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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
勇者おちょくり計画
88/133

○○化フラグ

2014.11.21 日本語がおかしな文を微修正

 気が付けば、召喚から九ヶ月。

 実はそんなに経っていた。



 勇者を巻き込む世界的な事件を画策する。


 その言葉だけを聞けば、どうやっても悪役。

 だが、必然、運命である『勇者の災厄』をコントロール可能な範囲に収めるには、欲の無い誰かが黒幕となって操るのが手っ取り早いのだ。


 漫画などでよく出てくる、世界の為に必要悪を演じるオッサンみたいに。


 ボスが渋いオッサンだと良い人のパターンも多いが、自信家な若者、マッドな学者、派手なオバサンは、大体が身勝手な理由で組織を作ってる気がする。偏見だが。



 ソラの場合も世界のためとは言ってはいるが、ソラという人間は「好奇心」と「百合分」さえ満たされればいいのだ。

 サブカルチャーの中では碌な事にならない世界征服に、意義を見いだせないのもある。


 圧倒的な力を背景に皇帝を顎で使い、魔王を味方に、宗教を広め、組織を配下に、民間人までその内側に。


 宗教は、何かに目覚めた騎士が勝手始めたファンクラブが拡大したもの。

 グリモワールは破格の性能を誇るが、いつかのための根回しではなく、女の子中心に友達になれそうな人に配っているだけ。


 本人が好き勝手にやっている内に、いつの間にか世界征服への土壌が整っていただけなのだ。


 異世界に──自発的に──放り出されたのに、ゲーム能力のせいで衣食住が整いすぎていることも、理由のひとつではあるのだろう。


 これがゲーム能力無しだった場合。

 情報を集める、身体を鍛える、お金を稼ぐ、仕事を探す、家を買う……。


 それ以外にもソラは<翻訳>スキルのお陰で苦労していないが、言葉の壁だってあったのだ。

 勇者一行は王国で勇者語──日本語を話せる学者を教師に言語学習から始めたからこそ、旅立ちまでに半年も掛かったのだ。





 しかし、だからこそ、勇者にあってソラには無いのだ。



 異世界、その醍醐味であるはずの冒険要素が、全く。



 一人ならマッハで飛行。

 くぐれば到着『ゲート』。

 冒険をするまでもなく手に入る強力な武具やアイテム。

 最強と名高いドラゴンを秒殺。









「そんな訳で、冒険してこようと思う!」


 探検隊っぽい衣装に、仮面代わりに分厚いゴーグルを付けたソラ。

 右腕を挙げ、そんなことをのたまった。


 一瞬そちらを見たベルだが。


「メイド長の料理は、相変わらず男らしいわね」


 野菜がゴロゴロとしたスープの具を匙で持ち上げ、一口で食べようか悩み、止めてスープに戻した。


「料理人の雇用を考えましょう」


 主人である筈のソラが料理上手。

 しかし、主人に毎日のご飯を作らせるわけにはと、持ち回りで料理するメイド四人。


 男らしい豪快な切り方と味付けの長。

 普通に料理下手なレッド。

 唯一作れるのが雑草料理という謎のグリーン。

 何でもかんでも甘くするイエロー。


 メイド長万能説を期待するソラに、ソフィアは多大なプレッシャーを受けている。



 無視されたソラは、ショック、という表情を顔に貼り付け。


「ベルが苛める……」


 部屋の角に行き、しゃがむ。

 そして今の感情を口からウジウジと出そうとしたソラは。


 ぴたりと止まり、首を傾げ。



「……苛められるのも、そんなに嫌でもない?」



 ベルの冷たい視線にも、ソラは身をよじってデレた。



 気持ち悪くデレるソラを見ながら、それでもソラがやると何処か可愛く見えるのは何故だろうと考えるベルに。


 ソフィアは生温かい目を向けながら食器を片付ける。






・・・






 そして探検隊は、とうとう辿り着いたのだ。


 大地に聳える秘境の奥地。


 探検隊を待ち構えるかのように大口を開けた、幻の竜の住処に。



「……此処、あの白龍の住処よね」


 同じ格好をさせられたベルが、ソラの独白に応える形で呟く。


「千葉さーん、オススメの冒険スポットってない?」



 千葉さんことツィーバは、のっそりとした動きで入口に首を回し、溜め息。



 ソラにぶちのめされたツィーバは、ソラから食べ物を融通して貰う代わりに麓の鬼と和解し、ついでとばかりに仕事を押し付けられていた。


 それが、飛べる利点を活かし、面白そうな場所や生物を探しては報告すること。


 最初に「無害で動かない小さな魔物」という難題を与えられた時は、荒野にて、人類が発見していないがために種族名がまだ付けられていない植物型の新種を紹介して、成功した。

