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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
それぞれの物語、謎の介入者
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英雄の卵は村を出た

 村を出ることとなった『流れ星』。

 その後進となるハンターチームが連絡を受けてから十日後の朝に到着したため、念入りに掃除をしたギルドハウスの受け渡しを済ませた後、『流れ星』は入れ替わり首都へと旅立った。



 引き継いだチームは男ばかりで、挨拶に訪れた『流れ星』の女性陣に鼻の下を伸ばしてデレデレ、その遠ざかる中で唯一の男の背中を睨み付けた後、自分たちの不運を嘆いた。やれお前の顔が怖いとかスケベそうだとかそもそも同期に女が居ない、居たのは人間を名乗る女型のオークやゴブリンだけだったとか下らない、そんないつもの話をしながらギルドハウスへと入っていった。






・・・






 尻が浮く振動が何度も何度も、タイミングをずらしながら襲い掛かってくる恐怖の荷馬車。その荷台に屋根は無く、本来の仕事は藁や家畜の餌を運ぶものであって、決して人が乗る造りにはなっていない。


 何たって村に棄ててあった荷車をタダで譲り受け、オードが適当に補強しただけの「ゴミ」である。



 ハンターが村に配属される場合、ギルドは移動手段を用意してはくれない。


 村に配属されるのは初心者を脱却した直後のチームなので、殆どのチームは馬車を買ったり借りる余裕が有るわけもなく。

 節約の為に徒歩が基本。それが、ハンターの間で囁かれる伝統である。


 そして昇格して村からギルドに向かうハンターもまた、小さな村に馬はともかく、馬車が売られていることは滅多にない。


 今回、老いぼれた馬が格安で買えただけ『流れ星』はマシである。




 チームの頭脳ブレインであり最年長の魔法使いカタリナは、後進が来るまでの間に手作りしたクッションや、使い古した毛布を荷台に敷き詰めることでそれを少しでも緩和した。手作りのクッションはカタリナの作だが、実家に溜め込んだ「カワイイものコレクション」の中には入りそうにない見た目の、実用性重視な安物だ。


 メンバーは喜んだが、本人は心の中で残念がった。





「今日は野宿?」


 屋根は無いが十分な広さはある荷台で、退屈そうに寝そべりながらニーナは訊ねた。



「そうね。確か、柵と門だけのキャンプ地があったはず」


 来るときにも通った道だ。


 あの時は確か、チームの女子力の低さを頑張って上げようと意気込んでいたような気がすると、カタリナは思い出す。


 そして早くも計画が挫折した、有る意味では思い出のキャンプ地だった。




 王都では宿屋と酒場、仕事中はパンと携帯食料。食べる物には困らなかった。



 安全がそれなりに確保されたキャンプ地で、これから行く村で携帯食料が売られているとも限らないので野宿でも食事を作る機会が増えるだろうからと、広さはあるキャンプ地でバラけてそれぞれ野外料理を作ることとなり。


 実は初めてだった料理で、カタリナは大失敗。



 どうしてか、シチューが爆発した。



 結局は、故郷で狩人をしていた経験から簡単な肉の捌き方や焚き火での調理法を知っていたアルセが料理当番となり、次点で男料理のオード。


 カタリナ含む他三名は「料理禁止令」が発令され、己の女子力を過信していたカタリナはプライドがズタズタに。


 男に料理で負けたという絶望から、カタリナはオシャレ女子から飲んだくれ女子へと堕ちたのだ。



 ──決して、肉を焼こうとして焚き火に生きたままの猪を投げ込んだ残念娘ニーナや、鍋と蓋の間から、ヌルヌルとした紫色の触手が顔を覗かせた謎娘ネルフィーと一括りにされた事とか、二人の女子力に絶望したとか、料理的な意味ではニーナには負けた気がしたとか、ネルフィーに苦手意識を持ったとか、そういう事ではないのだ。



 ……そういえばあの鍋、キャンプ地に放置したままだったようなと思い出し、カタリナは嫌な事を追い出すように頭を振った。







「おい、何だか様子がおかしい」


 御者席で手綱を握るオードが、異変に気が付いた。


 遠目に映るキャンプ地で、焚き火にしては異常なほどの白い煙が立ち上っているのだ。



 まさかあの鍋が……と戦慄する一名を除き、オード、ニーナ、ネルフィーはキャンプ地ではなく、老いぼれ馬に跨がるアルセを見つめた。



「……誰か利用しているようです。煙は、水蒸気?」


 視力に関わるギフトを持つアルセは、手のひらで太陽光を遮って目を細めた。


 見た限り、水蒸気以外、人の姿が一緒見えただけ。


「争っている様子は?」


「無いみたいです。ん、子供? ──いや、あれは……」


 オードが寝かせてある相棒の柄を握りながらいつでも降りられるように構え、ニーナが剣と盾を構えて不安定な荷台に立ち上がり、ネルフィーは荷台に隠れ、落ち着きを取り戻したカタリナは、杖を持って集中を始めた。




 どうしようかと振り返ったアルセが見たのが、仲間のそのような反応である。




「ネル以外は頼もしい、いや、回復役が身を守るのは当然、か。……純粋な戦闘力なら最強なのに、どうして回復にこだわるのか……」


「……おい、俺らの行動を評価する前に、状況を報告しろ」


 目にしたモノのせいで気の抜けたアルセは、オードと目を合わせ、見えた物を教えてあげた。




「──『おっぱい』と書かれた木の板を持ったソラが、こちらに向かってその板を振っています」




「真顔で言うな。恥じらいを持て」


 一気に気の抜けたオードとは別に、一人は満面の笑みを浮かべて荷台から飛び降り、一人は隠れたままだと思ったら寝息を立てており、一人は自分の胸を庇った。



「……まさか、薬の取り立てに、わざわざ?」


 対価がコレな辺りがアレだが、その効果は、時の支配者たちが戦争を起こしてでも欲しがるような馬鹿げた物。




 仲間にはいつか話そうとしている秘密──『魔女の正当後継者』──にも関わるので、薬品にはそれなりに詳しい自分が知らない、それも身体の欠損すら治してしまうような薬を、胸を揉ませてというアホな理由でホイホイ手放せる人物。


 それだけではなく、決して壊れない、劣化しない武具。そして不思議な本を、出会ったばかりの自分たちに渡すような……。



「いや、あの子は、もしかしたら私達・・の秘密を──」




「『カタリナおっぱい、揉み放題。直ですか? 吸うのは有りですか?』。カタリナ、此方から返事を返したほうがいいですか?」




「……オード、お願い。一発殴らせて」

「なんでだよ!?」



 真面目モードを一蹴されたアルセの平坦な声に、カタリナは拳を丸めるのだった。


 あの仮面の下は絶対にカワイイと断言出来るからこそ、カタリナには殴れそうになかった。

次も卵です

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