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異世界の成金道  作者: (ちきん)
第一章カンガール食堂と未亡人
13/59

1-12一段落

ミーアは、六太をガスティと同じように

とても人のいい少年だと思った。

六太くんの後見人であるガスティさんが

カンガール食堂の食材調達に出かけて亡くなり

二人にはとても申し訳ないことをしてしまったと後悔もした。


それでも、六太くんは私に何を言うこともなく、

それまで以上に私とシャルの力になってくれた。

父親が亡くなりふさぎ込んでいたシャルも、

六太くんが仕事を手伝ってくれるようになってからは

外にも出てお手伝いもいつも以上にしてくれた。


でも、まだ少年であり、

村長の息子から私達を助けてくれるような

救世主になってくれるとは思えなかった。


「森の中に連れて行かれるのを見かけたんで追いかけて

 連れてきたんですよ。

 !

 そうだ。そこの村長の息子と取り巻き連中、

 最近この周辺に出る山賊らしいんで

 警察……じゃなくて騎士…に引き渡してやりたいんですけど

 ……騎士でよかったでしたっけ?」


「え?……ええ、山賊なら騎士に引き渡せばいいわ」


ミーアの張り詰めていた気持ちが緩む。


「……」


その後の言葉が続かず、ミーアはどうしていいかわからず

突っ立ったまま止まっていた。


すると、目の前の六太が顔を赤くしながら


「すみません。服来てください。

 シャル連れて玄関の方に行きますんで」


ミーアはやっと自分のあられもない姿に気付き、

急いで床に散らばっている服を着る。


ちょうど服を着終えると同時くらいに、

扉を叩く音がする。

ミーアは急いで扉を開けると、

六太からシャルが渡される。


「ああっ、あっシャルシャル」


もう離さないようにシャルを抱きかかえた。

もしかしたらもう抱けないかもしれないと思った愛娘。


こんなに早く彼女に出会えたことに堪えきれず涙を流してしまう。


「ありがとう、ほんとうにありがとう」


部屋の中に入り、いつの間にか

村長の息子の手足を縛っている六太に向けて

ミーアは精一杯の感謝を口にする。


「二人とも無事でよかったです」


本当に目の前の少年は人がいい。

ガスティさんといい六太くんといい、

こちらが困惑するくらい親身になって接してくれる。

果たしてこの恩にどれだけ報いることができるかわからない。


ミーアは泣きながら微笑み、


「ありがとう」


今はその言葉を心を込めて言う。






シャルが母ミーアの元に戻った少し後、

ソルダース村は騒がしくなった。


村長の息子とその取り巻き連中が

騎士に突き出されたからである。


ただ、取り巻き連中は現在使われていない森の小屋にいたため、

翌日になってから村長の息子とは別に捕まったのだが、

それは瑣末なことだ。



ガリアナ王国では村の治安維持のため

王国から派遣され駐留している騎士がいる。


これまで村の中での村長の息子の目に余る行いに対しては

役目を十分には真っ当できていなかった。

しかしそれも

ソルダース村界隈の街道に度々出没するようになった賊のため。


周囲の村の騎士と連携しながら

街道での警備に多くの時間が取られ、

村の内部に手が回っていなかっただけとのこと。


ある意味、そういったことも計算していたという

村長の息子にしてやられてしまったところはあるが、

決して仕事の手を抜いている訳ではない。


国の財布で動いている騎士だけに

あまり多く配置できないのだから、

騎士個人ではどうしようもない状況だったようだ。


なにより定期的に配置転換がある騎士より

賊であった村長の息子や取り巻きには地の利があった。

彼らは昨年から度々街道で行商人などを襲っていたらしく、

騎士もなかなか尻尾を捕まえられず困っていたとのこと。



「これが賞金だ」


「はぁ、結構ありますね」


「なに、お前さんのおかげで

 忙しかった仕事もようやく一段落するんだ。

 決まった賞金しか出せないのが心苦しいが、

 これで我慢してくれ」


ソルダース村の騎士の詰め所に六太は呼ばれ、

騎士から村長の息子や取り巻き連中の賞金30万ジェジェを

受け取った。


騎士の持ってきた金額は

一般庶民ではなかなか持てないものである。

それを貰えることになり六太も嬉しいが、

