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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
幻の景色
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魔の目の日の目

 地竜とは、飛べないドラゴンの総称だ。


 歴代召喚者が口を揃えて「恐竜」と呼ぶのも地竜。ダチョウのような鳥っぽいドラゴンも地竜。ワーム系と呼ばれる巨大ミミズも地竜。

 ファンタジー脳で考えれば属性的な答えに行き着くかもしれないが、沼地を好む飛べないドラゴンは国によって地竜だったり水竜だったりと、実は呼び名にそれほどの意味は無かったり。



 一行の前で腹を見せている「丸々太った四足歩行の蜥蜴」。

 ざっくり見たままを伝えれば、体格の良い蜥蜴に見える西洋風で、背中に退化した小さな翼のあるなんとも王道的な土色のドラゴン。

 蛇に手足と翼を生やした東洋風のツィーバとは対称的な、地竜のお手本。地竜の中の地竜。ザ・地竜である。


 縄張り意識が強かったらしい。


 見慣れぬ白龍が縄張りに降りたところ目掛けて走ってきたのだが、小さすぎてそれまで視界に入らなかった人影に眼前で気が付いた、その瞬間。

 戦闘前の興奮から開いていた口が強制的に閉ざされ、顔が空を向き、首が反り、前足が土なら離れ、背骨が弓なりに反り、後ろ足まで浮いて、半回転して背中から地に落ちた。


 地竜とツィーバを直線で繋いだその線上にいたソラは、海竜の例からまさかドラゴン同士が戦うとは思っておらず、横に逸れたりするのだろうと呑気にサファリパーク気分、ドラゴン観察をしながら突っ立っていたのだ。


「うわっ、ビックリした!」


 ビックリすると、大きさにしてアフリカゾウ三頭分、体重もそれか更に重いであろう地竜をひっくり返すほどの蹴りを咄嗟に放つそうだ。


 それに現在のソラのスキル構成はパワー極振りではなく、むしろ目的の魔物を捜すためにパワー控え目の索敵型。

 これがもし極振りだったならば、地竜の頭は粉砕されていたかもしれない。


「グアァァァァ!(では、我はこれで!)」

「おお、ご苦労さん」


 手を振るソラと見上げるベルを眼下に、近寄る前に声を掛けることを固く誓うツィーバは、地竜のことはあえて無視して逃げるのであった。

 上から目線ではない、少しだけ丁寧な言葉にも慣れてきた。






「これ、自力で起き上がれるのかな?」


 ひっくり返ったまま目を回している地竜のお腹に乗っかりながら、四つん這いで足場をぺちぺちと叩くソラ。ベルは少し離れた場所で、此処へ来たそもそもの目的を捜してきょろきょろ。

