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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
幻の景色
74/133

演技で流せ! ……ムリだったよ

*難しい、書き方のせいで理解できないと思ったら遠慮なく読み飛ばしてください。

 過去の英雄。

 “魔王的な存在”を異空間へと封印したパーティーの、要となる封印を施した魔法使いが黒幕だ。



 とある島国に現れた“魔王的な存在”。

 わざと緩い封印を仕掛け、漏れ出た魔力を利用して神へ至るという無謀な計画。案の定、想定以上にキツかった“魔王的な魔力”により、魔法使いは反対に身体を乗っ取られてしまうという大失態。

 そして半人半魔の中途半端な存在へと弱体化した“魔王的な存在”は、本体の封印を解くため、長い時間を掛けて封印された島で暗躍する。


 それから数十年後。

 主人公たちは冒険を通して何者かの暗躍と、その目的に気が付く。

 何としてでも封印を護ろうとするが、取り返しのつかない失敗により、ついに封印は解かれてしまう。


 完全な“魔王的な存在”と半人半魔が混ざり合った結果、どうしてか魔法使いの意識が表に出てきて“神を騙る者”へと変化。

 失敗からの大逆転に有頂天……いや、精神に異常を来した魔法使いは、世界をその手に支配しようと、物語の舞台である島から飛び去ってしまう。


 後を追うことは出来ない。しかし、封印するしかないほど強い“魔王的な存在”よりも遙かに強く利己的な“神を騙る者”は、絶対に倒さなければならない。


 最終手段として『ゲート』を主人公に授けた賢者が伝えた禁忌の方法は、過去の世界へと跳び、封印される前の“魔王的な存在”を倒すこと。そうすれば未来は変わり、それに伴う犠牲もあるだろうが、“神を騙る者”は生まれないだろう、と。


 行ったことがある場所にしか跳べないはずの『ゲート』の裏技。『友情のグリモワール』と『ゲート』の合わせ技により──






・・・






「──つまり、過去へ行けるのね」


 一人盛り上がるソラ劇場をぶった切り、結論を述べる。


「ここからが良いとこなのに!」


 ベルのせっかちに憤慨するソラ。

 テラスへの扉を開け放ち、両サイドのカーテンを舞台変更時の幕と着替えスペースに利用。役者から裏方までを<スキル>の無駄使いで一人こなしてしていたソラは、主人公用の仮面と賢者用のローブを中途半端に着た状態で叫ぶ。



 英雄パーティーの生き残りであるオッサンの説得。

 封印前の異空間への、帰ってこられないかもしれない旅立ち。

 前哨戦に当たる若かりしオッサンと現在のオッサンによる一騎打ちイベントと、計画を邪魔された魔法使いの暴走。

 とても強い“魔王的な存在”とのラストバトル。

 何だかとってもあれなムービー。

 クリア後に現れる隠しダンジョンを全てクリアすることで“神を騙る者”と戦うことができ、さらには……。




「トゥルーエンドまであと半日くらいは必要なんだよ!? これでも最初のほうは飛ばしてるんだから!」

「そんなに長く、見てられないわ」


 ソラ単品なら半日どころか数年は見ていられる自信があるベルだが、序盤を飛ばしたせいで登場人物がいまいち不明な、興味のない劇など見ていられない。

 これがもし、猫耳カチューシャで猫の物真似をしているソラならばまだしも。普段通りの仮面どころか、マッチョな男性になったり色っぽいお姉さんになったりと、既にソラの原形が無い。



「特に、タイムパラドックスとか平行世界への分岐とかを超理論と力業で防ぐ様を描いたムービーは必見だよ! プレイヤーをぶっちぎりで置き去りにするほど逆に潔い超展開は、もう規模が大きすぎてセカイ系だよ!」


 それ、褒めてない。


「このゲームの何が凄いって。資金不足でMMOにすることを挫折したのに、そのシステムを流用したあんまり売れなさそうなパソゲにしちゃったことだよ! MMOによくある課金ゲーは、よほど外さないかぎり集金率が凄いんだよ!? だったらボリューム下げてMMOにして、貯めたお金で作りたかった作品を続編として出せばいいじゃん!」


 せめて据置機なら!

 何故にパソゲ!


 全く褒めていないことを叫ぶが、ここは異世界で、聞いているのも異世界人。問題無し。





「もういいかしら?」

「あ、はい」


 叫んで落ち着いたのか、ソラは大人しくテラスへの扉を閉めて室内に入った。


「話を戻すよ。ゲームの設定通りならの話だけど……っと、その前に」


 お茶会用の丸テーブルで、ベルの向かいの席に座ったソラ。


 気障ったポージングで指を鳴らす。

 と、まるでドアの前で控えていたかのようなタイミングで、ワゴンを押して入ってくるメイド。



──廊下からの足音でタイミングを計って指を鳴らしただけだと見破ったベルだが、ソラのドヤ顔があまりにも可愛いから、驚いた顔をしておいた。



 ティーカップだが、中身はソラの好みで緑茶だ。


 淹れたてを、互いに一口。



「『ゲート』の設定がゲームのままだった場合。例えばの話、海水浴場で遊んでいた高校一年生の私を殺したら、殺した瞬間、私も消えていたね」


 聞いていて気持ちのいい話ではない。

 ベルは顔をしかめながら、疑問を聞く。


「だとしたら。ソラの『ゲート』によって地球に居た私は、ソラが消えた瞬間、消えるのかしら? それとも置き去りにされるのかしら?」


 “親殺しのパラドックス”。

 タイムスリップして自分の親を殺した場合、その親から産まれたはずの自分はどうなってしまうのか。

 どうやっても親を殺すことは不可能なのか。自分が消えるのか。因果律の矛盾に耐えきれなくなった宇宙が爆発するのか。ゲームオーバーという文字が画面に現れるのか。


 と、いう話に近い。

 卵が先か鶏が先か、でも代用可。


「ゲームの設定通りなら、という前置きが欲しいけど……」


 ちらりとお茶を入れにきたメイド、ソフィアを見てから。


「多分、置き去りにされたと思う」


 ソラの暴走でかなり取り乱したというソフィアだが。

 その時の話、それも殺すとか置き去りとかの物騒な単語が出ても、見た目には落ち着いて見える。

 話に聞いた限り、見た目だけかも知れないから要注意だ。


「学者先生が頭禿散らかして書いた論文ならまだしもゲーム、所詮は遊びだからね。とんでも理論は当たり前、ご都合主義のご都合展開。それがもしも現実になっちゃった場合、そもそもタイムスリップなんて夢物語なんだから、ゲームのままなのか、はたまた夢の世界とかパラレルワールドとか神になるとか爆発するとか……予想がつかないんだよね」



 残ったお茶をぐいっと飲み干し、溜め息。



「試さないほうがいいよね」

「試さなくていいと思うわ」


 リスクが高すぎると判断した二人は、『ゲート』で過去へ跳ぶことを封印した。






「──そんなわけで」


 表情を明るく変え、仕切り直した二人にお代わりを注ごうとしたソフィアを、ソラは手のひらを向けて止めた。


「今回はソラちゃんも反省してるからさ。茶葉二倍とか、ちょっと勘弁してほしいかな」


 顔を真っ赤にしたソフィアは、深く頭を下げた。

まとめ。

過去に跳ぶこと自体が禁則事項です。

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