2-9新拠点
六太はシノギとラクアと一緒に物件探しに出かける。
公僕との徹底抗戦を決めた以上、
活動拠点の用意はせねばということ。
申請が3ヶ月かかろうがそれ以上かかろうが、
必ず国民になる。意地である。
ルクティの街が地元というシノギに相談すると、
おすすめの地区は第4区とのこと。
シノギ自身もそこに居を構えているらしい。
六太としては正直どこでもよかったが、
知っている人が近くに住んでる方がいいこともあろうと、
第4区に向かう。
商業ギルドの支部もそこにあるということだから
なにかと都合がいいかもしれない。
「このあたり一体を再開発するのさ」
「新しいショッピングモールができるらしいよ」
「ファイン商会の出資らしい」
日が沈む頃に
第1区から第4区の商業ギルド前までやってきた六太の耳に
路上で話している人のそんな話しが聞こえてくる。
再開発されるということは、この辺りの物件の価値も上がる。
住居にかかる費用があまり高くなるようだと問題だな。
六太がその点を若干懸念しつつも、
シノギに案内されて商業ギルドの建物内へと進んでいく。
商業ギルドの建物内部は、吹き抜けになっており、
酒や飯が食える場所、素材の売り買いができる場所、
商売についての相談に乗ってくれる場所などがあった。
相談窓口の側に不動産物件専用の掲示板があり、
賃貸や売買の色々な案件が貼り出されているのが六太の目に入る。
「どれどれ」
その内の幾つかに目をやると、……思っていたより高い。
やはり都会だからなのか物価が高い。
ソルダース村ならば50000ジェジェもあれば安い木造住宅くらい買えるのだが
ここではそうもいかない。
とりあえず、六太はざっと物件の情報を眺めてみると、
ある記載を見つけた。
【風呂屋が近いです】
「あれ、シノギ。
この風呂屋って、お湯が貯まってて
そこに入るっていう風呂でいいの?」
「うむ、このルクティの街でも珍しい施設なのに
六太詳しいな」
六太は探す物件の条件が決まった。
・風呂屋が近くにある
・割とお手軽な価格
該当しそうなのは結構な数があるが、
保証人なしで貸してくれるようなところはなかった。
国民申請する奴が、100ジェジェ払えるか確認されてしまう奴が、
保証人を持っていない可能性もあるのだから
そこんとこ鑑みて欲しい。…ホントに…
六太はままならないことに、少しばかり落胆した。
「六太、お前住む家がないのか?」
掲示板を熱心に見ていると、
六太を困惑させることをシノギが言ってきた。
これまでの会話でも六太は散々住む家を探していると
言ってきたのだが、関心がなかったのか
シノギの右耳から左耳に音が抜けていたようだ。
確かにこの街に入ってからどこか他の事に意識が向いているような
ぼーっとしているような状態だった。
しかしそれでもここまで来た理由すら忘れるとは。
六太はシノギに呆れつつも、彼女が少し心配になっていた。
「……ああ。
ソルダース村から申請のために一時的に出てきただけだし、
申請したらすぐ許可して貰えるもんだと思ってたから。
ただ、保証人なしで貸してくれるとこなくて
どうしようかと……」
「そうか。
なら、あたしの部屋の隣が空いてるから貸してやる」
「?その部屋保証人いらないのか?
もしかしてシノギの持ち物とか」
「厳密にはそうではないが、あたしの自由にできる部屋だ。
使わない部屋をただの荷物置き場にしているのはもったいないしな。
使う奴がいるなら貸してやる。ラクアも勿論使ってくれていい」
「ホント、ありがとう」
シノギが狼娘のラクアに抱きつかれて顔を赤く染めていた。
やはり【もふもふ】は、普段真面目な顔をした人すら
魅了する力を持っていると、六太は確信せざるをえなかった。
第4区の商業ギルドを後にし、徒歩4分くらい。
その建物は第4区の端の方に立っているが、
大通りに面しており立地は悪くはない。
建物は宿屋として利用されており、
年季は入っているもののボロイという印象より
味わいがある感じでなかなか六太も気に入った。
シノギの後ろについて最上階まで階段を上がってくると、
廊下の突き当たりの扉を開ける。
その扉の先には広い部屋があり、
そこから繋がる部屋の一つをそれぞれ使っていいと
シノギはラクアと六太に言う。
「ここって宿屋みたいだけど……」
「うむ。
まぁそうだが、この部屋については
私の家で、宿屋とは別になっている」
「はぁ~」
なんかただの冒険者っぽくない。
六太はシノギの素性については詳しくは知らないが、
少なくとも貧しい庶民ではなさそう。
商業ギルドで見た掲示板では、この辺りは、
賃貸なら一ヶ月7000ジェジェは取られる中堅クラス
といったまぁまぁの地区だ。
この部屋ならもっと高くても不思議ではない。
それを無料で貸してくれるなんて、シノギさん太っ腹と
厚く感謝をしてみる。
無料とは言われていないが有料とも言われていなかったので、
六太はちょっと言ってみた。
「誰がタダと言った、金は払ってくれ」
「……そうですよね、すみません」
お金を取られました。
ラクアの分も合わせて払うことに。
ラクアもお金がないわけではなかったようだが、
銀狼亭のガイさんソフィアさんに無断で連れてきてしまっている状況である。
六太は自分より年上ではあるものの、
ラクアの保護者としてとりあえず対応していくことにしていた。
『数少ない友達の一人だし、ちょっとくらいは面倒みるか』
『そうね。ここまでの道程では面倒みてもらいっぱなしだしね』
『持ちつ持たれつってことで……』
保護者気分で調子に乗りかけた六太だったが、
一瞬で相棒のミミーに叩き潰された。




