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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
勇者おちょくり計画
95/133

夜の帝都は騒がしく

 頭と身体を揺さぶる、重低音と衝撃波。

 巨大な爆発音に眠っていた住民の殆どが飛び起きた深夜の帝都。


 人々が起きてからの行動は様々で。

 固まる者、安否を確認する者、慌てる者、避難する者、野次馬に出掛ける者、戦いに備える者、二度寝する者、気付かず眠り続ける者。




「……爆発?」


 此処に居るのは、呆ける者。


 上半身を起こし音がした方を向いたまま、ハッキリとしない頭でぼーっとする。



 数秒後、ようやく脳が覚醒。



 村瀬春斗は咄嗟に枕元に置いた剣を手に取ると、灯りのついた室内を見渡した。


 慣れない豪華な部屋。

 地位が高そうな人の肖像画。

 二つの人影。


 春斗は既にベッドから出ている仲間の姿を確認して安堵すると、武器をベッドに放り投げ、二人に倣って着替えを始めた。


「拓哉は念の為、現場の確認に行ってくれ。俺達は女子と合流して城に待機する。確認したら急いで戻ってきて欲しいが、人命優先で頼む」


 最年長の安田遊は早々と軽装を身に纏うと、春斗ではないもう一人の仲間と打ち合わせを始めた。

 ようやく眠気の吹っ飛んだ顔をして着替えだした春斗を横目に、春斗も聞いている前提で話を進める。


 悪いと思いながら、春斗は装備を急ぐ。



 早々に着替え終わっていた舞原拓哉は遊の指示に了承の意味で頷き、扉ではなくテラスに出る扉窓に手をかけると、もう一つ、確認のために振り向いた。


「犯人がいた場合」


「……人命優先、だ」


 微かに笑みを浮かべた拓哉。

 テラスに出ると迷いなく手摺りを乗り越え、足場が無いはずの空中に着地すると。


 駆け出し、深夜の月明かりの中へと紛れて消えた。



「んじゃ、こっちは女子ズと合流して皇族の護衛かな。春斗……春斗?」

「なんだ?」


 怪訝な顔で名前を呼ぶ遊に、春斗は首を傾げた。

 装備の着付けに変なところでもあったかと身を捻って確認するが、慌てたなりにはちゃんとしている。


 顔を上げた春斗は、遊が春斗自身ではなく、使っていたベッドを指差している事にようやく気が付いた。


「剣、光ってるぞ」

「……あれ、本当だ」


 枕元から取った時には気が動転していて気付かなかったが。


 確かに今、鞘を含めて剣全体が淡く光を放っている。



 不思議なのは、ギフトの能力でしか戦わない春斗の剣は実践では使わない稽古用で、特別な銘も縁もない露天の安売り品だということ。

 あまりにも使わないので何度も宿に置き忘れては仲間に怒れることを繰り返し、剣の稽古が日常になってようやく忘れ物しなくなり、今日のような咄嗟に手にするような行動は初めてなほど。新しい進歩である。



