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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
勇者おちょくり計画
89/133

海を隔てて

2014.11.22 脱字修正

 ソラが魔大陸へと飛び立った、その日。


 全速力で飛ぶからと、館に取り残されたベル。

 普段はメイドたちに頼んでいる、ギフトで捕らえた魔物の世話でもしようと思い立った。



 まず、一軒家が空から落ちてくるソラの不思議な魔法の欠点を補うために捕まえた、緑の球体と根っこだけの変わった魔物。

 水と栄養を十分に与えれば鉢植えから出たり襲ったりしない性質で、ベルの魔物を操るギフトがなくてもよほど物臭な人間でもなければ簡単に育てられる、ちょっと変わった観葉植物である。


 日当たりの良い空き部屋に鉢植えを置き、世話はメイド長のソフィア。



 そしてもう一匹は、ソラがフェレット擬きと呼ぶ、長い身体に意外と大きな耳を持つ焦げ茶色した毛皮の魔物。

 こちらは可愛らしい見た目とは裏腹に意外と凶暴な魔物で、ギフトによる契約者であるベル以外、実力が認められなければ全く懐かない暴れん坊である。


 飼い主であるベル。

 一目で腹を見せ降伏したソラ。

 力試しに飛びかかり、ワンパンで沈めたソフィア。


 それ以外の館の住人には、つまり三色メイドには全くこれっぽっちも懐く気配が無い。

 シフト制の餌やり当番の度に仲良く喧嘩をしている。



 一度だけ檻から脱走して、使い魔仲間である植物の魔物──ソラ命名「マリモ」に襲い掛かったこともあるが。

 現場をソフィアに目撃され折檻されて以来、大人しく三人のメイドだけを標的にしている。


 知能が意外と高かいフェレット擬き。


 因みに、飼い主が放置しているせいで名前はまだ無い。




「大きくなったわね」


 晴れた日は陽当たりの良い場所に移される、マリモの鉢植え。

 玄関先に置かれた鉢植えを一階の窓から眺めるベルは、マリモの育ち具合に感想をこぼした。


 根っこを空へと伸ばし、元気良くウネウネと動かすマリモ。


 育ち具合に驚いたというより、引いた。


 捕獲時には、女性が片手で持てるような窓際の小物置きに並べられる、可愛らしいサイズだった筈が。



 床に置くタイプの、移動の度に重労働な、立派な観葉植物へと育っていた。


 いくら人を襲わないような安全な魔物とはいえ、この大きさになると軽く身の危険を感じる。とにかく近寄りたくはない。


 ソラが好き(?)そうな、立派な触手である。



 犯人は判っているのだ。



「……」


 ベルがジトっと睨む。


 睨まれたメイド長は。


「御安心を」


 外見だけクールに、一礼。


「しっかりと株分けしております」


 掌サイズのマリモがうねる特注の小型鉢植えを片手に、素知らぬ顔。


 それでもジト目のベル。


 礼をしたまま冷や汗を掻くソフィア。


 元気に蠢く外のマリモ。


 心なしかゆっくり蠢く小さなマリモ。



「……余ったお肉、マリモに食べさせたわね」


 下げた額から床へと汗を垂らすソフィア。


 持て余したとはいえ、それは最高級の熟成肉。

 その余りの美味しさに絶滅したと思われていた牛型の魔物を、熟成に最適な環境が全て整えられている奇跡の天然洞窟でじっくりと寝かせた、此処でしか作ることが出来ない幻の熟成肉だ。


