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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
勇者おちょくり計画
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勇者おちょくり作戦、起動

 一両の馬車が、帝都の正門をくぐり抜ける。






 出入り口に相当するものが見当たらない不思議な造りの、とある密室にて。


「勇者の到着が確認された」


 此処は帝国情報部、本部。

 扱われている物の重要度は帝国でも屈指。そのため末端の情報部員には本部の場所が知らされず、情報部自体が都市伝説として帝国民にすら囁かれる中、逆にそこまで隠す必要があるのか疑問に思うほど秘密にされた施設。


 帝都の中にあるのだが、他勢力が一度も踏み入ったことがなく、無所属の者が偶然でも見つければ幹部候補生として勧誘される領域。常に新入部員募集中なのだ。



 隠された施設で、更に隠された本部中枢。

 帝都探検をしていた仮面の子供が「秘密基地みっけ」と気軽に入ってきた時、世界最高峰の諜報部隊が一人の少女に堕とされた、まさにその瞬間である。



 ダメ元で勧誘して案の定断られた少女から譲られた一冊の本を開いたまま、長は淡々と告げる。


「……これより、作戦を開始する」


 本をパタン、と閉じた音を合図に。


 長以外の全員が、その部屋から姿を消した。






 騎士団長は、本を閉じた。

 この日のために鍛え上げた部隊を集めるように指示を出し、数分。


「諜報より、目的の到着が知らされた」


 緊張する部下たちを前に、激を飛ばす。


「訓練の日々を思い出せ。これは私にも不可能な、まさにお前たちにしか出来ない特別な仕事だ。敵の能力に惑わされぬよう、各自、気合いを入れて行けよ」


 返事と敬礼の後、持ち場へと散開する騎士。

 団長はその背中を見送り、また本を開いては、何かを書き足した。






「始まったみたいだね」


 帝都の一つ前の街で勇者一行に「帝都に来たらまずは城へ。何なら滞在も城で」と伝令を渡してあるので、勇者は宿にも寄らずに一直線に城を目指している筈。


 既に着飾っている皇帝陛下が居るのは、謁見の間の裏側。

 皇族の待機室であり、もしもの場合は避難所にもなる部屋。


 本を置き、格好付けるためにワイングラスを片手にする。

 グラスに注がれているのは、この日は奮発して玉露。




「勇者か……ソラのせいで、いまいちワクワクできんのぅ」


 同じく謁見に参加するためドレスを着ているが、王族でありながら窮屈そうにしているお転婆皇女。


 相も変わらずキャラが迷走中。




「今回の勇者は仲間付き。七代目の精霊は期待できそうにないから、むしろその仲間に期待かね」


 謁見には参加しないが、帝国城で待機の魔王様。


 皇帝とは友好国の王として知り合い……という以上に、宿に泊まる金が無いから、家賃が払えなくなって友達の家に居候する悪友の如く、ソラに会うのにも便利だからと居座っている。

 魔王と名乗ると話題になってしまうので、ソラの友人として滞在中。

 それで城に泊まれてしまう辺り、皇帝は勿論、城で働く使用人や騎士からのソラへの信頼が窺える。諦めともいう。


 精霊の元の付き人である七代目勇者を思い出そうとするも、頑張っても顔が出てこない。聖剣の力が弱いかった事も印象の弱い一因だが、魔王が七代目と出会った時は既にお付きの騎士にべったりで、普通の女にしか見えなかったのが最大の理由だ。




「……どうして私、此処に居るのかしら?」


 おっぱい魔女のカタリナさん。

 急激なレベルアップにより急成長した身体の動きに、それまで通りに動こうとする頭がついていけない。戦士によくあるそんな現象によって基礎から訓練し直す羽目になった仲間を王国に置いて、ソラの計画のお手伝い。


 それなのに何故か。


 ソラ経由で帝国第一皇女から招待され、客人待遇でお城に滞在中。




「……」


 そして最後に、カタリナの仲間で同じく魔法職である、エルフのネルフィー。

 訓練の必要が無くて暇で暇で、何をやるかも知らずにカタリナにくっついてきた。


 そして、性格も趣味も合わないはずの皇女と謎の意気投合。

 見た目年齢はソラを含めて合致しているが、年齢不詳のエルフ、実は高校生のソラ、見た目通りの皇女、という順。


 今は皇帝と皇女の真ん中、皇女寄りという謎の席で、皇女による対皇帝ガードとして活躍している。

 皇女の父親が何とも言えない表情で横目に見ても、マイペースにお菓子をポリポリ。






 そしてぽつりと、皇帝は呟く。



「……で、ソラはどこだ?」






・・・






 ピコンピコンと点滅して重要なお知らせを伝える半透明なウィンドウを無視したソラは、ベルと二人、テーブルに置かれた凶器を見つめる。


「むむむ。まさか自分の武器が弱点とは」

「いえ、普通なら死んでるから。回復して無傷でしょ」


 銃弾が脳天を貫通。

 なのに、銃痕はない。


 ソラのHPが、拳銃一発分の固定ダメージ分である千、減った。最大HPが十万というインフレ、さらに自動回復が毎秒単位で働くので大したダメージではないのだが、それでも確かに減ったのだ。