 なんでだろうと再度剣を手にした春斗はしかし、扉を叩く音で現状を思い出し、取り敢えず持って行って帝国の鑑定か何かのギフト持ちに確認して貰うことにした。


「女子より身支度に時間が掛かるとは。こりゃ、水森ちゃんに怒られるかもな」


 やれやれといった遊の言葉に、春斗も苦笑いで扉を開けた。






・・・






 空を駆ける拓哉が着地したのは、倒壊した建物と野次馬を見下ろせる大型な倉庫の屋根。


 驚いたことに、軽装で空から一直線で来たはずの拓哉より早く、甲冑を着た帝国騎士の部隊が到着して活動を始めていた。

 なるほど、倒壊したのはどうやら騎士団所有の建物で、新たな騎士が近くの建物からぞろぞろと吐き出されているのが倉庫の上からよく見える。

 この倉庫も、もしかしたら騎士団の物かもしれない。



 疑われるのもなんだから、倉庫から降りよう。


 倉庫周辺で人目が付かない場所を探すためぐるりと見渡した拓哉は、倉庫と同じくらいの高さがある貴族か大商人の豪邸の上。


 偶々、同じように倒壊した建物を見下ろしている人影に気が付いた。

 当初、豪邸の警備か身軽なハンターの野次馬だと思い気を逸らした拓哉、だが。



 雲の切れ間から月明かりが人影を照らした時、表情を変えて宙を走り出した。




 人影の主も気付いたのか、此方に向かって空を走る拓哉に何の戸惑いも躊躇いもなく、弓矢を射る。


 その矢も普通ではなく、夜の帳を切り裂く一筋の閃光。

 一矢一矢がそれぞれ色違いの光を放ち、七色で一巡するようだ。



 あの日には無かった光。



 空中で上下左右に回避するものの弓とは思えないほどの濃い弾幕に避けきれず、直撃しそうな一本だけ、飛ぶ斬撃で斬り落とした、が。


「ぐっ」


 謎の光には魔法のような効果が秘められているようで。

 赤い矢を斬った拓哉は矢の爆発に巻き込まれて体勢を崩し、追撃の青い矢が当たった肩当てが凍り付く。


 背後から爆発音などは聞こえないので、どうやら効果には何らかの発動条件がある様子。


 あの時は矢から光など出ていなかった。

 どうやら野盗の群には手を抜いていたのだと理解したと同時に、今の自分にはそれなりに相手をしてくれるのだと、拓哉は歯を食いしばって意識を強く保つ。



 墜ちるに任せて空中で身をよじりながら追撃を青い一本以外避けきり、着地と同時に今度は地面を、空中を、障害物を織り交ぜながら豪邸の屋根を目指す。


 爆発する赤い矢。凍り付く青い矢。雷を纏う緑の矢。地面を抉る黄色の矢。軽い誘導のかかった透明な膜を纏う矢。光が太く当たった箇所で炸裂する白い矢。闇に紛れて見えづらく、効果不明な黒い矢。



 避けるものと迎撃するものを見極め、着実に近付く。



 弓を射辛い建物の真下からは壁を一気に駆け上がり、急接近した拓哉はまず厄介な弓の破壊を狙った。


「シッ!」


 甘くない相手だと判っているからの牽制で、まず避けて距離を取るだろう……と拓哉は考えての攻撃。




 しかし、まさか。




 真剣に対して矢をつがえていない弓本体で受け流されるとは夢にも思っていなかった拓哉は驚愕と共に大きな隙を晒すと、強烈な前蹴りを腹部に食らい、四階はある豪邸の屋根から再び地面へと落ちた。



 地球でなら、死んでいたか、重傷を負っていた。



 完璧な受け身。

 レベルという概念で強くなった身体。

 肉体を使うギフトに付属するらしい身体強化。


 直ぐに立ち上がれるほどのダメージで済んだ拓哉は急いで屋根に上がるが、既に人影は消え。


 豪邸の庭や建物内から人の気配が強くなってきたため、未練たらたら、その場から立ち去ることにした。




 弓を使い、王国と帝国の境で野盗を全滅させた仮面の女。


 野盗退治自体は善行だ。

 今回も、建物を倒壊させた現場を見たわけではない。


 つい、何故かは分からないが、カッとなって斬りかかってしまった。

 だが先に攻撃をしたという意味でなら相手が先で、根拠は無いが、あの女が今回の騒動に関わっていると拓哉は半ば確信していた。



 ……騒動。



 ハッとし、全力で城に向かって空を駆け出した。


 熱くなって忘れていた。

 あの女が何者かは知らないが、仲間がいる可能性を、城を襲っている可能性を忘れていたからだ。









 その頃。

 帝国城にて。


「フハハハハハ! そんな柔な攻撃でこの帝国皇帝を殺せるとでも?」


 一人の皇帝が全力でハッチャけ。



「……これ、僕たちいる?」


 勇者ハルトは、残った仲間と共に茫然と立ち尽くしていた。

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