2-8徹底抗戦
スルイガ村を出発して約半月。
ようやく六太らが到着したルクティの街は、
それまで訪れてきたスルイガ村やシャス村とは全然違っていた。
人口数十万人の街は、その人達全てを収めているのだから、当然大きい。
ルクティの街をぐるりと囲む高さ5mはあろうかという外壁も作られており、
門を抜けると街が広がっていた。
人、人、人。
ソルダース村などに比べると、
祭りでもやっているのかというくらい人がいる。
「さすが東の州都だな」
「わぁ……」
六太もラクアも
田舎もの丸出しのような反応をしている。
六太にしてみれば、前世で記憶にある
都心に行った時に比べるとそれほでではないにしろ、
最近慣れていた人口密度と比べてしまい
驚いているようだった。
ちなみに、シノギは地元らしく特別な反応はなかった。
「まだ日も高いし、とっとと当初の目的を済ませようかな……」
六太はシノギにゴブリンハーフの国民申請ができる所を聞き、
荷車をそちらへと向ける。
しかし、すぐに六太らの足は止まった。すこし進むと、騎獣屋があったからだ。
今回の旅の目的の一つが、騎獣の購入であるから、早速寄ってみる。
ここまで来れば国民申請もそれほど急ぐ必要はない。
騎獣屋は馬用に比べると大きな厩舎を持っており、
そこに数頭の騎獣がいた。
覗いてみると、六太にとっては
見たことのない生物が山盛りてんこ盛り。
それらの値段もただの馬や牛の50倍は優にする。
六太は値札を見間違えたかと思い、3回は桁を数え直してしまった。
購入には、ヨルム金貨が十枚以上必要になりそうだ。
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金貨→100000ジェジェ
銀貨→1000ジェジェ
青銅貨→100ジェジェ
銅貨→10ジェジェ
鉄貨→1ジェジェ
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これだけ高いとすぐに購入を決断できない。
六太としてはどれを買うか少し考えたいところだ。
そもそも持ってきた素材などをお金に替えないと
現金がほとんどないことに気付く。
『そういや、今すぐは買えないじゃん』
『六太しっかりしてよ』
いつものごとく六太は相棒のシビレネズミであるミミーに
呆れられている。
現在販売されている騎獣は、
スレイプニル(ヨルム金貨15枚)
ヘルハウンド(ヨルム金貨12枚)
ゴーゴン(ヨルム金貨5 枚)
の3種類。
どうやらゴーゴンはまだ幼獣のようで、
また足も他と比べると速くないため
価格が落ちるようだ。
見た目もごついし少し人気が出ない理由かも……
「うわー、あれごついっ、ごつすぎるよ」
「うむ、あたしの槍が通るか試してみたいところではある」
「(う~ん悩ましい)」
「うわ、スレイプニル、足8本もあるし丸太並みに太っ」
「うむ、一回の斬撃で切れるか試してみたいところではある」
「(荷物を運ぶのなら一番適しているともいえるが……悩ましい)」
結局どれも今ひとつ六太にはぴんとくるものがなく、店を出た。
「100ジェジェです。払えますか?」
六太に蔑みの目差しを向ける男性がいた。
六太は、騎獣屋で結局価格と商品だけ確認するに止めて
街の中心部である第1区にある官庁を訪れた。
ゴブリンハーフの国民申請ができる窓口は
それほど混み合っておらず、六太の順番はすぐに回ってきた。
今回の旅のトッププライオリティ。このために旅してきたので、
六太も少し緊張気味である。
しかし、受付で対応してくれる男性は
六太に対してかなりバカにする態度をとってきた。
それも申請書の「ゴブリンハーフ」の記載を確認してからなのだが、
これには理由があった。
ゴブリンハーフは
数の少ないこともあり少し前まで二級市民扱いされていた。
現在のように一般市民と同様の扱いをされるようになったのは、
現女王が即位されてからである。
法律上は改善しても人の意識は変化に追いついていないことが多かった。
「100ジェジェなら払えます」
六太はお金を財布から出す。
受付の男性はその金を汚物を扱うように受け取ると、
「座ってて呼ばれるまで待ってろ」
そう六太に告げて次に待っている人を呼び込んだ。
申請書と申請費用をあわせて提出して待つこと5時間
…………待たせやがるよ、公僕めが……
六太のいらだちがいい加減諦めに変わる頃、
つまり受付の対応時間が終わる寸前に
呼ばれて一言。
「審査に三ヶ月かかりますので、
また来てください」
「はぁっ」
耳を疑うとはこのことだろう。
理不尽、意味が分からない。
六太が説明を求めても「規則ですので」の一点張りで
受付は閉ってしまう。
そのまま六太は受付の入っている建物からも追い出された。
誰もがこの街に住んでる訳ではないのに
このルール。
明らかに申請をできるだけ受理したくないから、
窓口で食い止めようとしてやがる。
もしかしたら、3ヶ月後にまた3ヶ月とか言われかねない。
半年は見ておいた方がいいかも。
「(そっちがその気なら、
待ってやる。絶対国民になってやる)」
六太はあまり争いは好まないたちではなかったが、
この公僕には負けまいと
徹底抗戦を決意した。