 面白い弾力が返ってくるお腹の上を歩くソラは、顎と首の境辺り、変な鱗を見つけた。


「もしやこれが噂の、竜の逆鱗?」


 ゴツゴツとした背中側の鱗とは違い、滑らかな蛇のような首の鱗を滑り台にして下りたソラ。

 顎下は背中側のような外へ向かって伸びる岩のような鱗。他の鱗は根元から尻尾に向かって倒れるような生え方をしているのに対し、そこの一枚だけが顔の方へ向いている。


「弱点ってよく聞くけど、ここだけ特別に敏感なのかな? それとも鱗が弱い?」


 お腹のようにぺちぺちと叩いて、何も反応が無いことを確認。

 おもむろに両手で掴み、引っ張ってみると、思った以上に簡単に抜けた。




 カッ、と目を見開いた地竜は、


「ピィギャアァァァァァァァァァ!?」


 ソラの<翻訳>スキルすら訳さない本当の悲鳴をあげながら、意外とつぶらな瞳から涙を溢れさせた。




 手足をバタバタして暴れる地竜から飛び下りたソラは、抜けちゃった逆鱗を持ったまま思案に暮れる。


「……煩いわね」


 そこへ不機嫌そうに歩み寄ってきたベルをちらり見し、手元の逆鱗に目を戻して、慌ててベルを二度見。


 頭の残像が見える速度でベルを三度見。


「なんで!?」


 ベルの腕の中には、魔物。


「そこに居たから」


 魔物を抱いたまま、岩影を指差す。


「違うよ! なんで“契約”済ませちゃってるの!?」


 魔物というのは基本、人に懐かないのだが。そのフェレットによく似た魔物は抱えられたままベルの首を舐め、ベルはくすぐったそうに笑う。

 散々ここまで勿体ぶってきた『魔の目』は、ソラの視界の外で、無事に成功しちゃったらしい。


「見たかったのに! 目が光るとこ見たかったのに!」

「……別に光らないわよ?」


 膝から崩れ落ちるソラ。


「魔眼は、魔眼系の異能は紫の光を出さないとダメなんだよ!? 目がピカーッて、背景も何だか暗くなってさ! 色は赤でもいいけど紫が定番なんだよ!?」

「知らないわ、そんなこと」


 立ち上がって腕を広げるソラに、一々動作が大きいなぁと思いながら魔物を撫でる。


「しかも予定してた魔物と違うし!」

「可愛いからいいのよ」


 人差し指で首を掻けば、目を細めてか細く鳴く魔物。


「渋ってたのと同じ人の言葉とは思えないよ!」

「土地と世話係があれば良いのよ」


 当然のようにメイドに世話を任せる発言。さすがお姫様。


「うぅ……」


 そして、またしても崩れ落ちるソラ。

 頑強すぎる肉体面に対して、女性相手には弱すぎる精神面。


 しかしながら、ソラはソラで、ベルもベルなのだ。



「勿論、ソラの方が可愛いわよ?」


 目をハートマークにして抱き付いてきたソラに、魔物を手放して抱き締めるベル。



 二人の足下に着地したフェレット的な魔物は「やれやれだぜ」とでも言いたげなポーズをしてから、堂々と上を見上げてスカートの中を覗く。


 因みにメスで、男性から手渡された食べ物は好物であろうと口にしないというまるでどこかの誰かさんのような魔物──後にベル命名「ポラリス」──は、下着に満足すると少し離れ、甘酸っぱい空間を眺めて悦に入りだした。


 ……魔物の癖に、人間の百合を見て楽しいのだろうか?






・・・






 ソフィアは困惑していた。

 エントランスホールに黒い渦が出たことも、その中から二人の主人が現れたことも普段通りではある。


 ……ではあるが。


「小屋と柵の場所、お願い」

「はい。預かっててね」


 見たこともない動物を抱いたベルお嬢様に頼まれた事はまだ、理解できる。

 きっと、小屋と柵自体は物作りがお上手なソラお嬢様が直接、お作りになられるのだろう。


 そちらは裏庭の掃除をすれば大丈夫だ。



 ……ソラお嬢様から手渡されたのは、鉢植え。



 土の上に、何やら“緑色の球体”が乗っている。


「ああ、そうそう。暴れたりはしないと思うけど一応魔物だから気をつけてねー」

「ひっ……!?」


 危うく落としそうになった鉢植えをあたふたとしながら何とか持ち直して、一息。


「……日向に置けばいいのかしら?」


 預かってと言われてもと思いながら呟けば、乗っている“緑色の何か”がモゾモゾと動き出し、土の中から触手じみた根っこがウヨウヨ。


 絶句して立ち尽くしていたソフィアは、その根っこが何かを必死に表していることに気がつく。


「玄関……外に、置けばいいのですか?」


 矢印のようになって玄関扉を指していた根っこが、同意を表すように円を描く。




 言葉が通じると知ったソフィアは暫くの間、玄関前に置いた謎植物相手に話しかけていた。



 ──それが他のメイドや村人に見られていたことを、ソフィアはまだ、知らない。

そして、魔の目を使っている描写が出ないという罠。

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