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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
帝国編 ~土地を分けてはくれませんか?~
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ひとり、

連日更新は無理。




 

 宿屋へ到着すると、ベルはさっさと一人部屋を借りて引きこもった。


 一連の流れを宿のカウンターで見ていたソラは一言も無く置いてけぼりにされたことに少しふてくされたが、宿屋のおばさんは豪快に笑った。


「良いとこのお嬢ちゃんにこの街はキツいだろうね」


 それをきっかけに少し雑談してから町に繰り出した。


 宿屋のおばさんから情報収集。

 なんだかとっても待ち望んでいたような出来事に、ソラは少し元気になった。






・・・






 ここの領主は、伯爵の中でも一二を争うお金持ち。

 それは、良い土地に恵まれた恩恵だ。


 雲を貫く山がいくつも並ぶ山脈は資源の宝物庫で、近くには川も森もある。山を登らなければ厄介な魔物も出ず、一般の大人でも武器を軽く扱えれば近場ならば気軽に出歩けるという好条件。


 旅の許可を得たハンターが常に十組近く滞在しているのは、鉱山と装備に適した魔物素材の恩恵で、質の良い装備が揃っているからだ。



 さて、全ての生産を極めた証であるスキル<神の創り手>を所持、欠点もないので常に有効化しているソラ。

 スキル<目利き>もあるのだが、それよりも<神の創り手>のゲームではなかった効果の方が強いらしく、それはもうプロ顔負けのか鑑定眼を持っていた。


 因みに<目利き>は、知識を持っていることが前提。知識さえあれば本物偽物、材料、技法、誰が作ったのかまで見抜ける。

 <神の創り手>は、材料、出来、誰の作か、作成法、状態、込められたら想いなど、全て感覚・・で理解する。一種の超能力じみた、物に対する天賦の才能を秘めたスキル。



 そんなソラからすると、店売りの商品は全て駄作まみれ……な、わけではない。


 手作り品の味わい。

 現代生まれのゲーム好きな日本人として武器屋は外せないと思うソラだが、観ている感覚は「展覧会」。

 何十年もその道のプロとして武器を作り続けてきた人物の作品はそれはもう見事だが、見習いの作りが甘い作品も、武器に込められた向上心や情熱が感じられて嫌いではない。


 武器はこの街に一店しかない大型の武器屋に集めて売られているのだが、それぞれの工房でも入り口に見本代わりか、作品が飾られているのが面白い。


 大鎧に惹かれて立ち止まり、そのパーツを見ながら呟いた。


「鋳造品は少ないね」


「魔物との戦闘に備えればな。肉厚にすれば鋳造でもいけるにはいけるが、今度は重さがな」


 答えたのは店の主人か。

 小さな子供相手とはいえ、鍛冶場の男とは思えぬ丁寧な受け答え。


「此処は山が狩り場っぽいし、やっぱり軽い装備が流行り?」


 独り言に返事が返ってきたことに驚くこともせずソラは、隣で同じように大鎧を見るずんぐりむっくりとした髭親父に尋ねる。


「買い付けに来るだけの客も居るからな、そうでもない。だが此処を拠点にしているハンターはそうだな。最近だとデカい武器担いだ奴も、短槍とか鉈を補助として持ち歩く奴が増えたかな」


 腹にまで届く髭を撫でる親父。


「……全身大鎧は、無いよね?」

「……無いな」


 展示品としての見栄えと、貴族向けの置物なのだとか。



 ボルセと名乗るドワーフは、武器屋に武器を卸した帰り、工房の前で仮面を付けた子供がフラフラしているのを見て気になったのだとか。


「直売りはしないの? 武器屋と防具屋のボロ儲け?」

「あそこは領主様の店さ。小さな工房に商品を売るチャンスを与え、老舗や大きなトコは専用のスペースを貰える。それぞれが店を持ったら土地が足らんし街がゴチャゴチャするからな。まあ、特注品なら工房だが」


 それに、と小声で。


「売上から税は取られるが、こんな街だからな。殆どは鉱毒や騒音の公害対策に消えるさ。領主様々だな」


 領主は嫌われていない様子。

 対策をしてこの臭いなのだから、対策が無かったらどんなものなのか。


「この臭いは、鉱毒対策の臭いさ。もう十年以上経ってるから副作用が無いのは分かってるんだが、どうにも臭いがなぁ……」


 対策でこの臭いだった。

 鉱毒対策を中世並みの技術力で成功していることに素直に凄いと思っていたソラだったが、続く言葉がアレだった。


「鉱毒を餌にするスライム・・・・だが、なんであんなに臭うんだろうな」


 ああ、地球じゃ無理か。






・・・






 軽くなった馬車の御者席からその後ろ姿を見た時、ただ者じゃないと分かった。


 職人と領主の橋渡し的な役目を無理矢理押し付けられたボルセ。

 それは彼のギフト『観察眼』が鍛冶以外でも役立つことを職人街のまとめ役が知っていて、そんな彼を高く評価したからで。

 寡黙なまとめ役がそんな風に評価してくれていたことに、彼自身もまあいいかと引き受けた。


 そんな話は、今はいい。



 異常だった。


 隙だらけなのに隙が無い。


 『観察眼』で客に合う武器や防具を勧めたりするボルセだが、大鎧を見つめるその子供は。

 体格に合う短剣は勿論、王道の長剣や槍。異界の勇者が好んだと謂われる刀から、身長を遥かに越す馬上槍やドワーフでも持ち上げられない大鎚まで。かと思えば鞭や弓、果ては魔法まで使えそうだ。


 一番解らないのは。


 目の前に飾られた大男用の甲冑を着て、軽々と山越えをこなしてしまう、そんな絵が見えることだ。


「今度会った時は、私に合う武器でも作ってもらおうかな」 


「お安い御用さ。ただ……自分で作ったほうが、いいんじゃないかい?」


 子供一人に、まるで大勢の人間を一度で『眼』にしたような錯覚。

 ハンターであり職人であり軍人であり料理人であり魔法使いであり魔物であり他にも複雑に絡まり混ざり溶け合って、ひとりの子供に。



「……へぇ、さすが職人」


 何故、そんな異常相手に、自ら近寄り、話し掛け、気軽に会話できるのか。



「自分でもさ、いまいち何の武器が自分に合うのか分からないんだよね。だから参考までに、『観察眼』持ちのプロに仕立ててもらおうかなって」



 ──それはきっと、この『眼』の持ち主にしか解らない。



「あの山の向こう側に居るから出来たら持ってきて……なんてね」


 立ち去ろうとした背中に、ひとつ、言葉を投げかけた。



「『眼』の持ち主に気をつけな。……アンタ、かなりやばいぜ」


「忠告、ありがと」


 ひらひらと手を振りながら去っていった子供はそのまま、人混みへと紛れ、消えた。



 ボルセは馬車に戻ると工房へと帰り、弟子に声を掛けてから炉の前に陣取ると、そこでようやく、身震いした。

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