 他のドラゴンにプライドを捨てて聞いたり、帰ってくれば人間が巣を掃除してくれていたりと、何かと思い出深い仕事であった。



 そして今度は、「ソラが楽しめそうな冒険スポット」。


「無いな」


 ……と、口から出せたらどんなに楽なことか。



 また探しに行かないと駄目なのかなと考えたツィーバだが、ふと、ちょうど良さそうな場所に思い当たる。


「グア(それなら)」


「あ、ちょっとタイム」


 話の腰を折ったソラは、インベントリから取り出した──他から見れば突然手のひらに現れた──巨大な金属の鎖を、ツィーバの身体によじ登っては巻きつけた。


 突然の行動にも、ツィーバは身動ぎもせずになすがまま。


 反抗は無駄。


 それにこの小さな化け物も、仲良くしている限りは殆ど無害だと知っているからだ。

 知るまでに何度か尻尾を掴まれて回されたり投げられたりもしたが。



「よし、続けて」


 空はぴょんぴょんと器用にドラゴンの上を跳ね、地面に下りた。


 この自由気侭な振る舞いは、ドラゴンの幼体に通じるものがあるとツィーバは思う。

 思うが、成体よりも桁外れに強い、そしてこの化け物は、ドラゴンも油断できない勇者の召喚に混じって現れたそうだから。


 もしかしたら、最強種などと驕るドラゴンの鼻をへし折るために召喚されたのではないかと、ツィーバはいらぬ心配をする。



 長寿故の癖で思考に耽ってしまったのは、悪手だ。



「続けろよ」


 ソラに、人間なら生命に関わる強さで蹴られる。


「イタいっ」


 そしてドラゴンの怖ろしい口から、人間の言葉が飛び出たのであった。



「成功だね。<翻訳>スキルの効果付きアクセサリ」


 『Persona not Guilty』で実際にあった装備品である。

 <翻訳>はメインストーリー上で欠かせないイベントの必須スキルなのだが、合成することによって<高速詠唱>という魔法使い御用達スキルになるのだ。

 他のスキルでもあることだが、イベントで使う度にいちいち合成を解いて元のスキルに戻してからイベント後にまた合成するのが面倒。


 そんな時に便利なのが、スキル効果付きアクセサリ。


 数あるスキル付きアクセサリ中でも特に有名なのが、<翻訳>スキルだ。


 <高速詠唱>付きアクセサリの方が早く手に入ってしまうというゲームあるあるのせいで出番が全く出てこないことで有名な、不憫アイテム。



 それをツィーバの大きさに合わせた、ツィーバ専用装備である。


「これでベルも千葉さんと会話できるよ」


「ハロー」


 突然振られたベルは何故か勇者語で「陽気な挨拶」を意味する言葉を発する。


「……ヘロー」


 適当に返した筈が、やたら発音良く翻訳される陽気な挨拶。



「それで、オススメの冒険スポットは?」


「ん、ああ、冒険か」


 口から出る違和感のある声に困惑しながらも、先程言おうとした場所を告げる。


「魔族の大陸には、誰が造ったのか判らぬ洞窟や塔があるそうだ。そこには魔物が住み着き、人間が使うような武器などが落ちているという」



「ダンジョン!?」


 ゲーマーの叫びに、確かそんな名前だったなぁと朧気に思い出すツィーバを置いといて、ベルを抱っこして飛び上がるソラ。


「それは行かなきゃ異世界じゃないよ!」


 お姫様抱っこされたベルがツィーバに手を振り。


 よくよく考えると可笑しな台詞を残して、二人は『ゲート』に飛び込んでいった。







 残されたツィーバは自分の声に違和感を覚え、ネックレスを外そうと頑張ってみる。


「……外せない」


 頑張ってはみるものの、ドラゴンの身体の構造上、どうやって首の後ろに手が届かない。



 諦めて寝そべる。



 ふと、鳴いてみる。



「……ぎゃおー」


 ……迫力が出ない。




 ニートルダム世界のドラゴンというものには、雄や雌といった区別が無い。

 学者が言うには「二匹の雄が一匹の雌を巡って争っただけで大陸が滅ぶから」だそうだ。


 理由はともかく、つまりツィーバは、オスでなければメスでもないのだ。



 ないはずなのだ。




「どうして我から、人間のメスの声が……」



 製作者の趣味としか、答えられない。

女体化フラグ

 

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