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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
帝国編 ~土地を分けてはくれませんか?~
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皇帝

 執務室でいつものように書類に目を通していた皇帝は、生産量が安定してきたことでようやく毎日のように飲めるようになった好物の茶を啜りながら、何だか騒がしい廊下側の扉に目をやった。

 ただぼんやりと「何だか騒がしいなぁ」と思いながら扉を見ただけなのに、お茶を入れた後、壁際に待機していたメイドが小さな悲鳴を上げた。


 そして、皇帝に対して悲鳴を上げるという粗相を仕出かしたメイドは顔を青く染めた。




 顔が怖くて悪かったな。


 ああ、またか。特別なお茶の入れ方を覚えたメイドが辞めていくのは。


 メイド長にどやされる。


 そんなに怒るならメイド長が直接お茶を入れてくれればいいのに。




 本来なら誰もが見とれる美形なのだが、ギフトでも魔法でもない、皇帝オーラとでもいうべき迫力が常に全開な皇帝様。圧倒的な恐怖心から、まともに顔を合わせられないのはメイドだけでなく、貴族、文官、武官、民間人。


 それどころか。


 広すぎる帝国内、どうしても皇帝の手が届きにくい地域が出てくる。そんな地域に自治権を与えさせた大貴族『大公』を割り当てているのだが、他国では王として扱われるその大公までもが怯える始末。


 反乱の心配が皆無なことは良いのだが、毎回毎回顔を合わせる度、場所を考えずに顔色を悪くするのは止めていただきたい。

 偉そうな奴がビビると、周りはもっと酷いことになるのだから。




 明日も会えるのか分からないメイドの為に溜め息を抑えた丁度その時、皇帝の執務室だというのにノックも無しに、血相を変えた厳つい男が扉を開けて飛び込んできた。



 可哀想に。


 メイド長のお仕置き部屋行き確定だな。



 呑気にそんな事を思う皇帝。



 対応とお叱りのためにお付きの文官が立ち上がろうとする前に、男は汗と涎を飛ばすように叫んだ。




「姫様の部屋に賊が侵入! 騎士では歯が立たず、賊は姫様と共に部屋に立てこもり中! 御逃げくださ──」




 ──言い切る前に皇帝は立ち上がり、扉を塞ぐ男の横をすり抜けては駆け出していた。




 ──娘の下へ。






・・・






「こ、これは……」


 娘である王女の部屋に辿り着いた皇帝陛下は、その余りの光景に絶句した。





 廊下の壁に積み上げられた、騎士の山。




「生きているのか? おい爺、説明を……ん?」


 賊とやらに返り討ちにあったのだろうが、全員が気絶しているだけで血は一滴も流れていない様子。


 皇帝は、賊が現れたというのに何故かこの場に残っている数人の使用人の中に長年城に仕えている爺を見つけたので呼びましたが、呼んでから、この場に居る以上に不思議な点を見つけてしまいました。



 使用人が全員、調度品を手に持っているのです。



「これはこれは皇帝陛下。賊が現れたというのに皇帝陛下が自らお出でとは、わたくしが知らぬ間に王位を誰かに譲られましたかな?」


 爺のからかうようなその態度から、特に危険は無いのだと分かる。だが、その態度とは合わないものが。


 オブジェと化した騎士である。



「姫様の部屋から悲鳴が聞こえまして、丁度通りかかったわたくしどもと騎士で無礼を承知で部屋に入ると、そこには仮面を付けた子供が姫様とおりまして」



 皇帝は、『仮面の子供』というワードに警戒心を強めた。



 隣国の王女誘拐犯と同じ特徴。


 それが、帝国の、誘拐されたのと同じ、姫の下に……。



「先頭を切って入った騎士に対して、賊は言いました」


 警告かと、皇帝は思いました。それ以上近寄るな。近寄るなら姫が……といった。




「『あ、テーブルの反対側、持ち上げてくれませんか?』」



 ガクッときた。部屋の模様替えか。



「続けてわたくしたち使用人に対して『ここにコタツ出すのスペース作るから、ちょっとそこの家具どかしていい?』。そう言いながら上に乗った皿や蝋燭立てをわたくしたちに手渡し、家具を一人で動かし、何も無いはずの空間からコタツを取り出すと、姫様と一緒に温みだしました」


 温み……!



「賊の背後に黒い渦が生まれると、姫様と同年代らしき女性がその中から現れまして。三人は仲良く、最近皇帝陛下がお飲みになられている緑茶と、黄色の果実を召し上がりながら会話をしておられます。まあ、姫を救い出しどうのこうのという名乗りと共に何名かの騎士が突入しましたが、結果はこの通りで」



 この爺は騎士と賊、どちらの味方なのか。



「ところで皇帝陛下。わたくしたちは、いつまで調度品を持っていれば宜しいのでしょうか?」




 マイペース過ぎる侵入者と使用人。場合によっては状況を悪化させる独断を行った騎士。賊と仲良くなったらしい我が娘。






「───意味が分からん!」



 皇帝はもう何もかもが面倒臭くなってしまい、きちんとノックをしてから、娘の部屋に入りましたとさ。




とりあえず、ごめんなさい。



帝国は「勘違い系主人公の王と、変わり者だらけの側近たち。国として成り立っているのが最大の不思議」な、よくある設定のよくある舞台を、そこを主人公にしないで外野として出したらどうなるのかというアプローチです。


成り上がる様や建国の過程、キャラたちの背景なんかをすっ飛ばしていきなり登場させると、作者の腕前と合わさり、爺とかの色物キャラがかなり不気味になる。



国のトップにこの態度は無いよなぁ……が、標準です。




一番の変な原因は、一人称のせいかもしれない。



ごめんなさい。

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