騎士は貴族で金持ちで、倒すとお金がざっくざく
予約投稿の日付を間違え、泣く泣く普通に投稿。
ソラたちは早速、皇帝陛下より承った……と、言うにはあまりにも軽すぎるノリで貰った土地に。
行かなかった。
賑わいを見せる大通りを歩く二人は、あっちにふらふらこっちにふらふら。
露天を渡り歩いては、衝動の赴くがままに大人買い。
「ピンク色のキャベツ……葉緑素ならぬ葉桃素?」
「ソラ、壷が半額よ」
「それは流石のソラちゃんも買わないからね?」
「武器屋だぁ~」
「ソラ、さっき別の武器屋に行ったばかりでしょ」
そのお金は、どこで手に入れたのか。
誰でも入れる冒険者ギルドといった職業。
親切、叉は襲われている商人や貴族。
困っている金持ち。
誰かを救い出すために貴族の家を襲撃。
そんな定番(?)イベントをこなさなかったソラは当然ながら日本円──それも学生の財布の中身程度──しか持っておらず、ベルに至ってはこの世界の住人なのに現金など触れる機会もない軟禁生活を脱したばかりの無一文。
お金より先に広大な土地を手に入れるという斜め上っぷりを発揮したように思えた。が、実はソラは土地よりも先に帝国の通貨を、本人が知らぬ間に手にしていたことにさっき気付いた。
あの、廊下に積み重なった騎士だ。
『Persona not Guilty』の戦闘システムの影響を受けているソラは「敵を殺す、敵消滅、アイテムドロップ」の流れが絶対であり、敵を殺さなければ、敵が光となって消滅しなければアイテムは手に入らないと思い込んでいた。
けれどメニューを開いた時に表示するようにオプションで設定していた『拾得アイテム欄』に、「帝国通貨」が額が少なかったり多かったりとバラツいたが並んでいたのを見て、数少ない例外があったことをソラは思い出した。
イベント戦。
フィールドでは普通に光となって消える人型モンスターだが。
例えば、街中でならず者に襲われるイベント。
例えば、戦闘に勝利すると仲間になる加入イベント。
例えば、人型ボスが敗北台詞を言う場合。
体力を無くすと倒れて、起き上がって会話が始まる場合、身体が消えていたらおかしなことになる。
ならず者イベントの場合、最初に倒した時は起き上がって会話が始まり、会話終了と共に全回復して逃げ出す。逃げたならず者を倒すと、今度は消滅する。
どうやら騎士は、イベントモンスターだったらしい。
──冗談はさて置き、恐らく、勝利条件がゲームより現実寄りになのだろう。
殺せば消滅で、肉体がアイテム化&アイテムドロップ&ゲーム通貨獲得。
気絶や戦意喪失による勝利だと身体は消滅しないが、戦闘に勝利したと見なされてアイテムドロップ&ゲーム通貨獲得。
ゲームでもお金を多く落とす人型モンスターだが、まさかゲーム内の通貨とは別にアイテムとしてもお金を落とす日が来るとは。
忘れがちだがゲーム内通貨を消費する『ポータル・ハウス』をお花摘みの度に使うソラは、日本でもニートルダムでも使えない通貨だが、メニューの額だけならば大金持ちで。
……花は外で摘むものだろと思った人は、お母さんか女友達に聞いてみるといい。
・・・
「はあぁぁ……」
大通りから一本外れた、歩く人影の少ない小道を眺めながら、男はその日、いや、その日も、憂鬱な溜め息を吐いてばかりでいた。
ギリギリで帝国領。大陸から見える位置になかったら帝国に気付かれなかったのではと島民たちが噂する島の出身である男は、海の彼方、水平線に横たわる大陸に憧れを抱き、若気の至りで飛び出してきたのは十年前。
帝都に辿り着いたはいいものの、腕っ節に自信のない男にハンターは無理。文官はもっと無理。
どこかの店で雇ってもらおうにも学も容姿もダメダメな男の需要など一欠片も存在せず、島から出るときに世話になった行商のコネで、こうして店番をさせてもらっている。
「はああぁぁぁぁ……」
特大の溜め息。
その店が、またあれなのだ。
わざわざ海を渡ってまで金にならないことをする親切な行商だとは思っていたが、辺境の島や村なんかに行商をすると国から馬鹿みたいな補助金が貰えることを、男は島を出てから知った。
あの行商はその補助金目当てで。島でもなんだかんだ仕入れてはいたが、その買った物は全部、こんな売れなさそうな店舗で適当に並べて『お店ごっこ』をするためだと教えられ。
そして、『お店ごっこの従業員役』をこなす自分。
憧れの大陸で、見慣れた物に囲まれた生活。
冷やかしが一人来ただけでその日はマシな方で、大半は一人で座りっぱなし。
「はあぁ……島から出なきゃ良かったかもな……」
「これ、いくら?」
「あぁ?」
開けっ放しの扉からいつ入ったのか、ヘンテコな格好のガキが一人、目の前に居た。
貴族が着る服かってくらいジャラジャラした服に、何故か鼻から上を隠した仮面。
「だから、これいくら?」
「あ、ああ……このお椀一杯で五ルズ。そこの大袋なら一つ百だ」
どっかのボンボンが顔を隠してお買い物かと、何でわざわざこんな廃れた店に……と男は嘆く。
「一粒、手にとっていい?」
変な質問に固まり、なんとか頷くと、一粒取ってじっくりと見るガキ。
「うん、店にあるの全部ちょうだい」
「はいぃぃぃ!?」
男は驚いた。
何をって、会計台に置かれた金貨の山。
ざっと見ただけでも五十枚。
明らかに、物と量に対して過剰すぎる金額だ。
それからのことを男は、実はあまりよく覚えていない。
ただ、店の主人に伝えるように頼まれた、伝言だけは忘れていなかった。
「王国で召喚された勇者にも売りつけるといいよ。きっと今頃、お米が恋しくなってるだろうから」
ソラ、お金とお米をゲット。