 安定供給できて地球で売れば、和牛ブランドと戦争になるであろう品質だ。

 運搬できるのがソラだけ。

 産地が異世界。

 生産者がオーガなので公表が難しい。


 地球進出へと立ちはだかる壁は、あまりにも高い。



「ソラ、貴方たちの夕食にもデザートを出しているそうね」


 料理と女の子が好きなソラは、「私のメイドになれば毎日スイーツが食べられますよ作戦」を仕込み中である。


 普段はスキル補正全開の手料理でハートを鷲掴みに。


 忙しくなればインベントリに食材入れてボタンを押すだけで出来る、ゲームアイテムのスイーツを出せば良いのだ。

 ソラの手料理ほど美味しくはないが、そこは物珍しさで補えるのが異世界の強み。

 料理に関する生産システムは、作るのが面倒な料理……というかツィーバ餌付け用『クラーケンのあたりめ』くらいにしか、普段は使われていない。


 前のやたら豪華メンバーな会議の本当の目的は甘味による女子勧誘作戦だったという、ソラとソフィアだけの秘密。

 会議後のパーティーで招待客の使用人にも料理と甘味を振る舞い、何も知らされていない三色メイドが勝手に普段の生活を宣伝してくれるという。


 それが宣伝になるほど、この世界の女子は甘味に飢えているのだ。



 そしてソラは、旅先に居ても『ゲート』でひょっこり帰ってくる。



「今夜のデザート、抜きね」



 複数に増えたマリモ達の世話はメイド長に一任して。

 株分けした子マリモを主人に内緒で村人へと流し、村内で大繁殖させた後だと自白したメイド長。



 デザート抜きは一週間に延びた。




 フェレット擬きを偶には檻から出してあげようかと裏庭へ向かったベル。


 裏庭へと続く扉の前で、足を止めた。

 メイド戦隊の地味担当であるグリーンの声が、外の檻がある辺りから聞こえてくるのだ。


 見た目は可愛らしい小動物。

 過剰な餌やりでフェレット擬きまで肥えているのかと呆れるベルだが。




「よし、赤いのが来たらちゃんとやるんだぞ」


 同僚への悪戯に、例の肉をご褒美に芸を仕込んでいた。






 二人分の浮いたデザートは、赤いのと黄色いのが美味しく頂きました。






・・・






「案外、普通な感じ?」


 魔大陸と言うからには、常に暗雲が垂れ込んでいたり止まない雷雨だとか血の川だとか原色の動植物なんかを想像していたソラ。


 黒い翼を折り畳み、その期待外れな大地に着地した。



 ピクニック日和の海岸線に、普通の港町。

 砂浜は海の魔物を警戒してか人気が無いが、漁港と市はどこも同じように賑わっている。


 海の方から物凄い速度で飛んできた黒い翼の少女に漁師や買い物客の視線が集まるも、本人は気にせず売り物を見ている。




 帝国の僻地から飛び立った、僅か三十分後のことである。


 距離的には、羽田─サンフランシスコ間くらいか。


 メニューからマップを開き、洞窟のマークで書かれたダンジョンの位置を確認。まずは一番近いところに行ってみるつもりだ。



 買い物はいいかと飛び立てば下からどよめきが起こったりもしたが、やはり気にせず、今度はゆっくりと飛ぶ。

 魔王城を見てみたい気持ちもあったが、魔大陸と同じで期待外れだったら嫌だなぁと後回しにしてダンジョンまで真っ直ぐに行く予定。


 城下町は普通の街並みだが魔王城は本当に魔王城であることを、ソラはまだ、知らない。



 移動はダイジェスト。


 鳥型魔物の群れに突っ込んでみたり、女の子にグリモワール渡したり、暴れてる巨人を蹴飛ばしたり、野生の馬の背中で仁王立ちしてみたり、、魔物と魔人の戦いを観戦したり、乱入したり、悪魔憑きに間違われたり、面白そうな人にグリモワール渡したり、帰ったり、偉そうな男を囲む女性たちを見つけたので男を殴り倒したり、歌ったり、踊ったり、祭りに参加したり、戦争に参加したり、お昼寝したりで、到着した。



