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異世界の成金道  作者: (ちきん)
第二章ファイン商会と女モノノフと狼娘
19/59

2-6あともう少し

ヨルチアの森はその広大さから

場所によって個別に名称がついている。


その一つに【ラノンベルヌの森】がある。


そこは、六太の目指すルクティの街の北東にある森を指す。


名前の由来は、

ガリアナ王国を襲った魔物の大氾濫を

英雄【槍聖】ラノンベルヌが

ヨルチアの森のその場所で倒したことからきている。


元々は人を全く寄せ付けなかった場所だったが、

【槍聖】ラノンベルヌの活躍もあり、

人は多くの食料などの資源をそこから得られるようになった。


それでも、ソルダース村のように普通の村人が入れるような

安全な領域はほとんどなく、依然として危険極まりない森ではあった。


もし普通の村人が行こうものならば、

自殺願望があるに違いないと断定されることだろう。


だが、冒険者達にとっては、

その危険と比例して得られる様々な素材や宝には

非常に大きな魅力があり、

今日も多くの強者達がラノンベルヌの森へ入っていくのである。










三番目の経由地スルイガ村。


村の大きさとしてはシャス村より少し大きい規模を誇る。

やはりガリアナ王国の東の州都ルクティの街がすぐ隣にあること

が影響しているようだ。


川沿いに作られたこの村は、

近隣の街や村に比べるとヨルチアの森からは離れているので、

森へのクエストを目的とする冒険者の数は少ない。

一方でその特徴である川を利用することよる交易が盛んな村だった。

荷物・人が集まり、流れていく。

多くの商人が集まり利用する村は、自然と大きくなっていた。


巷では「先にできたシャス村よりも早く【街】の指定を王国から貰えるのでは?」

と噂になっていた。



「うむ、それで宿はどこにするんだ」


「宿なら任せてよ、宿屋の娘として良さそうなの探すから」


六太達は数日の野営を経て、ようやくスルイガ村に到着した。

数日ではあるものの共同生活をすれば、決まることもある。


ヒエラルキー。

そう、上下関係だ。


『 冒険者シノギ > 狼娘ラクア > 六太 』


以上のような順位がこの集団の中に出来上がっていた。

シノギはラクアより年長であり、ラクアは六太より年長である。

そのため、この順位は別に不思議ではない。


ただ、シノギは六太の命の恩人でもあるが、

ラクアはあくまで六太にお願いして一緒に旅をさせてもらっている身である。

この順位は普通に考えればおかしい。


そう、普通に考えれば。


今回のスルイガ村~シャス村間の数日の旅で、

六太が役立たずであることが白日の下にさらされてしまった。

もちろん金主である六太が蔑ろにされることはない。


それでも、野営の準備などをほとんどシノギとラクアに任せてしまっている

ため、

六太も自ら一番下の順位でいることに納得したのだった。


そして、全てがシノギとラクアの間で決まっていく。


『あぁ~六太クオリティ』


『面目ない、ミミー。

 不甲斐ない主だが、これからも頼むよ』


『仕方ない。

 私がいないとホントあっという間に行き倒れちゃわないか不安だよ』


相棒シビレネズミのミミーからも心配される六太。

ほとんど、いや全くの足手まとい状態……いいのか自分っ。

六太が一人葛藤しているのをよそに、

シノギとラクアの話し合いで宿屋の候補が決まった。


貴族も泊まるような最高級店と庶民用の中では高めの店。

そして、眠れればいいだろう的な激安な店。


一応金を出す六太に3つの選択肢が提示される。

しかし、答えは決まっていた。


激安な店。これはない。

無駄使いはしたくないと考える六太であっても、

やはり寝心地や料理の質は少しくらい求める。


野営よりはましな宿であっても、

もう少しいいところでゆっくり疲れをとりたい。


そうなると、残りは二つだが、

さすがに貴族様の泊まるような宿はお財布への打撃が大きすぎる。


結果、残るはちょっと高い庶民用の宿が残る。


狼娘ラクアが一度は泊まってみたかったという宿。

近隣の村にもその高い評判が聞こえてくる庶民用の店(ちょっとお高い)。


「ふむ、なかなか心地好い」


「わ~、柔らかい、このベッド凄い柔らかいよ。

 どんな素材が使われてるんだろ?」


村の南西側に建っているちょっとお高い店。

そこでとれた部屋はデラックスツインルームで、

下級貴族なら泊めて問題ないレベルの質。

値段はその店の中でも二番目に高かったが、

