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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
勇者おちょくり計画
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秘密の会議

 勇者一行が帝国へ向け、再出発した頃。



 仮面の館にて。


 今日が世界の明暗を握る分岐点になると言っても過言ではない、とある秘密の会合が開かれていた。



「まず大切なのは、いかに勇者を面白おかしく冒険させるか、です」


 この会議には、豪華メンバーが勢揃い。

 帝国からは騎士団長と情報部総括、そして有り難みがすっかり失せた皇帝直々の参戦。皇女と侍女も居る。


 司会進行のソラと、傍らで議事録を取るベル。


 その他の人もグリモワール所持者という共通点以外に、確かな身分の人々が数十人は居るのだが、帝国勢も揃って、何故か仮面を装着している。




 ホワイトボードに黒のマジックで、勇者プロデュース、と書く。



「質問」


 細身の男が挙手。


「はい、忍者さん」


 ソラに忍者と呼ばれた情報部総括は、座ったまま口を開く。



「勇者に構う理由が分からないのですが」



「はい、良い質問ですね」


 

 勇者プロデュースの下に赤のマジックで、理由、と書き足し。


「これは、歴代勇者が召喚された理由と成し遂げた偉業を羅列すれば、自ずと正解に辿り着くでしょう」


 ボードをひっくり返し、真っ白な裏面。

 忍者さんの目にも見えない速さで、ホワイトボードは文字で埋め尽くされた。



 ここでニートルダムに於ける勇者史の授業、簡易版。




「初代は魔王討伐のために喚ばれたが、魔族と和平を結んだ」


「二代目は、初代亡き後に現れた新魔王を名乗る雑魚……失礼、魔族を何とかするために喚ばれ、何故か初代魔王が勝てなかった魔物を討伐」


 ゲームでいう無印(1)と続編(2)。

 特に二代目の、最後によく分からない敵が唐突に現れる辺りが、実にそれっぽい。



「問題はここから」


 既に書かれている三代目という文字を、マジックで叩く。



「三代目は特に理由が無いのに“初代から五十年後に二代目を喚んで、二代目召喚から五十年後だから”という、王国と聖教会が密接に絡む政治的理由から喚ばれました」


 結果、現代知識チートに奴隷との純愛の末、王国と帝国を含む多数の国で奴隷制を廃止し、それで儲けていた聖教会の裏を暴く。


 物作りを生業、又は知識を溜め込む人だったのか。

 上下水道や水洗トイレ、火薬、銃器、エレベーター、自転車、自動車、汽車……。

 その発明や考案は数え切れず、ソラが一番感謝している勇者だ。



「そのまた五十年後。乱心した邪龍の討伐にと召喚された四代目は、相討ちで死亡。勇者の死が物議を醸し、そもそも勇者に頼らなくても邪龍を討伐できたのではないかと騒がれる。前のと合わせた失態から、これ以降、勇者召喚に聖教会が絡まなくなる」


 因みに四代目、ソラの嫌いなハーレム勇者。

 チートでハーレムで、最終戦では味方のドラゴンに乗って戦うという、まさに王道。


 ハーレムに王女などが居たことが、後の大騒動の起こりである。



「五代目も、またまた五十年後。理由は賢者の悪ふざけ。軍人かミリオタかな? 革命軍を設立して大陸南部を統一。帝国に次ぐ大陸二位の面積を誇る連邦の初代大統領となる」


 勇者という地位以外で一番の出世。

 ただ残念なことに、召喚された理由と、さらに使ったことがなかったギフトを試してみたら聖剣が出て、あらビックリ。

 味方に騒がれて勇者だと知れ渡ったのが戦争後期という、何ともいえない残念感。


 そのため、勇者としての知名度はいまいち。



「六代目。王国の王子が隠し部屋に迷い込んだら偶然に偶然が重なって召喚しちゃった、日本でトラックに轢かれそうになってた強運系勇者。偶然にもこれも五十年後。大陸に隠されてた超弩級の魔法陣を偶然にも破壊。計画を狂わされた邪教徒に命を狙われるも、強運だけで切り抜ける」


 歴代勇者で味方にするならこの勇者一択、とはソラの弁。

 偶然だが、唯一日本に帰れちゃった勇者でもある。



「七代目。やっぱり特に理由は無いけど、初の女勇者。仲間の騎士と恋に落ちるも、勇者を欲したとある王様の策略で騎士が死亡。激情により聖剣に宿った精霊が暴走して国一つを更地に。歴史書だと我を忘れた勇者を他の仲間が殺したことになってるけど、実際は更地の中心で勇者と一体化した精霊を捕獲しただけ。ラクーン王国の教会で最近まで封印されてましたとさ」


 あ、精霊の捕獲とかは帝国の秘密文書か。

 そんな今更な独り言に頭を抱える忍者さんと他多数。皇帝は開き直って笑っている。


 悲劇として美化されてるけど、個人的には逆ハールートのフラグ管理ミスで自爆だと思う、とソラ。



「予言のギフト持ちが一斉に魔物の氾濫を予言。前回からは流石に控えられていたのでなんと三百年の空白を置いた八代目は、聖剣しか使えない、魔法が一切使え無い無能逆転系勇者。聖剣の出力解放なんていう裏技で範囲攻撃を確保。ライバルの天才魔法剣士の女の子とくっ付きます。爆発しろ」 


 変に間を空けたから、勇者はギフトの名前通りに剣でしか戦えないと誤解される。

 聖剣というギフトは剣と名前に付く割に、意外と形や大きさに融通が利くそうだ。



「九代目は謎の勇者。誰が何の目的で喚んだのかも謎。むしろ本当に召喚されたのかも謎。何をやったのかも謎。ただ、 聖剣の目撃証言から勇者であることは確実。前回の勇者から二百年後、今から二百年前らしい。なんと去年も目撃されてた謎勇者。情報部の方々も困ってます」


 なんか私と被る気がするという独り言には、全力で首を横に振る一同。


 ソラは迷い込み系かなと密かに予想しているが、現時点では王国の召喚以外、勇者どころか転生や憑依も確認されていないので、謎だ。




 九代目まで書かれたホワイトボードをひっくり返して元に戻し、十代目、と。



「十代目も喚ばれた理由は特に無し。召喚に巻き込まれた強ギフト持ちの日本人を仲間に、七代目勇者が融合したと思われる精霊を聖剣にした。例外尽くしの勇者くんです」


 区切りの十だからシリーズ物の大規模リニューアル時期だよ、とはソラ。


 一番の例外はお前だよというツッコミが会議室に轟……かない。


 みんな、怖いのだ。

 ソラ本人ではなくて、ソラをけしかけてくる、議事録を書いている人が。




「歴代勇者を調べれば分かる通り、喚ばれた理由が無くても確実に何かしらの大事件に巻き込まれます。それは各国の問題から世界規模まで、何が起こるか予測は不可能」


 ホワイトボードを手の平でバンッ、と叩いた。


 その行動に、特に深い意味は無い。


「その問題を防ぐため、予めこちら側で勇者召喚に相応しい大事件を、勇者や大多数の一般人には関与に気付かれない、制御可能な範囲で起こしてしまおう」



 呆れる大人。

 目を輝かせる子供。

 ただ一人だけ、表情を変えないベル。



「その内容を考えるのが、本日の集まりです」

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