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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
勇者おちょくり計画
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「格上との戦闘経験と、無意識によるギフトの使用」


 湯船に仰向けで浮かぶソラが、天井に向けて呟く。


「戦闘は密度と回数が大事。日を置くよりも、連続した戦闘のほうが効率的。格下との戦闘も無駄ではないけど、ハングリーウルフだっけ? あの狼の経験値が一だとしたら、前のダンジョンのネズミ一匹で三百くらいかな」



 温泉に髪を浸けるのはダメだったと思い出したソラはポーズを変えようか少し悩みながら、口を止めない。



「本人はギフトの使い道が分からないって言ってたけど、ソラちゃん的にはあれ、英雄らしくて良いと思うよ」


 文章で事細かに調べられるソラとは違い、実感でしか調べられない本人が正確な効果を把握していないからか、ギフトを使っている所を見たことがない。



 キューティクルからダメージ具合、長さやパーマやカラーまで自由自在に変えられる、ゲームのキャラメイキングアイテムを使えばいいかと結論付け。



 お湯に身を任せながら独り言を続ける。


「“英雄”っていうのはどうやって付くのかよく分からない称号の事なんだけど。“英雄”“勇者”“魔王”にはそれぞれ効果があるみたいで、英雄の効果はズバリ、レベル補正の強化」



 メイキングアイテムの上位互換。キャラの性別から身長、体型、肌の色。

 一からキャラを作り直せるアイテムは、自分で使うのは怖いから止めておこう。


 この完璧な身体に、不満なんて無いからね!


 お湯に浮かんだまま、天井に向かって決め顔。



「レベル五十で『体力測定で小学生が高校生の記録が出せる』くらいだとしたら、英雄称号持ちなら『小学生が陸上と水泳の世界新を総塗り替え』くらいにはなるのかな。この世界のレベルが思っていた以上に役立たずなのと、それを化け物に変えちゃう英雄の怖ろしさ」


 五十といったら難易度普通のRPGでラスボス倒せるよね!

 と、異世界では伝わらない喩えを叫ぶ。


「レベル五十、騎士団長とか熟練ハンタークラスらしいけどさ。小学生じゃなくて大人だし、オリンピックで全種目の代表になれるくらいかな?」


 ……確かに凄いけれど、地球人と比較できるようではドラゴンなんかとは戦えない。

 肉体だけではなく魔法がある世界だから、実際はもっと強いのだろうけども。


「オード。今のレベルが二百とちょいかな」


 爆上げ成功。二百もあれば流石に、本人の運動能力によってはファンタジーな動きも可能である。

 一般人には観戦者視点でも初速が見えない踏み込みとか、五メートルジャンプとか、一秒で五連突きとか、飛んできたナイフを素手で握って無傷とか、銃弾を剣で弾いたりとか、ビルから飛び降りて綺麗な受け身を取るとか。


「……多分だけど、能力値の補正は勇者よりも英雄の方が高いみたい。だから、今の・・勇者パーティーなら無傷で単独撃破できるくらいには強くなったよ」


 なら、勇者より英雄が強いかといえばそうでもない。

 今はレベル差によりそうなっただけ。


 反則的な強さを持つ『聖剣』でギフトが統一された勇者と違い、英雄のギフトは個人によって違うというのも理由の一つ。

 英雄のギフトは通常の検査機では正確に表示されないという問題があり、“英雄”にならなければ、“英雄の卵”ままではギフトが本来の力を発揮しないという仕様。


「“英雄の卵”に補正とかが何一つ無いっていうのも原因だと思う。あれだね。最初は弱いけど、覚醒イベントをこなすと最強クラスになるキャラって感じ」


 その覚醒したギフトも、歴史上、聖剣以上の能力を持つものは無かった。






「それで“魔女”さん。に報告しちゃう?」


 ゆったりとした動作でお湯の中に座ったソラは。



 お湯に浮かぶ二つの球体に目が吸い寄せられるがまま、自重せずに、ガン見。




「無いわ」


 湯船の縁に後頭部を乗せてタオルで目を被ったカタリナは、邪な視線に気付かない。



 ソラは最近になって知ったのだが。

 “魔女”というのはただ魔力が多いだけの人間の女、という訳ではないらしい。


 人間と魔族が和平を築いてそろそろ千年だというのに未だに“純人至上主義”というものを掲げている国の、ただの人間が魔族に対抗するために生み出された新たな人種。生物兵器。人間の可能性。聖なる加護。魔族への天罰。人造魔族。悪魔の諸行。道具。