 大陸間を三十分で移動したのに、その四分の一もないダンジョンまでで五日も消費した。






 ──で、目的のダンジョンはというと。





 ダンジョンには財宝目当ての挑戦者が集まり、いつしか街が築かれ、魔大陸の観光名所になっていると聞かされていた。



「なに、この秘境感!?」



 地殻変動の影響で生まれた、大地の切れ目。


 落ちたら──一般人なら──命が無いであろう深い崖の、絶壁の中腹にぽかりと口を開けた横穴。

 その口からは特別な目が無くてもぼんやりと見えるほど濃密な魔力が溢れ出て、そこが魔物の巣、ダンジョンであると主張している。


 中の魔物を狩らなければ溜まり続ける魔力。

 一般人が視認できるほど濃い魔力なら、発見されているダンジョンの中でも最上級の難易度を誇るであろうことは間違いない。



「ダンジョン饅頭、ダンジョン煎餅は!?」




 漏れなく記入されたご丁寧なマップのお陰で新発見のダンジョンに辿り着いたソラは。

 ダンジョン街にあるという、勇者伝来の定番すぎるお土産を期待していたのに、酷く裏切られた気分になっていた。


 当たり前ではあるが、このダンジョンにお土産屋など、無い。



 そのせいでソラが八つ当たり気味になったとしても、それはダンジョンの責任ではないはずだ。




【一狩り】ダンジョン探索者募集【行こうぜ!】


1.ひみつの仮面さん

本日、ダンジョンアタックを計画しております。

腕に覚えがある方、迎えに行くのでここで参加表明してね。



2.ひみつの緑茶さん

一度は行ってみたいが、跡を譲ってからだな。



3.ひみつの緑メイドさん

ひもじいです



4.ひみつの緑さん

動けないから無理です



5.ひみつの誰かさん

↑緑3連チャン記念カキコwww

緑さんって誰だよwww



6.ひみつの悪魔さん

>>5

貴方が誰だよ



7.ひみつの百合さん

>>6

呑気に書き込みなんてして。

隠れてなくていいのかい?



8.ひみつの騎士さん

流れを断ち切って申し訳ない。

参加したいのですが、適正レベルいくつですか?



9.ひみつのハンターさん

ダンジョンは気になる。

けど5の人の正体と、悪魔と百合の関係がもっと気になる。



10.ひみつの戦死さん

レベル80くらいのダンジョンなら挑戦してみたい



11.ひみつの緑茶さん

戦死さんのレベルが異様に高いことが気になる。

けど死んでるのかよwww



12.ひみつの新米剣士さん

ダンジョンで腕試しは夢だけど、ソラさんと一緒なんて無理です。

ダンジョンも異様なレベルのはず。



13.ひみつのあっこ様

絶対に100超えのダンジョンだから止めときな。



14.ひみつの蜘蛛さん

この板、変わった名前の人が多いですね



15.ひみつのあっこ様

勝手に改変されましたが魔女です。

ソラと一緒なら死んでも平気だからと、ウチのバカが参加を悩んでいます。



16.ひみつの秘密さん

そういえば蘇生できるんだっけソラ様。

何でもアリだよね、あの人。



17.ひみつの誰かさん

ソラちゃんレベルカキコはよwww



18.ひみつの騎士さん

誰かさん、チャラいな。



19.ひみつの緑メイド

ソラ様、早くごはん



20.ひみつの悪魔さん

この誰かさん、多分ま



21.ひみつの蜘蛛さん

悪魔さん?



22.ひみつ×5のあっこ様

思考入力の途中で間違えて書き込んだみたいだわ。

恐らく、百合貴族に見つかったのね。



23.ひみつのハンターさん

やばい、どっちも気になる。



24.ひみつの戦死さん

ハンターさん、ついにダンジョンは気にならなくなった様子



25.ひみつの仮面さん

偵察してきた。

レベル300のネズミが群れてた。弱かった。

なんかよく分からない宝石ゲット。


こんなダンジョンですが、いかが?



26.ひみつの騎士さん

辞退します。



27.ひみつの戦死さん

辞退で



28.ひみつ×4、ひみつのあっこ様♪

誰が行くかそんな地獄。



29.ひみつの緑茶さん

書類に緑茶噴いたwww


一から書き直しだお。



30.ひみつの新米剣士さん

自分のレベル十倍の……ネズミ……



31.ひみつの騎士さん

>>30

おい、30で新米は無いだろ。

そしてレベル30が30に書き込むな、ややこしい。



32.ひみつの新米剣士さん

元は魔法使いで最近剣を持った新米剣士。

番号については申し訳ない。


……それ、俺のせいか?



33.ひみつの蜘蛛さん

参加者ゼロ?



34.ひみつの誰かさん

調査のため参加する。

というか、ボスならまだしも雑魚で300のダンジョン?


魔王としては、調べなければ大問題だな。



35.ひみつの百合さん

お騒がせしました。

無事確保したので、悪魔抜きで続きをどうぞ。



36.ひみつのハンターさん

魔王!?

というか確保ってなに!?


きーにーなーるー!!!



37.ひみつの戦死さん

ハンター、お前ってやつは……



38.ひみつの枢機卿

付き人を参加させます。

そして胸をかじられろ(はーと)



39.ひみつの秘密さん

参加してソラ様に付きまとえば……?

ソラ様とデートできる上に、レベルアップを……?



40.ひみつの魔女さん

ハンター、誰かとか百合よりも>>19>>39を気にしなさい。

古参で新規もほとんど知ってるつもりだけど、誰よコイツ。



41.ひみつの蜘蛛さん

あ、魔女さん直った



 

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