Q.ソラは帝国情報部? A.いいえ、野生のNINJAです。
“眼”に関連するギフトを持つアルセが不自然な獣道を見つけてから『流れ星』とソラは不用意な会話を止め、一旦その場から離れて馬車を隠した。
ネルフィーが小屋のような洞を持つ木を魔法で生やし、そこに馬車を入れたオードはソラに「依頼」を確認する。
勿論、小声だ。
「……本当に、俺らだけでやるのか?」
道中、フォーメーションや役割などを無視し、好き勝手暴れていたソラ。
その体術と武器捌きは素人のそれどころか今まで見てきた腕利きよりも遥かに上で、見習うべきものが多く、ニーナ、オード、アルセの三人はその動きを見たり真似たり考えたりと、自分の物にしようと研究もした。
それが本番で戦わないとは、一応、旅をしている間に話してはいたのだが。
「皇帝からの依頼でね」
肩を竦める仮面の子供にオードは舌打ちをしそうになり、止めた。
何が御希望かは知らないが、王国から一度も外国に行ったこともない無名なハンターに対し、隣の大国のトップが直直に依頼をご指名で、さらには監視者
まで。
だから権力者は嫌いなんだと、オードは「わかった」とだけ応えて動き出した。
・・・
……勘違いしているであろうオードが怖い顔をして仲間の下へ行く後ろで、ソラは帝国の方を向いて心の中で謝罪した。
「(ごめん皇帝、なんか擦り付けちゃって)」
ソラが戦わないのは、ソラの我が儘だ。
ベルに散々言われて、ソラもそろそろ自分の能力が勇者とかドラゴンとかと比べても「おかしい」という事に向き合ったのだ。
勇者の仲間から“魔力を足場にした空中機動”をパクってからも何度か勇者観察を続けてはいたのだが。勇者一行の戦闘を見てみると、苦戦は無しにしても現実味のあるというか、魔法ある異世界としての常識的というか。
相手に何もさせないまま一方的に攻め立てるソラのような戦い方ではなく、敵の攻撃を受けることも怪我をすることもあるし、移動も馬車か徒歩。ソラのように飛んだり空間転移したりもしない。武器も勇者以外は壊れるし、敵の数が多ければ後衛に敵を流してしまう時もあった。
ソラがどう手加減するか悩んだ白龍のツィーバも、ドラゴンの中では上位の存在なのだとか。
因みにツィーバには今、とある仕事を押し付けている。
警戒しながら森の中をそろそろと歩く『流れ星』。その後ろから離れて歩くソラは、警戒をスキルに任せて思考を続けていた。
───真面目な思考が逸れて、カタリナのおっぱいの感触を思い出してニヤケだした。
「グヘヘ……」
「おい、なんか笑い出したぞ……」
五人で固まり、全員がそれぞれ違う方角を視界に収めながらゆっくりと獣道に沿う形で進む一行。獣道を歩かないのは、鉢合わせする危険性と見張りを警戒してだ。
後方から聞こえる、少女のゲスな笑い声。
何故か、カタリナは顔を赤らめた。
オードの予想では、ソラは帝国の情報部だ。
情報部とはあるが、やることは誘拐、殺人、スパイ、護衛、勧誘……勿論、帝国の為にありとあらゆる情報を集めるのが基本的な仕事だが、皇帝の命令を執行することに喜びを感じるようなイカレた連中だという評判だ。
後ろの少女を見る限り、皇帝の命令よりも女を優先しそうではあるが……。
情報部という正式な仕事は無く、国から独立した皇帝直属の部隊なのだという。
どうやってか優秀な人材を集め、世界中の国々に潜り込ませている、という噂が広まっている。
そんなオードの意見に、女性陣は懐疑的だ。
ニーナ曰わく。
「そのジョーホーブが何でまた、新米を抜けたばかりのハンターの所に?」
カタリナ曰わく。
「無いわね。情報部が噂だけなのは、仕事の結果は出ているのにそれを行った者が誰なのか判っていないからよ。堂々と目立ちすぎでしょ、あの子」
アルセ曰わく。
「情報部が何なのかは知らないが、魔法の使い方を聞いてきたりするものなのか? それにこの武器たちは? あの本は?」
ネルフィー曰わく。
「ソラ、皇帝とお友だち」
オードは首を振る。
「友達ってなんだ。友達になれるようなもんなのか皇帝って」
「……オード、声が大きい」
呟きが意外と大きかったらしく、カタリナに注意されて気を取り直すオード。
そこに、眠たそうな目で真面目に警戒しているのか不思議なネルフィーが、何気なく発言した。
「ソラ、温泉の後、会ったこと無かったけど皇帝のお家に遊びに行ったんだって。お姫様の着替えを覗いて、集まってきた騎士からお金を巻き上げて、皇帝から土地を貰って、村を作ったって、言ってた」
暫し、無言で進む。
「……うん、それは情報部じゃないな。間違い無く曲者だ」
「さすがね、ソラ」
「うぅぅ、意味が分からない……」
「ネル、そんなに長く喋ったの久し振りじゃない?」
オード、ニーナ、アルセ、カタリナの順。
カタリナの現実逃避が痛々しい。
そうこうしている内に結局、魔物にも人にも会うことなく、木々の間から敵の本拠地らしき山が目に入った。