 それが、称号“魔女”を持つ者。



 そんな国から、何らかの方法によって見つけ出された“英雄の卵”を監視するために送り込まれた魔女、カタリナ。




「なんで?」


 刑罰が厳しそうなイメージのある国なのに、カタリナの反応はあっさりとしたもので、ソラは肩透かし。


 報告をされると何となく嫌な事になる予感がしていたソラは、口封じに使おうと、わしゃわしゃと準備運動していた指を止めた。

 口封じのためにわざわざ聴かせた上で「聴かれたからにはしょうがない」と、定番の台詞を言いたかったのにと、少し残念な気持ちになった。



 つまり、胸を揉みたかったのである。



「『流れ星』に入って心変わりした……って言えたら、格好良かったのかもね」


 自分の冗談に苦笑いを浮かべ、タオルを持ち上げて縁に置く。



 そして、思い浮かべただけで手の中に現れる本を出して、その本を、わざと温泉に落とした。



「長い歴史の中で一人しか持たなかったといわれる幻のギフト。それによって作られた武器は『不壊属性』と呼ばれ、絶対の地位を築き上げた」


 本はお湯の中であるのに、文字が滲みも、紙がぐしゃぐしゃになることもなく。


「それとよく似た、けれど全く違う性質の武器を量産。そしてこの前のダンジョンで見た、それまで私たちには能力を誤魔化していたのだと分かる圧倒的な力。帝国を中心とした強力なパイプ。自由度の高い転移魔法……」


 そこで言葉を止め。



「あなたは一体、何なのかしら?」






・・・






 一人になった湯船で、ソラは考える


 ソラが初めて会話をした異世界人である『流れ星』の面々には、嘘で塗り固めた出生を騙り、召喚されたということを隠していた。

 最初は情報を聞き出すだけの関係で、能力の把握していなかったあの時、『流れ星』のパーティーがおかしなメンバーであると気付けたのは僥倖だと思う。


 だが、カタリナにはあれが嘘だということ。そして召喚され、特殊なギフトを手にしたことを話した。

 カタリナは仲間にも国にも話さないだろうという<直感>の下、それなりに詳しく、この先の展望と、協力を。




 ロールプレイングゲームでは、よくあること。


 物語の序盤から名前が出てくる敵の親玉、その背後には更なる強大な敵が、という方式。



──召喚に紛れ、未来の英雄を生み出す手助けをし、現在では唯一の勇者召喚を行えるラクーン王国第三王女を連れ出し、ガングリファン帝国の皇帝一族と贔屓になり、密かに帝国での影響力を広め、勇者を誘導し、魔王と出会い……。



 ギフト、レベル、魔法、英雄、魔王、勇者、召喚……。



 ソラとベルは、話し合った。



 この世界、ニートルダム。

 地球と比べた時、明らかに浮くのがギフトとレベルの存在。

 それは召喚された勇者一行を見れば分かるが、この世界に来てから身に付いた特殊能力だ。


 ソラがベルを連れて地球に行って調べた所。

 地球でもベルのレベルとギフトは健在で、召喚されていない地球人には、ソラの眼で調べた限り、レベルとギフトの表記が無い。

 地球人にもレベルとギフトがあるのに地球では封印されている、なんていう可能性も無くはないが。ニートルダムから地球に来たのに封印されないことから、その可能性は低いと考えている。



 ニートルダムに来たことで付加されたと、暫定ではあるが結論付けた。




 それがもしも本当だった場合、実は──






──何も起こらない。


 地球とは違った法則だとか物質だとか考えるのが現実的で、次に“神”と呼ばれる存在が居たところで、だからどうした。そいつが何をした状態である。




 例外は、一人だけ。




 レベルも、ギフトも、おかしいのは。




 一人だけなのだ。

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