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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
帝国編 ~土地を分けてはくれませんか?~
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王は人で非ず(色んな意味で)

 人の住んでいないゴーストタウン。

 作り立ての五十戸ほどの家はこのままなら材料の無駄、海風にやられて誰も住まないまま廃村になってしまうだろう。


 物知り顔なソラが、無い胸を張る。


「テンプレ的には、奴隷とか迫害されてる人種、街が破壊されて行き場を失った人とか集めるとこだね。序盤には鍛冶師、中盤辺りでマッドサイエンティストな魔女とか錬金術師を仲間にして、何やかんやで最終的には国になるはず」


 テンプレ万歳。




 ソラは簡単に言うが、それは難しいだろうとベルは思う。


 迫害されていた・・・・・人種は、過去の勇者の活躍によりその殆どが世間に溶け込んだ。

 奴隷を扱っている国は今も戦争をやっているような国で、奴隷という戦力の敵国流出を恐れ、奴隷の国外への持ち出しは禁止されていた。



 それに、ソラ本人には無関係な『言葉』の問題に気付いているのだろうか、と。

 王国と帝国は元々、大陸統一を掲げて夢破れた大昔の国からの独立なので喋っている言葉も訛り程度の違いでしかない。


 だが、それが遠く離れた土地。


 特に魔族の大陸は、言葉の成り立ちからして違う。

 初代勇者の時代、魔族の言葉は言葉として扱われずに「鳴き声」だと思われていた。


 それを一つの町に集めたところで、会話ができるはずもない。



 そして、極めつけは……。



 鍛冶師、魔女、錬金術師。



 ベルは、目の前の少女を見た。


 武器防具を無駄に作っては配り、独自の魔法以外にこの世界の魔法も普通に扱え、欠損どころか死者を生き返らせる薬も作れる規格外。



「一流ほど、嫉妬で敵対するんじゃないかしら?」



「衣食住! 衣と住はこっちで揃えるから、まずは農家辺りを勧誘しよう!」


 ベルの心配を余所にソラは元気一杯、相も変わらず地獄へと繋がっていそうな外見の『ゲート』を開いた。





 ───そもそもの話なのだが。



 土地を求めた理由は「ベルのギフトで集めた魔物を飼う場所」だったはずなのに、どうしてこうなってしまったのであろうか。



 王国の慣用句に「勇者建国を夢見、己の手を見て夢捨て去る」、というものがある。

 「誘惑に惑わされず自分がなすべき事を理解している人」、という意味で使われているのだが。



 この言葉の由来は、初代勇者の友人であり、時を経て二代目勇者のお目付役をすることとなったエルフの、折角の希有な経験だからと書き溜められた勇者観察日記、王家秘蔵の『勇者取り扱い説明書』からだ。



 二人の勇者の建国願望を、同じように諭して砕いた逸話から。




「調子に乗るとすぐ『ハーレム王』『現代知識チート』『俺つえぇぇ』等と騒ぎ出すのが、勇者だ。小難しい話をすればすぐ『逆ギレ』──勇者の国の言葉で『怒られるべき側の人間が怒る逆転現象』の意──するのは目に見えている」


「勇者教育にはまず、勇者の世界では一般的らしい『王様のお仕事』という幻を覚まさせることを、強く、強く勧める。最初の勇者は肝心の始まりで間違えた」


「怪我とか病気とか何でも良いから近衛を一人欠けさせ、一日でいいから王の護衛に勇者を付けろ。退屈だが四六時中他人の目に晒され、公務以外では城どころか決められた区域すら滅多に出られない窮屈なその誇り有る仕事を、存分に見せ付けてやれば良い。素知らぬ顔で解説やら王の苦労を語れば尚良し」


「夢から覚めた勇者は自らの特権階級と自由性に気が付き、勇者という自分だけの仕事に希望を見るだろう。勇者なのだから魔王を倒すなりしなければならないが、それさえすれば王より偉くて、そして自由なのだ、と」




 長いので要約すると、「働きたいの? と遠回しに聞いてみる」。





───勇者の逸話に現実逃避……否、思いを馳せていたベルだが、腕を掴まれるがままにゲートに引っ張り込まれるのであった。






・・・






「……お迎えが来たのかと思ったよ」


 椅子から転げ落ちて尻餅をついた状態のまま、口元を引きつらせてそう口にした皇帝陛下。



 執務室でいつものように書類と格闘していたら、部屋のド真ん中に現れた禍々しい黒い渦。

 皇帝の命を狙った何らかの攻撃としか思えなかった。


「ごめんごめん、そういえば見せなかったっけ?」


 現れた仮面と、お姫様だっこされたお姫様。

 ゲートを見せたつもりでいたソラだが、たとえ見せられていたところで“コレ”に一度で慣れるわけがないと、経験者は語る。心の中で。





「自分で集めなよ。あ、帝国は奴隷禁止してるからそのつもりで」


 重厚で威圧感の感じられる机から、ソラ手製の猫ちゃんマークが何とも言えない脱力感を生み出す毛布が掛けられたコタツに書類の山ごと移動してきた皇帝。

 年末、イラスト付き年賀状だけでは味気ないと、決まり文句を書いて干支のスタンプを押す作業をしているお父さんにも見える。


 そろそろ三十路になりそうな年齢ながら、既に十代の娘がいるお父さん。ヤンキーではなく皇帝だ。子作りは義務なのだ。


 ソラはインベントリから蜜柑と籠を取り出しながら、皇帝に家族用コタツと半纏を贈ろうと思った。

 男性はあれだが、家族には、娘がいるなら尚更優しいソラちゃんなのだ。



「国は色々と面倒だからやらないつもりだけど、帝国の隠れ里的な立ち位置で色々やっても、いい?」

「いいよ。皇帝の直轄地には諜報員育てる専用の村とかあるし、建前的には未開拓地のままってことで。そうなると……税は納められると困るんだけど、無いのも逆に、ねぇ?」

「直接支払い? それとも『お仕事』的な?」

「うーん……そうだね、『お仕事』、かな? やり方は任せるからさ」

「んじゃ、まずは『アレ』?」

「そうそう『アレ』。それと『コッチ』もついでにお願い」

「ほうほう。実は『アレ』に関してはすぐにでも決着予定だからいいけど……『コッチ』って、今更?」

「ほほう、お手並み拝見。『コッチ』はあれさ、保険だよ保険。会ったこと無いだろうけど魔王様、ほんと怖いし」

「周りに魔王みたいな威圧感振りまいてる人がなに言ってるのさ」

「それ、本物の魔王様にも言われた。『余の跡を継いで魔王を名乗る気は無いか?』って、真顔で」

「御墨付きだし、いっそ『人帝魔王』とか名乗っちゃったら?」

「いやいや、いやいやいやいや」




 なんだか濃い話がさらっと聞こえた気もしたが、ベルは、蜜柑の白い筋を綺麗に取る作業に集中して聞き流したフリをした。

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