移動、説明回
短い気がする
城の隠し部屋にあった資料によると。
勇者の国『日本』は、この世界で言うネモンのように黒髪黒目の人種が多く住む島国で、バッジスとサクールを足したような人柄で、フォルダートのような食文化、だそうだ。
ネモンは王国から離れすぎてベルは詳しい情報を知らないが、バッジスはドワーフ国、サクールは平和が取り柄の中立国で、フォルダートは……フォルダートは……。。
『ゲテモノ食いのフォルダート』
「ソラ、貴方は日本人なの?」
白菜っぽい野菜の浅漬け。
ピンク色の身をした魚の塩焼き。
豆腐の味噌汁。
白米。
前二つは素材の名前すら知らない見た目ばかりだが、味噌汁、そして白米は完璧な出来。
ソラが作る料理がおいしかった時によく出るベルの「日本人なの?」発言は取り敢えず無視し、ソラは味噌汁を一口。
「……うん、完璧」
よくある異世界モノで、味噌、醤油、米を探し求め、偶然見つけ、主人公が狂喜乱舞する場面がある。
エセ中世的な世界観の『Persona not Guilty』だが、無くなると行動に制限がかかる「空腹値」を回復するアイテムの中には、何故か当然のように日本食がある。
料理は、材料がインベントリに入ってある状態で生産から料理を、そして料理名を選択するだけの簡単仕様。
殆どの材料は店で買えるのだが、宝箱、敵のドロップなどでも入手可能。
味噌、醤油、ついでに塩と小麦粉と家畜肉三種は、すでにドロップから手に入れていた。
なんの感動もイベントも無く馴染みの材料が手に入るイージーモードに、いささか異世界情緒が欠けているとソラは文句を口にした。
だからといって捨てたりなんだりせず、全て美味しくいただくのだが。
お米が手に入ってご機嫌なソラと、城の資料が間違っているのだろうかと悩むベル。
家から出ると、今日も空を飛ぶ。
後ろで飛んでいく家にも最近は慣れて、気にしなくなってきた。
実際の所、勇者大好き王国の貴族が食べているのは出汁を使った薄味、または一部勇者の影響でマヨネーズに合う料理を追求した『異世界料理、日本風』といった物で、王道的な日本料理ならば王族であるベルの口に合わないわけがない。
そしてゲテモノというのは、その資料を作って人物の時代に現れた勇者の故郷と、この世界の素材が組み合わさった誤解なのだ。
その勇者は北海道生まれの海鮮好きで、異世界の蟹と海老は、何気に強い魔物なのだから。
・・・
ベルの慣れもあって、抱えながらの飛行でもソラは結構な速さで飛べるようになってきた。
「山脈を越える前に街があるみたいだから、そこの宿屋でベルは休んでて。一っ飛びしてくるから」
「……そうね」
物分かりが良すぎて解説ができない。
「本当に分かってる?」
「皇帝がすんなりと渡した土地。山を越えられない何かがあるのか、それとも越えた先に何かがあるのか。それに、どのくらいの山かは分からないけど確か、高山病というものもあるそうね。ソラ一人なら、どんなに高くても平気でしょ?」
過去の勇者は高山病という知識も置いていったらしい。
そしてソラは、ベルに解説する機会を失った。
「説明しよう! ……って言いたかった」
「今言ったでしょ?」
そうじゃない、そうじゃないのだと強く言いたかった。
心なしか、飛行速度が落ちた気がした。