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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
幻の景色
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千葉さん回

短くするつもりが一話になってしもうた……。

 長い胴体を縦に横に、風と風の隙間をすり抜けるかのように揺らし。


 光の当たり方で虹色に反射する翼をはためかせ。


 世界最強種であるドラゴン。

 晴天と青海に挟まれた青空を何物に邪魔されることなく優雅に飛ぶのは、白龍のツィーバ。



 只今、傷心旅行中。



 強者としてのプライドをたった一人の人間相手にズタボロにされ。

 その人間に餌付けされたことに後から気が付き。

 八つ当たりするにも、何処にでも巣を作る変な生物“人間”。下手にブレスを吐こうものなら、同族を傷付けられたことに逆上されるかも知れず。

 変な首輪を巻かれ、呼び出されては投げられ、雑用を丸投げされ、かじられ、名前を間違えられ───



「千葉さぁぁぁぁん!」


 そうそう、確かそんな名ま───え?



 飛んだまま、無駄と判りつつも速度を上げ、きょろきょろ。 


「千葉さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」



 後ろだ!



「おいコラ千葉ぁぁぁぁぁぁ!」


 何かキレてる!



 余談ではあるが、蛇のような胴体をしたドラゴンであるツィーバには、複数の飛行形態がある。

 体力を温存したい時は“横にくねくね”。

 速度を出したい時には“縦にくねくね”。

 気分が良い時、風を感じたい時は“複雑にくねくね”。

 これは意識してそうしているのではなく、本能というか感性というか、初めて空を飛んだ時からそうやって飛んでいた。意識すれば横にくねくねしながら速く飛べるのだが意識を割いている分、実際に計ったわけではないが、何となく遅く飛んでいるように感じてしまう。


 さっきまでは、海上の風を感じたくて複雑に。


 今は勿論、縦にくねくね。



「逃げんなコラァァァァ!」


 速度を上げたのがダメだったのか!


 ドラゴン固有の能力で顔の前に力場を作り、風の魔法で強烈な向かい風、そしてドラゴンの強靭な筋肉により急停止。

 この時、ツィーバの姿を横から見ていれば、スプリングのきいたバネが潰れた時と同じように見えていただろう。まるでコメディ。


「急に止んなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 その横を、走るにしても飛ぶにしても、急に止まる練習をまるでしていなかった人間がドップラー現象を残しながら、高速で通り過ぎていった。






・・・






「見つけたと思ったら急に速度上げたから、ビックリだよ」

「グァ……(申し訳ない……)」


 止まったその場で停滞していた白龍。

 行き過ぎて竜の目にも見えなくなった人間は、通り過ぎていったのと同じ速度で戻ってきたと思ったらそのまま文字通りの飛び蹴り、からの空中コンボ。踵落としで海に叩き落としてフィニッシュ。


 たまたま海の中に居合わせた海竜にぎょ……ぎょっとされ、目で「逃げろ」と伝えたら、上が騒がしいからと観察していたのか、必死にコクコクと頷いては深くまで潜っていった。

 新たな犠牲者ならぬ犠牲竜を出さなかったことに、今の今まで同族意識の薄かったツィーバは安堵した。


「ところで海に千葉さん並みに大きいのが居たみたいだけど、食える魚かな。食べる?」


 ヤバそうな二股の槍を肩の上で投げる前のように構え、ツィーバに確認を取る人間、ソラ。

 必死に首を横に振るドラゴン。折角見逃した同族の命を救うため、プライドも何もかも捨てている。


 はたして、投げた槍が深海まで届くのかという疑問。


 ……届くんだろうなぁと、既に諦めの境地にいるドラゴン。

 ツィーバはこのまま、悟りを開いたドラゴンという新境地に行けるかもしれない。


「そうだった、こんなことしてる場合じゃないや」


 消えた槍に、ほっと一息。




「───と、見せかけといての『サンダージャベリン』」




 竜としてのプライドがあったのだろう。

 ボッコボコにされた見知らぬ白龍に逃げろと伝えられた時は慌てて逃げだしたが、所詮、相手は人。海の中ならば大丈夫だろうとまた海面近くで観察、もしくは狩るチャンスを窺っていたのか。


 ツィーバと同程度(十メートル強)の大きさの雷の槍が海面に突き刺さり、地球ではまず見ないであろう大規模での電気ショック漁。

(注意*国によっては、電気ショック漁は法律により禁止されております)


 ぷか~と浮かび上がる、痺れて白目を向く海竜。

 他の魚などは海竜がその場に止まっていたせいですでに逃げており、大した被害が無いという幸運。


「およ、ドラゴン?」

「グワァ……(ムチャしやがって……)」

「さすがにドラゴンでも、共食いはしないよね? ……素材のために、殺すか」

「グルルルゥ(いやいや、ここはツィーバの顔に免じて、ね?)」

「そうだよね。悪党でもないのに目の前で同族が殺されるのは見たくないよね」

「グワッ、グワッ(そうですそうです。ささ、早くここを離れて、用事を済ませちゃいましょう)」




───そして。



 ツィーバが頼まれ、ようやく探し当てた、目標となる魔物が生息する地域。


 到着した一人と一匹を待ち受けていたものは。



 『ゲート』から現れて早々、待ちくたびれたベルからソラへと発せられる「静かな怒り」という雷。


 そして、こちら目掛けて餌を見つけた顔で一直線に駆けてくる地竜(同族)を、もはや遠い目で見るツィーバであった。



そして連日更新終了のお知らせ。

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