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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
幻の景色
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待ち伏せる者たち

 最初に気が付いたのは、馬の分だけ目線が高くなっていた剣士。


「前から来る奴、様子がおかしい」


 人影は一人で、フラフラと今にも倒れてしまいそうになりながらも此方に向かって歩いてくる……獣人。


 馬車に馬を寄せて警告している間に、もう一頭の馬が先駆けして様子を確認しに行き──慌てて馬から飛び降りてその獣人を抱き止めた。


 声を掛けて足を止めさせる、急患を装う、罠を仕掛ける。

 そんな盗賊の常套手段かもしれないのに迂闊すぎると、剣士は慣れたように呆れた。


「怪我人だ!」


 ……次の一言、だ。


 それで、剣士の行動は決まる。

 片手は剣に。片手は手綱に。



「──戻ったところの村に、武装した集団が向かっているそうだ!」


 剣から手を離した。


「偵察してくる。怪我人だからと油断するなよ」


 治療したところで豹変する可能性も捨てきれないが、それは仲間を信じて大丈夫だろう。



 剣士は、怪我人と──勇者を通り過ぎ、獣人が来た方向へと馬を走らせた。






・・・






 シートの上にベルと寝っ転がりながら水晶玉を眺めていたソラは、勢い良く立ち上がると、今の気持ちを高らかに叫んだ。



「想・定・外!」



 勇者が怪我人を拾うとこまでは<占い>で判っていた……のだが。


 うっかり、怪我人がどうして怪我を負うのかを調べ忘れていた。


 怪我人さん、ごめん。



 状況から察するに。


 服装や場所から考えて、怪我人さんは、国を跨いで行商をする一団の団員だと思われる。

 武装集団を相手に仲間の犠牲で命辛々逃げだすことに成功し、満身創痍で集団とは逆方向に逃げてきたのだろう。魔物のいる世界で道から逸れるというのは賢くない選択だから、この行動は正しいだろう。


 怪我人を装った罠は無いとソラは断言する。

 ただの<直感>ではあるが。



 それよりも気になるのが、言葉を喋れる程度の怪我を負った生存者の存在。


 これから村を襲うという情報を、洩らしたのか、聞かせたのか。

 一人を、取り逃したのか、わざと見逃したのか。

 どうして襲撃に、真昼と呼んでもいい時間を選んだのか。


 ……勇者を待ち伏せしていた所が、ソラ以外にもいた、という可能性。




 獣人の村が標的とあらば、暢気に衆人の前で・・・・・ベルとイチャコラしている場合ではないのだ。

 映像の消えた水晶玉をインベントリに仕舞い、替わりに取り出したホイッスルをピーッ! と鳴らした。


「プランA中止! 現時点を以て本作戦はプランC『個別対面』『剣士編』へと移行する! 各自、作戦行動を開始せよ!」


 草むらや木陰へと叫べばわらわらと、そこら中から湧いて出てくる人、人、人。

 黒装束、忍者、黒子、ハンターの軽装、貴族風、村人風など、その恰好は作戦と登場人物の数だけ様々。



 パチクリと瞬きするベルと、その人数と異様な服装に引いているソフィア。


「まあ、村は大丈夫だよね。この人たちの仲間だし」


 ソラの独り言で、ベルはこの人々の正体に思い当たる。



──ガングリファン帝国、情報部。






 他の情報部員と同じく何処かへ立ち去ろうとした黒子の一人が、ソラの独り言に気が付き、足を止めた。


 黒い布に隠れた顔をソラへと向ける。



 村の事か、正体の事か、両方か。

 「それ秘密」と伝えようと必死に、口の前に人差し指を合わせるジェスチャーをする黒子。



 そして。



「ぐへぇ!?」


 その黒子にソラがジャンピング・ハグ、からの勢い余ってベアハッグ。


「う、ぐっ……ギ、ギブ……」


 勿論、ベアハッグは意図的ではないし全力でもない。

 ソラ的には抱きついているだけなのだが、キマっちゃった場所と、感情の高ぶりから、マッチョな成人男性並みの力が入っちゃっただけである。




「……寒気?」


 鳥肌が立ったソフィアは、ピキッ、という音が聞こえ、その音の出所に顔を向けた。


「……」


 音がした方向を見るも、そこにはベルが無表情で立っているだけ。

 決して、額に青筋など見当たらない。



「ごめんね、サシャちゃん!」

「ふええええ!? なんでバレてるのぉ~!?」


 腕の力が緩んでホッとする間もなく、正体が暴露され。

 抱き締められて慌てる黒子──サシャにチラリと視線をやるも、助けることなく、それぞれの仕事へと向かう同僚たち。



「……ベルお嬢様?」

「……」


 ソフィアは吹雪が吹き荒れているような錯覚をしたが、勿論、雪は無ければ風も無い。



「グリモワールあげちゃう!」

「え? え?」


 本を押し付けられ、情報部なのにその本が何なのか理解できていないサシャは、渡された瞬間に妙に集まった仲間の視線に困惑する。


「今ならオマケでこれもドン!」


 さっき使っていた、遠くの景色が映る水晶玉。


「さらにオマケだ持ってけドロボー!」


 大振りの、材質不明なナイフ。




「じゃ、私はお仕事があるからまたね! メイド長は隠れ家で待機! ベル、だっこ!」


 一方的に物を押し付け、別れを告げ。


 慣れた動作で──首に回した腕にいつもより力が入った──ベルをお姫様だっこしてから、飛び上がる。



「ばいばーい!」



「行ってらっしゃいませ、お嬢様」


 深々と頭を下げるソフィア。



「えぇ……どうするの、コレ……」


 私も仕事なんだけど、と。

 本と水晶と刃物を抱え、戸惑いを見せるサシャ。



 気付けばコスプレ集団──否、情報部の姿も無く、この二人だけがその場に取り残された。



 ……サシャは情報部なので、正確には情報部の姿はあるのだが。




 後日談。



ベル「私もされたことがない、情熱的なハグを……」

(情熱的なハグ=ベアハッグ)


ソフィア「ベル様、あれはソラ様が一歩手加減を間違えれば死んでいます。仮にも情報部として鍛えられている相手だからあれだけで済みましたが、成人男性並みの力でも、普通の女性ならば無事とは言い難いことに。もしもソラ様が全力を出していたら……」




 後日の後日。



ソラ「ギュー!」


ベル「(痛くない)……私、愛されてるのね」


ソラ「?」

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