 防御力もインフレして、一般人が鉄の剣で斬りかかってもノーダメージのソラが、だ。



 それでも、たったの千。ベルには大した事とは思えない。


 むしろHPという謎の数字が減ると死ぬ、生物とは懸け離れたソラの能力に興味津々。



 首を横に振るソラ。


「甘いよベル。ペルギルの自動回復はダメージ中とよろけ中は回復しない仕様……連続で受け続けると回復できないんだよ」


 ベルに銃を握らせ、銃口を自分の額にくっつける。




「ベルが百回、連続でこの引き金を引いたら、死ぬんだよ」




「……そうね、ごめんなさい」


 ソラが伝えたいことを理解して、ベルはソラの手を解いて銃を下ろした。



 剣の達人は一般人でも殺せても、既に人類とか生物とか、そんな次元を超越した存在であるソラ。

 油断した所を背後から刺されても、高いところから落とされても、火炙りにされても、水に沈められても、マグマに入っても、真空でも、電流の中も、土に埋めても、隕石に当たっても、核分裂する中に飛び込んでも。


 そんな存在を、誰にでも殺せる方法。




「まず、銃を他に配るのは絶対に止めよう」

 と、ソラ。


「私が持つのも、可能なだけ弱いのにしましょう」

 と、ベル。


 二人は話し合う。

 仮定でも、無駄でも、少しでも可能性があるなら。






 蘇生させる方法を幾つも持っているソラが生きているかぎり、ベルは死なない。





 『Persona not Guilty』には様々な武器やアイテムがあり、それが現実になれば無限の可能性があった。





 ソラが生きているかぎり、二人はずっと一緒なのだ。









 対策の話が終わり、のんびりとする二人。

 メイドにお茶の準備をしてもらい、繁殖した小さい方の植物魔物『マリモ』を指でつついて反応を楽しんだり、ソラ秘蔵の日本産チョコレートを食べたり。


 本格的な対策は検証の後、じっくりやるだけ。


 視界の端で点滅するアイコンに気付いたソラは、何となくそれを開いた。



「あ、勇者のこと忘れてた」


「……居たわね、そんなの」


 まあいいかと、二人は存分にまったりした。



 謁見が終わり、勇者一行が部屋に案内され、王国の王城とは桁違いな帝国城の豪華さに改めて驚いている頃。


 一風呂浴びた後、身体がほかほかしたまま帝都入りしたのであった。



【勇者で】勇者おちょくり計画【遊ぼうぜ】



967:お茶の皇帝

ソラは何処だぁ!

謁見普通に終わったぞゴラァ!


968:屋根裏担当忍者

勇者に異常なし

無駄だとは思うが手が開いている者は捜せ


969:正門担当露商忍者

今日の仕事が終わったので捜してみます。


970:街娘風クノイチ

生娘だ! 生娘を餌にすれば現れるぞ!


971:お水のクノイチ

>>970 情報部に処女は貴重だぞ!


972:使用人見習いクノイチ

行き遅れの女騎士をひん剥いちまえ!


973:人妻風クノイチ

>>972 駄目だ。ソラ様は意外と面食いだ。


974:学生クノイチ

処女じゃなくても美人なら平気だって!

もしくは、城に滞在しているハンターを……!


975:断崖のクノイチ

>>974 ハンターの無駄肉なんか、もいじまえ!


976:休日のクノイチ

皇女付きの近衛騎士って美人集団だよね?

あの噂、流しちゃいます?


977:ドリルな女騎士さん

>>976 ソラ様に「ガチ」認定した人もいるので、噂では弱いかと。

作戦のためなので、仕方なく、隊長を脱がせます。


978:使用人見習いクノイチ

>>977 因みにこの人、認定された人。


979:街娘風クノイチ

ソラさん発見! ベルさんと普通に商店街を歩いてます!


980:女の隊長さん

裸にひん剥かれたのはお前らのせいか!?


981:休日のクノイチ

>>980 あ、980、次の板立てお願いします。


982:西門の暇な騎士

>>970-978

女って、怖い。


983:女の隊長さん

( -_-)


次スレ

【増える】勇者おちょくり計画【犠牲者】



 

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