それよりなにより親しい人が穏やかに暮らせるように

なったことが喜ばしい。


「(これでガスティの願いも少しは達成できたかもな……)」


六太は賞金の入った袋を持って

詰め所を後にする。





村長の息子と取り巻き連中が捕まってまもなく、

ソルダース村の幹部であった彼らの親は皆

要職を退き、村を出て行った。

そしてその後釜に座る人物も現在はいない。


全ての村人は村長の息子らに対抗する気概はなく、

火の粉が我が身に降りかからないようにする

普通の人達であった。

それゆえ彼らは誰も進んで村の要職に就こうとはしなかった。


村人皆が集まり新たな村の長を決めようと、

教会の場所を借りて話し合いをしていたのだが、

なかなか結論が出ず膠着状態が続いていた。


「君がなるのがいいのではないか?」


ソルダース村の騎士が六太に提案してきた。


「?どうしてです」


「君が今回の事件を片付けたんだし、ねぇ」


「でもまだこの村に来て一ヶ月くらいしか

 経ってないです……」


周囲の村人達も


「さすがにそれは」


「1ヶ月前に来たまだ少年じゃ……」


と難色を示した。


「しかし、他のモノは誰もやりたがらん。

 今回の件からもこの少年の働きぶりは

 悪くないと思うが、まぁ新参者というのも事実ではある。

 ならば、ミーアさんならどうだ、やってみんか」


突然の提案に驚くミーア。


「私ですか。しかし、私では力不足ではないでしょうか」


「なに少しの間村長の息子連中に色々やられて店も

 閑散とはしちまっていたようだが、

 ミーアさんあんたも亡くなったご主人のギルも

 村人達からの信頼は厚い。

 それにそこの少年の新たな後見人になったのだから、

 彼を補佐役にして力を合わせれば

 きっとカンガール食堂もこの村も

 もっと良くなるんじゃないだろうか」


騎士の提案は


村長→ミーア

補佐役→六太


というモノ。


ソルダース村はあまり大きい村ではない。

それゆえ、村長や補佐役はそれほど忙しくなく、

ミーアがカンガール食堂を営業しながらでも

どうにでもなるような立場であった。


「ミーアさん、ほんとにすまなかったね」


「村長の息子らがあんたにしていたことを

 見て見ぬふりをしていたんだ。

 そんな連中にこんなこと言われてもと思うかもしれんが、

 あんたなら出来ると思うし、私らも出来る限り力を貸すよ」


「やってみてはもらえないかね」


教会に集まっていた人々からミーアを推す声が

そこかしこで挙がった。


「ミーアさん。やってみませんか?」


「六太くん?」


六太も村人の声に賛同し、ミーアに村長就任を勧めた。


ミーアとシャルを取り巻く状況は

村長の息子らがいた頃は孤立無援で夜逃げのような

ことを考えるものあった。

しかし、

現状最も憂慮すべき点であった村長の息子らが捕まったことにより

彼女らを取り巻く状況は一気に好転していた。


カンガール食堂の資金不足は

六太が賞金から出資すると強引に押し通した結果

解消。

村長の息子が作ったライバル店も取りつぶし。


そして、とうとうソルダース村の村長就任にまで

話しはとんとん拍子に進んでいたのであった。


「分かりました、お引き受けいたします」


ミーアは村長就任を受諾した。

ミーアにしてみると、カンガール食堂を運営だけで

十分忙しく、村長就任は負担がかなり大きいと考えていた。

それでも、ソルダース村で、

夫のギルとの想い出がたくさんあるこの地で、

これからシャルと一緒に長く生きていくには、

力が必要であることも事実であった。


「では、異義はありませんな」


ソルダース村の騎士の発言に、

教会に集まった村人で異義を唱える者はいなかった。


「皆さん、私には身に余る大役かもしれませんが、

 ソルダース村のため力の限り頑張りますので

 ご指導ご支援よろしくお願いします」


村人の視線を一身に浴びるミーアの姿は、

これまでの少し大人しい女性というイメージではなく、

強く生きる覚悟を持った凛々しさがあった。


そして、どさくさに紛れてというか

いつの間にか村長補佐という立場になっていた六太であったが、

村人の誰からも意識されず就任が決まってしまった。




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