣人の少年は子供ながらに大神官というのが偉いことは

知っており、驚いたようだ。


「まぁ、神官と大差ありません。

 それよりご飯、ご飯にしましょう」


「うん、たべる」


ご飯という言葉を聞いて、昨日から何も

食べていなかった獣人の少年は嬉しそうにし、

大神官と一緒にキッチンの方へと歩いて行った。


二人が玄関から別の部屋へと入ると、

メイドはその後ろからゆっくり付いていく。


そして、明け放たれていた扉を

ゆっくり閉める。


この日また貧民街から獣人の子供が一人

いなくなったが、

身寄りのない子供を気にするものはいなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