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異世界の成金道  作者: (ちきん)
第二章ファイン商会と女モノノフと狼娘
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2-7冒険者ギルド

平原を貫くスルイガ村からルクティの街へと続く街道には、

所々に林が点在している。

辺りが見渡せない場所で夜を過ごすなど危ない、危険、デンジャラス。


しかし、日が暮れると林の側で野営をすることに。


「あまり開けたところだと、

 遠くから見つかり易い。

 それに最悪の場合

 林の中は逃げ場所にもなるからな」


そうシノギは説明した。

しかし、森ほどでないにしろ、林もあまり安全とはいえない場所。


いつ獣や魔物に襲われるか気が気じゃない六太は、

小動物のように物音が聞こえる度に怯えている。


「もう寝るといい。

 休める時に休まないと、

 いざという時動けなくなるからな」


六太の様子を見かねたシノギが声をかける。


周囲への警戒は

シノギやラクアには遙かに及ばないので、

六太も無駄なことせずにシノギの言葉に従った。


荷車の揺れは快適とは言い難く、疲労も溜まる。

横になれば、疲れに任せていれば

そのうち眠れるだろう。

六太は地面に藁を少し引き、枕を作り横たわる。


空を見上げると、

一面に星が輝いている。


この世界に来てから何度も見ているが、

本当に壮観である。

キレイだな~、凄いな~、なんて六太が

感動していると、段々瞼が重くなってくる。

そろそろ眠れそう……


「おい、六太」


「(寝てますよ)」


「おい、六太、起きてるか」


「(寝てますって)」


「おい六太」


「……はい、何すか(起きますとも)」


「ちょっと気になったんだが、お前はホントに商人か。

 商人の護衛はこれまでいくつかしたが、全く毛色が違う気がする」


「シノギ、六太はちゃんと商人だよ。

 だって何度もシャス村で素材売ったり買ったりしてるの

 わたし見かけたし」


「うむ……そうか、ラクアが言うならそうなのだろう。

 ただ、なんというのか、商人独特の押しというか

 人付き合いに打算がないというか……

 あまり熱心に人と接していないように思ったもんでな」


「そりゃ、人付き合いが得意じゃないだけで……

 (……ぼっちなんて引きこもってればいいのに

 出過ぎた真似してすみませんね)」


「うむ。ならば、六太の信仰している神はやはり【商売の神】か?」


「神?ああ、えっっと信仰している神はちょっといないかな。

 別に神頼みするようなことも今はないし……」


「なら早い方がいい。

 私の信仰しているのは「槍の神」だ。

 生まれた時より信仰しているといっても過言ではあるまい」


「(いや生まれたときはムリだろ)

 でもなんで早い方がいいんだ?」


「ん、そんなことも知らないのか。

 そういえばお前はゴブリンハーフだったな。

 じゃあ教えてやろう」


「神の祝福を得て

 スキルを手に入れるためだよ」


「むっ、うむ」


先にラクアに言われて少し頬を膨らますシノギ。

どきっ、かわいいかも。


「神の祝福を得られるかは神のみぞ知るところだが、

 それでも信仰に厚い者が

 受ける確率はそうでない者より高いといわれている」


「ふ~ん、でシノギはもう受けられたのか。

 『槍の神』からの祝福」


「ぐっ…まだだ」


がっくりと落ち込む。それはもう闇の中に溶け込みそうな程だ。

シノギに何気なく聞いた質問がここまで彼女の肩を落とさせる

とは思っていなかった六太は、さすがに申し訳なく感じていた。


「私は『狼の神』から神の祝福得たよ」


狼娘ラクアが割り込んできた。

しかも落ち込んでいるシノギを

さらに落ち込ませかねない発言だ。


「何っ。

 なんだ、どんな祝福だ。教えてくれ」


「んっ【嗅覚】スキル。

 普段は使わないけど、普通の狼よりも鼻が利くんだよ。

 毒だってわかるし、見張りにも役立つし、

 嘘ついている時の体臭の違いも分かるんだから」


「(ははっ。だからシャス村で

 ばれてついてこられてたの……恐るべし)」


六太はシャス村の門でラクアに待ち伏せされていたことの

理由をこの時知った。


「……それは凄いな……」


シノギのラクアを見る目は羨ましさだけでなく、

敬意すら抱いているようだった。


「そっか、オレも早く決めようかな

 (やっぱり、魔法とか使えるように

  そっち系統の神様でも信仰しようかな……)」


神様のことを考えていたら、いつの間にか寝てしまった。

六太は翌朝まで一度も起きることなく、

ぐっすりと死んだように寝ていた。


あまりの熟睡ぶりに、

シノギもラクアも若干呆れ気味であったのは、

六太は知らない。






ルクティの街の冒険者ギルドは

ガリアナ王国東の州都に位置することもあり、

周辺の街や村にあるギルドに比べると遥かに大きい。


そのギルドの長であるギルドマスターともなると、

その地位に就こうと思ってもそうはなれない要職である。


そんな偉いルクティの街のギルドマスターは

今日もパイプを燻らせている。

昨日も一昨日も同じようにしている。


彼は暇だったし、ほぼ名誉職といっていい今の立場は

そんな勤務態度でも問題になることはなかった。


「なんかないかのぉ~」


何かあっても特に動く気はないのに、

口癖のように独り言をいうギルドマスター。

白髪のその小さな体は、もはや歴戦の勇士だった面影はないが、

彼の持つ存在感はただならぬ爺であることを物語っていた。



3階にあるギルドマスター専用ルームからは、

建物の吹き抜けにより、

1階のギルドの受付・2階の酒場を見下ろせるようになっていた。


今日も忙しなくギルド内で職員が働いている姿を、

3階から愛用のイスに腰掛け眺めている。


今はただの爺さんだが、彼も元々は超一流の冒険者として、

ラノンベルヌと共に闘ったこともある豪傑。

そのときからの付き合いの仲間と飲むと

いつもこの風景が好きだと繰り返していた。


この活気こそが、街の発展の原動力であり、

冒険者が自由であることの証しであると。


ギルドマスターを喜ばせるように、

今日もクエストは専用掲示板にたくさん貼り出されており

次から次へとギルド会員らがクエストを受けるべく

受付の女性に申し出をしている。


「今日もいつものように活気があっていいわい」


ギルドでは、酒や飯が喰えるスペースも設けられており、

酔っぱらった連中は一日中いる。

うるさいことこの上ないが、ギルドマスターは笑いながら呟く。


「うるさいのぉ~、童どもが」


一眠りしようかと、用意してあるハンモックに乗ろうとした時、

ノックもなしに扉が開かれた。

そこには女性が立っていた。

現在このギルドを実質的に運営している

ギルドマスター代理の女性である。


「いやん」


「……爺、死にたいのか」


ギルドマスターのふざけた対応に血管を一~二本ぶち切るも

女性は悪態だけで我慢した。

そして、用件を告げた。


「ギルドマスター、緊急クエストの承認をお願いします」


緩みきっていたギルドマスターに冒険者の頃の締まった表情が少し戻り、

緊急クエストの概要を女性から報告されるのであった。






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