表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
帝国編 ~土地を分けてはくれませんか?~
61/133

残念ながら描写カット(No ノクターン)

 よくある木造宿屋、その食堂。

 『流れ星』という何とも在り来たりなチーム名を名乗るそのハンターパーティーは皆で……いや、二人を除き、呆れた顔でそれを見守っていた。




 隣のテーブルから、宿屋の跡取り息子が声を荒げる。


「ロウソクは残り三分の一!」



 同じく隣のテーブルから、看板娘は神妙に、しかし食堂に居る全員に聞こえる声で囁く。


「これは、歴代最速タイムに賭けた人の勝ちで間違い無いでしょう。誰がこんな小さな体を見て予想できたか。何と、もう、最後の料理を乗せたスプーンが……」



 大皿が乗ったテーブル、そしてそれに挑んだチャレンジャーを囲む人々。



「持ち上がり、そして今、口の中に……」


 宿屋の跡継ぎと看板娘がはやし立て、他のお客さん、騒ぎを聞きつけた通りすがりも固唾を飲んで見守る中……。




「完食! 完食です!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 跡取りが、酔っ払いが立ち上がった。



「記念すべき十人目の達成者の誕生です!」


 誰も聞いちゃいないだろうが、感極まって目に涙を浮かべた看板娘が偉業を讃える。



 ナプキンで口元を拭いてから、仮面の少女はスプーンを置いて掌を合わせた。


「ごちそうさま」




───こうして宿屋「腹満たし亭」名物「腹破裂盛り定食」に、新たな金字塔が建てられたのであった……。






・・・






「……で?」


「ん、なにが?」


 周りの喧騒が落ち着き、食後のお茶を楽しむソラ。


 まるで何事も無かったかのように通常運転へと戻った宿屋──賭けの儲けでホクホク──では、『流れ星』の黒一点オードとソラが向かい合って座っていた。




 ベルを皇帝の所に預け、自分にしか見えないメニューに表示される『フレンド』を選択。本の持ち主であるカタリナの居場所に当たりを付け。

 行ったことがある場所なら何処へでも。出現場所は決まってフィールド入口と街の入口限定だったゲームに比べ利便性も犯罪性も増した魔法『ゲート』でささっと帝国首都から王国首都に来たソラは、最小表示された地図に点で表示されたカタリナを訪ねて宿屋「腹満たし亭」へとやってきたのだ。


 そこで部屋に招待されたソラは「カタリナに秘密の話がある」と言って他のメンバーを食堂へと追い出し、数刻。


「お腹空いた」


 満足気、やけにテカテカとしたソラだけ・・が食堂に現れた。

 一緒に居たはずのカタリナは……。



「温泉の時、“薬の代金”貰い忘れてたから」



 それで察する『流れ星』。

 薬を使った本人であるニーナは顔を赤らめ。

 アルセはさっきまでの部屋の中を想像したのか固まり。

 オードは羨ましげに手を開けたり閉じたりし。

 ネルフィーは、野菜にフォークを突き刺して口に運んだ。




「いや、部屋から出てきたと思ったら大食いに挑むし……よく、その体で入るな」

「スキルだからね」

「“すきる”?」


 スキル<大食い><鉄の胃袋><美食家>、それらを混ぜた<暴食>。

 ゲームでは『空腹度が満たされていても料理を食べられる』という、料理アイテムのバフ効果──『食後数分間、攻撃力上昇』といった──をいつでも得られるようにできるスキルだ。

 料理アイテムを消費する、<鉄の胃袋>は他にも防御力上昇スキルの素材になるので、ゲームでは滅多に、拘りのある人以外は全く使わないスキルでもある。


 『空腹度が減りづらくなる』<仙人>を持っているソラは一月くらいなら平気そうだが、食事は娯楽だ。


 何か食べたい、だが王国のお金を持っていないソラは当初、オードにでも「さっきまで味わっていた『二つの霊山』のあれやこれ」でも教えてたかろうと思っていたのだが、メニューに『時間内に食べきったら無料、賞金有り』を見つけてしまったのだ。


 スキル構成を変え、料理をタダで楽しんだ。


 しかも賞金付き。


 一石二鳥である。


 あれやこれも自分だけの秘密にできたので一石三鳥、もしくは他にもあって五鳥くらいは獲っているのかもしれない。



「そうそう。代金と料理で忘れてたんだけど──」


 ようやくかと溜め息を吐いたオードだが、次の言葉を聞いて咽せた。

 ネルフィーとこの場に居ないカタリナ以外、たまたま隣のテーブルから盗み聞きしていたオッサンすら、絶句。




「隣の国の皇帝陛下から『流れ星』宛てに直接依頼貰ってきたんだけど、受けてみる? それとも、断っちゃう?」



「……は?」



「はい、正式な依頼書。皇帝陛下に何回も念押しされたんだけど、なんか断っちゃってもいいらしいよ?」



 顔の筋肉を過去に無いほど引き吊らしながらも、震える手で何とか依頼書を受け取ったオード。



 まず最重要なのは、『捏造したら物理的に首が飛ぶ──ならまだマシ。皇帝陛下のお慈悲に乾杯』と酒場でもっぱら噂の、ガングリファン帝国印と皇帝陛下直筆のサイン。

 オードの記憶違いでなければ、サインは分からないが帝国印は本物だ。


 依頼内容。

 ここ最近騒がれている魔物の大量繁殖と、何者かによる亜人の洗脳襲撃事件。その一連の問題解決。


 報酬。

 直筆で『私に何を望むんだい?』。 





「ここ、こ、ここ……」


「こ、こ……皇帝陛下? ニワトリの真似っぽいけど」


 声が出ない。冷静なソラに無性にムカつき、空気を唾ごと飲み込んだオードは、テーブルに拳を叩き付けていきなり立ち上がった。





「───断れると思ってんのかバカヤロー!!」




「野郎じゃないよ、ソラちゃんだよ?」


 そうじゃない、そうなことじゃあないんだと。

 隣のテーブルのオッサンは、仮面の子供に心の中でツッコミを入れた。





・・・






「どんな騒ぎになるのかしら?」


 本当に楽しみ、と。


 ガングリファン帝国継承権第一位のお姫様の部屋。

 そこで炬燵に温まりながらソラを待つベルは、お姫様が国民に魅せるような笑顔で笑った。



「むむ。先に上がったからと随分と余裕だな、ベル」


 扇のように広げられたお姫様のカード。先程までは扇げるほどあったそれも、今は二枚。


 そこへ伸びる手。


「娘よ。上に立つ者は義務として、常に余裕を見せていなければならないと教えただろう? はい、上がり」

「のわあぁぁぁ! 無し! 無しじゃ父上!?」

「うーん……じゃあ、『パパ』って呼んでくれたらいいよ?」

「さすがパパ!」

「はい、引いたカード。混ぜた後、もう一回引き直すからね」

「うん!」



 その後、何度やり直しても父が上がり、娘はすっかりふてくされるのであった。


「そんなだから母上に逃げられるのだ!」

「逃げてないから。仕事上、仕方なくだから」




「……どうでもいいけど、まだかしら」


 待ち人も次のゲームも、ベルの下へ来るのには時間が必要そうであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