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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
ソラと愉快なスカウトキャラバン
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類友の呪い (修正済み)

※大切なお知らせ※

メイドの性格と人数を変更していた事を忘れ、プロットのまま投稿していました。

発覚に時間が掛かり、修正が遅れてしまった事、深くお詫び申し上げます。

 嵐のように現れ、かき混ぜるだけかき混ぜといてパッと消えた二人組。


「……これはこれで、寂しいものだな」


 置いていかれた炬燵に足を入れ、愛用する湯呑みに口を付けることなく握り締めては手のひらに温もりを感じる皇帝。




「父上よ! 野暮用を思い出したのでちょっと母君の所へ行って参る!」


 そんな小さな感傷は、我が城のお転婆一人娘により破壊された。


「……娘よ。ソラと出会ってから驚くほどキャラクターと口調が定まっていないぞ」

「この本は便利なのじゃ! 世界の色んな言葉を知れるのじゃ!」


 影響されやすい年頃には有る意味で禁断のアイテムなのかもしれない本を、やたら勿体付けながら掲げて胸を張る娘。


 駄目だ、手遅れだ。

 もしも、帝国で一番有名な国宝が霞んで見えるこの本が、帝国中の貴族子女に広まったらと考えた皇帝は胃をキリキリと痛め、だがしかし、とにかく娘だけでも更正させなければという決意で何とか痛みから切り抜けた。


 そして皇帝、父親としての魔法を唱える。


「これはあれだな。女官長による淑女教育、再開だな」

「……!?」



 そんなに嫌なのか。


 やはり長年の癖はそうそう簡単には抜けないらしい。

 影響を受ける前のお姫様らしい言葉遣いで、しかしお姫様らしくなく泣き叫びながら女官長に引きずられていく娘を、部屋の前で見送る父親。


 娘が曲がり角で見えなくなると、彼は慌てて自分の本を取り出しでは見たいページを思い浮かべながら本を開いた。


「やはりか……!」


 『文化の違いを感じようスレ』の中に、あの元凶の名で様々な書き込みが。


 勇者の国の文化では、姫は『のじゃ口調』が基本。

 古臭い言葉はむしろ高ポイント。

 親しい人の呼び名は個性的にして、内外に特別アピール。

 犯人はヤス。



 最後のはよく分からないが、娘がこれに悪影響を受けたのは間違いない。


 皇帝は娘を精神的不治の病から守る、いやこれ以上の 悪化をさせないために、全ての元凶と戦い抜くことを覚悟した。


 ニートルダム世界、最大の独裁国家の頂点であるガングリファン帝国皇帝陛下が、一人の人間に対して、だ。



 戦いには迅速さが求められる。


 皇帝は早速、一手、その力を振りかざした。




 ──まず、グリモワールのどこのページにも下部にポツリとある“お問い合わせ”をペン先で押す。するとページが勝手にめくれ、『空欄の中に記入してください』という文字、それと四角く区切られた記入場所と思わしき空欄がデカデカと載るページが現れる。


 その箱の中に、力強い筆圧で『娘が其方の書き込みに悪影響を受けて~』といった、一父親としての、皇帝としての金も権力も一切出さない真髄で丁寧な書き込みを行った。


 勿論、匿名である。




 書き終えると満足げに額の汗を拭い、熱くなった息を吐いた。



「……これが書き込み、か。案外、勇気がいるのは出だしだけだな」


 最初の目的は何処へやら。

 管理人しか目にしない問い合わせに意見を書いただけですっかり投稿した気になった皇帝陛下は、次からは力まず書けそうだと思った。


 そして調子に乗り、匿名板で『三年ロムってろ』と言われ、マジで凹むのであった。






・・・






「ムムム、これは難しい問題だ」


 寄せられたお問い合わせに真剣に向き合う、仮面の少女。


 どこかの洋館、そのサンルームでの一コマ。


「まだ人も少ないし掲示板も健全なものばかりだけど、いつかは現代社会と同じ問題を抱えてしまうのかもしれない……」


 いつになく真剣に考え込むソラではあるが、王道ファンタジー世界に居るはずなのにファンタジー感が皆無なのは今更か。


「国民の約半分が何かしらの呪いをその躯に宿し、眼帯か包帯で封印しているという今の日本と同じ問題を……」


 今度の呟きはファンタジーだが、そんな日本は嫌だ。

 呟いた本人が仮面で顔を隠している。

 それが異世界の住人には真実のように聞こえる原因にもなり、此処に、怖ろしく末期な日本の噂話が産まれるのであった。


「怖いところね、日本って」


 ソラの向かいでくすくすと笑う少女は過去の資料から嘘と知っていての発言だが、しかし、この場に居るのは二人だけではなかった。



「国民の半分が呪われているなんて……」

「一体何が……」


 壁際でひそひそと話す、メイド服を着た女性が三人。



「そこまでです」


 そこへ手を叩きながら、壁際で噂する女性達と同じ服装の女性がサンルームに入ってきた。

 真新しいエプロンドレスに身を包んだ長身の女性。

 メイド長のソフィアだ。


「主人が呪われているなど、噂話だとしても決して口外しないように」


 叱られて縮こまる女性達に、そもそも主人が居るのと同じ室内でそんな噂話なんて、と、溜め息を吐きたくなるソフィア。

 帝国城の女官長から教わった新人教育法は、主人が見ている、目にする可能性がある場所でしていいものではないので、ここはグッと我慢。


 それと出立前に新たに教わった作法として、部下とはいえ身分は同じ使用人、良好な関係を築き上げてチームワークを大切に、だ。


「口を滑らせないように誤解は解いておきますが、ソラ様は呪われてなどおりません。湯浴みの際は仮面を外しますから、いずれお手伝いなどで拝見する機会もあるでしょう」


 それを聞いて安心する中で、一人。

 何か言いたげな様子なので、視線で発言を促す。


「あの。メイド長は、ソラ様と一緒にお風呂に入られたのですか?」


 と、赤毛のメイドが尋ねる。


「……ええ。この館の設備を説明された際に」


 ──無表情を装いながらもソフィアは恥ずかしげに頬を染め、目線を逸らす。



「……やっぱりメイド長って……」

「帝国式って“そういうの”もあるのかな……」

「類は友を、って奴ですか」


 ひそひそとする意味が無いほど、この場の全員に聞こえる声。

 ソフィアは拳を、強く握り締めた。


「教育です」


 呟くと、三人の姦しい駄メイドに一発ずつ、拳骨を振り落とした。


「あたっ」

「いてっ」


「おごぉぉ!?」


 若干一名、帝国式作法を馬鹿にした赤髪メイドにだけ足が床に埋まる本気の拳骨をお見舞いしたが、赤髪のギフトなら大丈夫だろうという信頼の下でだ。


 床に突き刺さったまま気絶する一人を冷たい目で見る、戦闘系ギフトのメイド長。

 軽い拳骨で済んだ二人は、部屋の隅に固まってガクガクブルブル。



 メイドによるコントを眺めながら、微笑むベル。

 床、直すの私なんだけどなぁと思うソラ。

 主人を使うなどとても使用人の考えではないと思うのだが、果たしてそれはいいのだろうかと思う。が、片手間だしいいかとソラは納得する。


 ……人が釘のように刺さる光景を見てしまっては、例え自分なら大丈夫だろうと分かってはいても。

 逆らいがたい何かがあるのだ。


メイド長であるソフィアの名前、もしかすると変えるかもしれません。

付けた時には気にしませんでしたが、主人公と頭文字が同じキャラが近くにいるのもどうかなと、今回書いてて思った。


変えない可能性の方が高いですけど、一応の通知。

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