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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
帝国編 ~土地を分けてはくれませんか?~
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空飛ぶ白トカゲ

少し、書き方変えてみました。


 

 魔物とは、生物の常識や進化の過程からは考えられない特性を持つ謎の生命体だ。


 全ての魔物の共通点といえば、『心臓を持たないこと』。


 ゴーレムやアンデットならばそれも当然だが、動物を模した、例えばソラが初めて戦った「ハングリーウルフ」。

 血管があり、血液があり、脳があり、その他の内臓はある。

 呼吸をして、空気を肺に取り込み、酸素を取り込み。

 肉を食べ、食べたものは胃で消化され、腸で吸収し、排泄物になる。


 血液は体内を循環しているのに、その流れを生み出すための心臓ポンプが無い。



 心臓の代わりにあるのは、ファンタジーでよく出てくる『魔石』。

 心臓と何が違うかというと、「鼓動しない」「動作中は劣化しない」「魔力を使う」「場所が一定ではない」。つまり、心臓病の心配が無い、死ぬまで血液を循環させるファンタジー臓器だ。


 魔物は、全盛期まで成長すると老化しない。それは魔石の力だと言われているが、実験という実験ができないので定かではなく。生物の心臓を取り出して魔石を埋め込んだところで魔石は動作しないため、不老どころか心臓を抜かれたことで死ぬだけ。


 魔物は種族・個体により独特な繁殖方法を持ち、交尾だったり、石に魔力が宿ったり、何も無いところから突然現れたりするが、魔物ならば必ず魔石を持つ。



 人に獣で『獣人』、人に精霊で『妖精』となるように。



 人に魔物で、『魔族』という。




───それにも当てはまらない生物が、『ドラゴン』だ。






・・・






 ツィーバがそれを見つけたのは、ただの偶然であった。


 いつものように海で食事を取り、帰りにオヤツでも食べようか、それとも帰って眠ろうかと悩んでいると。



 なんと「あまり美味しくないほうのオヤツ」が、巣に近い山の、一番高い所に立っていたのだ。


 これにはツィーバもビックリ。


 何度か巣でオヤツを食べられないかと運んだことがあるのだが、何故かいつも、この山を越える辺りで震えたり首を押さえたりで、巣に持ち帰る頃には冷たくなって美味しくなくってしまうのだ。

 生きたままか死にたて。それが美味しさの条件なのだとしたら、あの山の上のほうにはオヤツが死んでしまう呪いか何かがあるのだろうと、賢いツィーバは考える。



 それなのに、堅くて大きくて食べ応えのある「美味しいほうのオヤツ」ならまだしも、ちっちゃくて柔らかくて食べた感じがしない「美味しくないほうのオヤツ」が、生きたまま居るとは。



 ツィーバは考える。



 ……あれはもしかすると、美味しいのでは?








「あ、ドラゴンだ」


 太陽と重なるように滞空する、蛇型のドラゴン。

 白い鱗、長い胴体、手足には鋭い爪、大きな翼。色鮮やかな模様が描かれた翼膜は薄く太陽に透けて、まるでステンドグラスのようにソラの立つ雪山を鮮やかな光で染める。


 ワニと蛇と犬を足したような動物には髭と捻れた角が生え、ひょろりとした胴体から続く尾もまた長い。口から尾の先までなら十メートルにまで届きそうな。



 鳴いた。怪獣じみた迫力のある鳴き声。



 その頃、ベルの居る街では「山の守り神である白龍様が鳴いた」と、小さなパニックが起きていた。ベルはお昼寝中なため気付かない。






 仮面越しの大きな瞳をキラキラと輝かせたソラ。



 異世界に来てから一番の大きく、一番カッコいい。



「……土地手に入るし、いいよね?」



 殺したら消えちゃうから手加減して、ベルを連れてくるまで大人しくさせる。




 瞬間、ソラの小さな身体が、消えた。






・・・






 消えた?



 残念がる前に、ツィーバは頬にとてつもない衝撃を受けた。


 混乱しながらも空中姿勢を取り直して先程まで自分が居た場所を見れば、そこには宙に浮かぶ、見失った「美味しくないほうのオヤツ」が、居た。


「ありゃ、手加減しすぎた」


 今まで、オヤツの鳴き声だと思っていた言葉・・。何故かその言葉の意味を理解できた事に混乱が大きくなるとまた、消えた。



 手加減?



 今度は顎を下から。


 太陽を拝みながら、ツィーバは痛みではなく、理解できた言葉の意味を考えていた。



 誰が?


 自分が?


 誰に?


 オヤツに?


 なんで?


 なんで?


 なんで?


 なんで?




───オヤツが強いから?




───ツィーバが、弱い、から?





「グゥ……グギャアアアアアアアアアアァァァァァァ……!」



 ドラゴンとしての誇り。


 最強種たるドラゴンの本能。


 負け知らずのプライド。


 そして、初めて感じた恐怖。



 そんな怒りをぶち込んだ咆哮。




「よしっ、大体分かった」


 何か呟いて再度消えたオヤツに対し、ツィーバは身体を滅茶苦茶に捩り、翼をはためかせて暴風を起こした。



 これなら近付けまい!




「てぇい」



 動きも風もどこ吹く風。



 三度目は脳天に、これまで以上の衝撃を受けたことで飛びかける意識の中。



「……弱いけどコレ、本当にドラゴンなのかな?」



 ツィーバのプライドは、木っ端微塵に砕け散った。

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