意外と簡単に貰える物
2013/12/1 タイトル修正
少し前の事。
ポータブル・ハウス内にて。机に地図を広げ、拠点作りで一番重要な『場所』について話し合っていた二人。
「魔物コレクターとしては、海水と淡水は揃えないと」
「森は無いと駄目だし、湖も近くに欲しいかな」
「隠れ里なんだから、人目に付きづらいのは絶対だよ!」
「島もいいなぁー」
「空飛ぶ島……現実的に考えて、地上との移動手段とか気圧とかその他もろもろ、問題が山積みなので後回しー」
「住民は種族差別禁止。それ鉄板」
「あ、畑とかも作らないといけないし、土質も大事かな」
「火山……フラグになりそうだし、今回は手を出すのを止めておこうかな。天然温泉は何とかなるし」
話し合いというか、ここは既にソラの独壇場。指で地図をなぞっては、ああでもないこうでもない。住人を招くのは温泉、海と並んでの決定事項で。大陸の縁をなぞるように探す。
そして見つけた候補地は、山脈に閉じ込められた空白地帯。森、川、湖と、手付かずのままの自然、そして良い感じの入り江。
現在地──ガングリファン帝国とラクール王国の境──から地図の上では近く、ソラの全力ならば一時間で着ける程度の距離。ベルをだっこしながらだと『悪魔の森』を抜ける時の倍ほどの時間が掛かり、人が徒歩だと半年は掛かる距離。ソラの全力の異常さが際立つ。
「よし! 早速開拓してくるからベルは待ってて!」
「待ちなさい。そこは帝国の領土内だから、もし見つかった場合、何かと面倒よ」
「……あれ? 未開拓地じゃないの?」
ソラは隠れ里を建設するため、都市や村まで書き込まれた地図を見て、それらしいモノが近くに無いことを条件に探していた。山脈に囲まれた四国ほどの広さがある土地は、まさに陸の孤島。
だがしかし、ここで残念なお知らせが。
「確かに未開拓地ではあるけど……この大陸にある国家の常識としては、大陸上、どこの国の領土でもない空白地帯は、存在しないことになっているの。未開拓地も、開拓は出来ないけど国が所有する土地の中、ね」
地球もそう、と言えばそうである。国連の何たら、実質的支配地。手を出すことを禁止されていたり、とても人が住めるような環境ではなかったり、政治的なあれこれだったり。誰の土地でもないから国を作ります、なんて事は出来ないのだ。
開拓系主人公だったのならば、そんな常識無視して開拓して、発展した副次的効果でその存在に気が付いた大国に「奪いに来るなら戦争だよ?」と、現代知識を元にした兵器とかで国に喧嘩を売るのだろうが。
冷静に考えれば、勝手に庭に住み着き「家建てたからオレの土地」と、同じことか。
しかし大体の物語は、国の役人だった主人公が飛ばされて開拓して政治的なんとかで独立して、とか、どこの国にも属さない土地が本当にあったりとか。
ご都合主義というかファンタジーらしいぶっ飛び政治というか、何でも有りだ。
ならばソラも、ファンタジーらしく何でも有りで。
建国するつもりは無い。村を作るだけなのだ。
「それじゃ、帝国の一番偉い人から許可貰えばいいよね! 口止め込みで!」
───人、それを「脅迫」という。
・・・
基本、ベルの時と同じである。
門じゃないのに門番が居るわけもなく、城壁に張り付く警備員が居たら普通はおかしい。
たまに、壁に張り付く専用の装備を着込んだ兵士、という実用性を疑いたくなるようや敵が現れるゲームもあるにはあるが、ゲームっぽいけどここは現実の世界なので、トチ狂った軍略か歴代勇者が阿呆でない限り、現れないだろう。
空からテラスに着地し、窓拭きをしていたメイドさんの尻を追っかけながらの入城。
ベルは居ない。
隠密スキルの効果は、仲間にまでは発揮しないのだから置いてきた。何やら用事もあるらしい。
城でテラスがある部屋というのは、実はそんなに多くはない。進入路を増やすのは王の家としては適切ではないし、そんなポンポンと出っ張っていたら外観の見栄えも悪くなる。
ベルの部屋の場合、陽の当たらない冷遇された部屋位置だったがために、小さな出っ張り程度のテラスを設けられていた。代々の『魔の目』持ちが暮らした部屋だ。
それに比べて今回のテラス付きの部屋は、テレビでよく目にした『王族が城のテラスから手を振るシーン』に使われる、城前広場を真っ正面に見据えた、陽当たりの良い応接間的な部屋。イベントの時に王家の方々がスタンバイする、云わば控え室。
エプロン、ロングスカート、カチューシャという王道のメイドさんに惹かれつつも。
「王様どこー?」
視界の端に表示したマップを見ながら、ソラは人捜しイベントを開始した。
誰だ、ヤツを飼い主抜きで解き放ったのは。
幾多の寄り道をこなし、数多の戦利品を手にした子供。
誰も自分に気付かないというのは、透明人間になったかのような背徳感をソラにもたらし。
執務室にて仕事中の皇帝を見かけたりもしたが、それは無視。
そして現在、ベルの時と同じように。
王女の部屋の天井で逆さまになりながらの体育座り。頭に血は上らないのだろうか。
そしてベルの時とは違い、着替えを十分に堪能した。
着痩せするタイプらしく、ファンタジーらしい赤髪と合わさり、お転婆で豪快な印象を受けた。御馳走様である。
「満足!」
「誰!?」
何を思ったか、天井から降りるソラ。
着替えのためのメイドが出払い一人となった部屋に、突如として現れた声。
驚くお姫様が振り返るとそこには、何ともいえない格好をした、推定・暗殺者の姿が。
スニーカー、ルーズソックス、スパッツ、ミニスカ、ヘソが透けて見える網タイツのような肌着、ポッケが沢山付いたベスト、指貫グローブ。
そして、風車のかんざし、狐の面。
『Persona not Guilty』の忍者装備で、正統派クノイチシリーズと──見た目の──人気を二分する『忍者娘シリーズ』。忍者娘シリーズではないが、厚めのスパッツ、ショートパンツの脚装備と合わせてもそれっぽい。装備としての性能は正直、とても低いが。
暗殺か、誘拐か。
警戒しながら、どうにか廊下に居るはずの騎士に異常を伝えようと声を上げようとした姫に対し、侵入者はそれに気付いたかのように先手を打ってきた。
目にも留まらぬ速さで懐に潜り込み。
「おっぱい!」
……見ているだけでは、我慢が出来なくなったらしい。
「イッッ……!」
「キャアァァア!?」
スナップの効いた、大変素晴らしい一撃だった。
ソラが、百合というより変態になっている気がする。