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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
帝国編 ~土地を分けてはくれませんか?~
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ファンタジーに於ける民主主義議論

 勇者召喚で有名──それしかないとも言える─なラクール王国のお隣、ガングリファン帝国。


 海、山、そして未だに人の手が伸びていない秘境に面した大国は、「異世界テンプレート帝国編」の如く、強力な軍事力を保有している。


 それは初代の時代。

 ラクール王国と魔族の大陸とを直線で結んだ時、間に存在する唯一の国家故の力。

 魔族に大きな被害をもたらした初代勇者を召喚した国。そこを目指し海を渡ってくる魔族の大軍を、自国を護るために決起した帝国。



 魔族とも和解した今、やろうと思えばいつでもお隣の勇者国を飲みは干せるのだが。

 秀でた特産も無いつまらない土地に魅力は無く、何より、世界最強にもっとも近い魔王が怖れる『いざとなったら勇者召喚』が発動した場合、事によっては大損害どころか帝国の滅亡すら有り得るのだから、やるせない。


 全ての勇者が強いとは限らない、という情報は出揃っているのだが。


 誰が、大した賞金も無しに、ジョーカー引いたら即死亡の賭けに挑むというのか。




 ……もしもベルが、王国ではなく帝国の姫だったならば。




 もしかすると、ifではあり得たのかもしれない。






・・・






 数度の革命、夢と散った反乱、未開拓地の開発、魔物による領地の削減とを幾度と無く繰り返してきたガングリファン帝国は、いつしか、大国としての貫禄、安定、力を手にしていた。



 それは貴族の力を奪う……ことはなく。



 隣国が勇者を召喚する度に、王国と友好的であること、大国であること、そして、魔国へ一番近いこと。

 そんなことから帝国は、王国の次、時によっては王国以上に勇者たちと関係を深め、異世界の知識を積極的に集めていた。


 王国はお風呂や料理など、勇者の身の回りに関する情報を集めていたのに対し、帝国は主に政治や軍事、歴史についてなど。


 過去十人に届かない人数だが、勇者全員が語った“民主主義”について、過去から現在に至るまでの帝国上層部はまつりごとの知識として民主主義を理解しており、だが未だ、帝政を続けてきた。



 魔物の影響だ。



 歴史上、自然災害的な魔物の襲来を数十年おきに繰り返してきたのだ。だからこそ独断で強制力のある、縦割りの、上から下まで迅速に届く指示誘導というもの如何に大切か、身にしみて理解しているのだ。


 それが民主主義らしい横繋がりになった場合、間に色々と挟むために一番上からの指示が届かなくなり、近くにいる人の指示でグループ毎に勝手に動いては混乱を招く。そしてその被害を上のせいにするのだから、上からすれば堪ったものではない。



 外敵が居ないのであればそれなりに有効である民主主義も、云わば緩い戦時状態を常に維持する異世界では、その力を発揮するのは難しいであろう。








「──って、私は思うんだ。ファンタジーに民主主義は合わない。皇帝はロマンだよ。何だかんだでゲームだと、民主主義とかそれに近い国家って、出てきても敵に内部まで侵入されて滅亡寸前までいくフラグだしね。裏切りありの」


 お茶をズズー、と啜る。


「それと、異世界転移モノの定番で主人公が王様っぽい立場になる作品とかよくあるけど、民主主義を目指している割には、ああいう主人公ほど独断が多いのが気になる。頭良い人に政治丸投げで、勝手に公共事業やったり、勝手にヒロイン増やしたり、戦争に突入したら担ぎ出されたり戦ったり。国民の支持を受けたら何でもやっていいって感じがする。まあ、民主主義のトップを主人公にしちゃったらファンタジー風味の政治とお金の話になっちゃうし、それはそれで需要はあるけど……」


 煎餅を食べやすい大きさに割り、口に運ぶ前に。



「それでもまだ、民主主義目指しちゃう?」




 真紅な髪を一切弄らず、肩甲骨の下に届くまで伸ばした少女。


 つり目で勝ち気な印象を受ける美少女。子供と大人の間の危うさを漂わせ。胸は無いが、スレンダーなモデル体型は同年代の少女に憧れを抱かせるであろう。



 そんな少女は今、眉間に皺を寄せて唸っていた。




 西洋風アンティークに囲まれ、絨毯やカーテンなどが少女の赤髪に合わせた暖色系で纏められた品の良い部屋。




───そして堂々と部屋の中心に存在する、コタツ。



 一度入ればなかなか出られなくなる魔の四角形。その四辺は人で埋まり、それぞれが「帝国の政治の在り方と民主主義」について熱く語り、議論を纏め、思い思いに過ごしていた。




 ミカンの皮を剥いては食べずに皿に纏めているベルは、積まれていく皮の処理について、密かに悩んでいた。


「現状上手くいっているのだから、無理な改革は必要無いと思うわ」


「だよね。それとも、国民に血を流させるの?」


「そう、だよねぇ……」




「ぐがぁぁ~」




 何とも奇天烈な部屋の中、お洒落や甘いものの話とは正反対な話をする少女たちの声と、帝国で一番偉い・・・・人間のいびきが、何ともいえない空間を生み出していた。

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