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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
帝国編 ~土地を分けてはくれませんか?~
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昨日の敵は今日の友(被害者的な意味で)

───憎きモノの悲鳴が、山に、森に、海に、空に、大地に響く。



 自らを『強き者』と称する森の一族はその日、世界の終わりを悟った。






 空からの一撃離脱により戦いという戦いになることもなく、群れからはぐれた一族の者を襲い食らう憎きドラゴン。

 戦士たちがせめて一撃でも与えてやりたいと願う日々は、ただ過ぎ去るだけ。


 あの白いドラゴンはこちらの繁殖能力を知っているのか、一人子供が産まれると一人大人を連れ去る、まるで生け簀で飼われた魚のような生殺し。


 強き一族の者達があの霊峰を越えて辿り着いたかつての理想郷は今や、霊峰を荒らす白いドラゴンのせいで一族を閉じ込める檻となり。

 せめて霊峰の向こうに住むという『小さいが勇気ある者』に助けを求められればいいのだが、あの者達は霊峰を越えることはできず、こちらからではドラゴンの餌。



 どうしようも無いのかと、我々は『強き者』である祖先に顔向けできないと嘆いでばかりいたのだが───




 一度目の悲鳴は、それはもう痛快であった。


 霊峰を越える祖先に様々な手を差し伸べてくれたという『小さいが勇気ある者』がやったのかと、まるで一族の手柄のように喜んだ。




 異変を感じたのは、二度目の悲鳴である。



 我々の一族は、白いドラゴンの声から微かながら感情を感じ取れる。

 感じ取れる理由は知らないが、とにかくいつもなら不愉快な、まるで獲物をいたぶるような下種な感情しか伝わってこない。


 今まで聞いたことが無い大きさで空を震わせた声。


 戸惑い、怒り、絶望、勇気、嘆き、困惑。

 まるで白いドラゴン相手に我々が抱くような感情を、その白いドラゴンが抱く相手。



 直後に大地が揺れた時。

 それは、白いドラゴンが空から、奴の居場所であるはずの空から落とされた証であると分かってしまった我々はその日、白いドラゴン以上の何かの存在と同時に、この狭き理想郷の、世界の終わりを悟った。







・・・






 朝。




 眼の下に隈を作った宿屋のおばさんに起こされ、やたら興奮しながらカウンターで待っていたソラと一緒に外へ出たベルは、街の様子が何かおかしなことに気が付いた。臭いは変わらないが。


 宿屋のおばさんから事情を聞いてみたらしいソラによると。


「昨日、山の守り神が鳴いたんだって」

「守り神?」

「山に住んでる、それはもう強くて優雅で偉大な、その姿がちょっと視界に入っただけで思わず平伏してしまうような、かっちょいいドラゴンだって」


 ソラの「かっちょいい」という言い方に、少しトキメキ──ソラ風に言うと「萌え」──を覚えた。



「そうだ! ねぇ聞いてよ!」




「弱かったから守り神じゃないと思うけど、ドラゴン捕まえたからギフト使ってね!」


 絶対に守り神だと、ベルは確信した。



「それとあの土地にさ、オーガが居たんだよオーガが! まさか本物に会えるなんて思ってなかったから思わず『鬼の王オーガ・キング』で殴り合いしてきちゃったけど、ちゃんと今日からソラちゃんの土地だって話しといたから大丈夫!」




───ベルは、オーガ達の現在の心境を察してしまった。






・・・






 元・オーガ達の理想郷、元・ツィーバのオヤツ置き場。

 現・ソラの領地で、白いドラゴンとオーガは話し合っていた。



「……一族の者を、食べた感想は?」


「グワッ」(旨かった)


「そうか、なら良い。我々が動物を狩るように、我々が貴殿に狩られただけだ。これで不味いとか楽しむだけとか言われればあれだが、味わったのなら良し」


「グゥワ、グワッワッ」(小さいのに大きいな。これから食べられないのが残念だ)


「なに、それが自然の掟。それよりも……どうだ ?」


「……グゥ」(……飽きの来ない深み、貴殿ら『強き一族』以上の噛みごたえ、いつまでも続く旨味。いつまでも噛んでいたいと思わせる、まさに絶品と呼べる品だな、この『クラーケンのあたりめ』とやらは。これを一度味わえば、もう『強き一族』を好んで食べようなどとは思わぬよ)


「……まさか、我々を食らっていたドラゴンと、同じ物を一緒に食べる日が来るとはなぁ」


「ギャウ、クウゥウン」(なに、今はただの同士。アレとだけはもう二度と戦いたくはないのだ。絶対に嫌なのだ。だから仲良くするのだ。例え本心は嫌でも仲良いフリをしてもらわなければ困るのだ)


「……同感だ」




 白いドラゴンを引きづりながら歩いてきた仮面の『小さいが勇気ある者』に、恐慌状態、見た目の油断、現実逃避で襲いかかった『強き者達』。

 結果なんて分かりきったこと。


「オーガらしい歓迎だね!」


 どこをどうしたらそんな結論になるのかは知らないが、ソラと名乗る『絶対強者』は、ただただ強かった。


 そして襲いかかった全員を一瞬で瀕死にし、一瞬で治し、目覚めて襲いかかろうとしたドラゴンをよそ見をしながら一撃で沈め、今更そのドラゴンが怨敵だと気付いた一族の者をやはり一撃で瀕死にし、回復して、ドラゴン起きて一撃でやられ、一族の者がまたやろうとして一撃、回復、ドラゴン、一撃、一族、一撃、回復、ドラゴン、一撃、ドラゴン、一撃、ドラゴン、二撃、一族、一撃、ドラゴン、五撃。




 自分の腰ほどの、白いドラゴンが言うには『小さいが勇気ある者』の中でもさらに小柄な者に説教される、一族とドラゴン。




 世界に終わりは来なかったが、よく分からないものが来た。

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