質を考えればかなり割安なのかもしれない。


六太としては、できればもう少し安い部屋がよかったのだが、

あいにくこの部屋しか空いていなかったのである。


「えっと、オレのベッドは?」


部屋にあるベッドは二つ。


それぞれに冒険者シノギと狼娘ラクアが座っている。

そうなると、六太がどちらかのベッドで、一緒に寝ることになる。


もしや二人して誘っているのだろうか。

今夜に起きるかもしれない【ピー】や【ピー】なことを考え、

六太の顔はいつも以上に締りのない顔になっていた。


その顔の変化にシノギは気付き、眉間にしわを寄せる。

次の瞬間、ベッドに座っていた位置からあっという間に六太の側まで移動し、刀を抜いた。


六太の前髪が数本ぱらりっ。

視界に鉄っぽくて薄くて触ったら斬れちゃいそうなモノが大きく見える。

六太は息も止め完全停止した。


「分かってるだろうな。

 破廉恥なことをすれば雇い主であろうと

 体を半分に切断する。

 胴体かクビ、切断箇所ぐらいは選ばせてやろう」


その凄みは六太の許容範囲を超え、いっそ襲ってやろうかと考えたが、

すぐに生存本能が六太の命を守った。

エロより命。


「破廉恥なことはいたしませんっ。大人しくソファーで寝ます」


直立不動の姿勢で六太はシノギに答えたのであった。



その後は部屋でのんびりとくつろぎ、日が暮れる。

宿自慢の風呂でさっぱりとした六太らは、宿屋の食堂へと移動する。


高台に作られたこの宿屋の食堂は、スルイガ村を一望できる

リバービューを楽しめるようになっていた。


ウェイトレスに案内され席に座ると、すぐに食事が始まった。

川の幸をふんだんに使用した料理が並び、

高い評判通り、六太らの頬が落ちる旨さだった。


8級食材でもあるジョールという魚の旨みを活かし、

イーカラ草とシャキッシュ芋などと一緒に煮込んで作られたぴり辛スープ。

9級食材のチモチーモ麦を作って作られたもちもちのパン。

9級食材のパオポの実を使ったゼリー。


「……うまっ」


「なにこれ……」


「うむ、良い仕事をしている」


品数こそ普通の宿屋と大差なかったが、

高価なレア食材を存分に使い作られた料理が

六太らのほっぺたを落とすには十分過ぎた。


ただ、ヨルム銀貨2枚。


一泊500ジェジェ程度で泊まる宿屋が一般的なのに

この宿は一泊2000ジェジェ。


冒険者シノギにお礼を支払い、

だいぶ財布が軽くなった六太の財布は、

さらに軽くなった。


空っぽにならないことを祈りつつ、

六太は赤から黒へと変わっていく窓の外を見ながら

快適な宿屋を堪能してやろうと決めていた。






『そんな買って大丈夫?』


スルイガ村を出発する前に、

ミミーからも心配されるほど、

六太は色々なモノを買い込んでいた。


『大丈夫、大丈夫。

 ミミー達が調べてくれた情報の中で

 手堅そうな所を選んだんだから。

 それに増やせる時に増やさないと』


六太は荷台に買った荷物を運びつつ

ミミーに返事をする。


現在いるスルイガ村を出れば次は目的地のルクティの街である。


ガリアナ王国東の州都である大きな街は

抱えている人口も多く、様々な需要も多い。


それゆえ、何が高く売れるのかを

既に相棒のシビレネズミであるミミーに調査させていた六太は、

現金を出来る限り品物に替えていた。


香辛料などの素材を中心に

特にルクティの街で需要があるモノを

持ち金を限界まで使って仕入れをした。

賊にやられたらと不安もあったが、

そもそも賊にやられた場合命もなくなることに気付き

意味のないことを考えるのを六太は止めていた。


「こんなに買っていいの?」


「次が目的地だし、

 お金で持っていても増えないから」


「でも、高く買い取ってくれるとも

 限らないんじゃ……」


狼娘のラクアも六太の行動にびびっていた。

ちょっとびびってますが……きっと大丈夫……なはず……

既にルクティの街での買取り価格は調査済みなのだから。


交渉でよっぽど失敗しなければ、

予定では3倍に資産が膨らむ。

六太は手許に残したわずかな路銀を入れた

ほぼ空の財布を手に、しきりに心を鼓舞していた。


やはり最低限のお金しか

持たない旅というのは少し心許ないようだ。



そんな六太の様子や行動を見ても

冒険者のシノギは興味がない様子。


六太が買い込んだモノで狭くなった荷台から

周囲への警戒を怠らない。


最終目的地ルクティの街へと続く街道を

六太らの荷車は進み始めた。





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