思い立ったが何とやら、以心伝心は難しい
2014/3.17 誤字修正
空を飛んでの移動にも慣れ、最近の運動不足が気になりだしてきたベル。城から一歩も出たことがない軟禁状態の時でも、城内をウロウロと、使用人や貴族に避けられながらしていたのだ。
因みに、騎士と一部の男性貴族だけは、厄介者の第三王女を避けることは無かった。
王族には変わりないので見初められれば出世間違い無し、不気味なギフトを持っているが、見た目は良い高物件。魔物を操るというギフトの有用性は戦う者である騎士ならば簡単に気が付くし、魔物に合わせなければ無意味なギフトなので家に閉じ込めて外に愛人でも作れば良いだけの話。
流石に王族を衆人の前で口説くほど勇気ある者は居なかったが、居なかったからこそ「女好きの大貴族」「男好きの騎士団長」、そんな二択の婚約者が用意されたのだが。
「隙間風が入りそうで絶対に布団が固そうな、あの村の廃れた宿屋に泊まってみたかったんじゃなかったの?」
体重が増えていないかとだっこされたまま気にしつつ、村の宿屋を絶好調で貶すベル。
足の速い獣人が花咲きトカゲの確認に向かった隙に書き置きと『例の本』を村長宅に残したソラに手を引かれるがまま、隠れるように村を飛び出したのだ。
訳が分からないが何かソラなりに考えがあるのだろうと従ったベルは、村が見えなくなったのを確認してから訊ねた。
「ベル……いや、でもなぁ……」
歯切れの悪い答え。
「……うん、本人には教えないと駄目だよね」
勝手に納得。
決意を秘めた目をしたソラは、腕の中のベルと目を合わせ──
「レベルが五十を軽く超えた、今のご感想は?」
聞き間違いかと思ったベルは首を傾げ、浚われてからの行動を思い返し、納得し、また首を傾げた。
パワーレベリング。
強者の力を借り弱者が簡単に経験値を稼ぐ、ゲームでよく見られる手段。
状況も方法も様々だが、オンラインゲームの場合、本人の腕に不釣り合いな高レベルキャラを生み出すため、固定ではない寄せ集めのパーティーを組むと大抵はバレて嫌がられるケースが多い。
ソラにとっては異世界、ニートルダム。
『Persona not Guilty』という非レベル制のゲームの縛りを受けているソラ以外の生物──人間以外にも動物や魔物も含む──は、全てレベル制。
村人なら十もあれば高い方で、安全な首都から出たことがないような市民なら五以下で当たり前。
一般的な国の騎士なら、成り立てが十、一人前が二十、隊長クラスなら二十五から四十の間。団長は貴族の世襲制の場合が多いので参考にならない。
ハンターズギルドの場合、二十まで大きな街のギルドで世話を見て、三十まで村を任せ、それからようやく旅が許可され、生き残りの殆どが五十を過ぎた辺り、百に届くことなく引退する。
「悪魔は一番ちっさいのでも百超えてたし、花咲きトカゲも一匹五十ちょいの百匹近くだし、そんなの近くで倒しまくってたら、そりゃいくよね。ベルは早熟型っぽいし」
早熟型とは。
育成型RPG等のレベルの上がり方にキャラによって差があるゲームで、次のレベルアップまでの経験値が少なくて済む、つまりは成長が早いキャラのこと。
他には、晩成、普通とか、ある所までは上がりやすいけど突然上がりづらくなる何て表現したらいいのか分からないのとかその反対とか、ゲームによって様々な違いがある。
早熟型は成長が早いので序盤で使いやすいが、最終的には育った晩成型にステータスで負けてしまう。が、大抵のゲームでは晩成型を最大まで育てるのはやり込み要素に含まれるので、クリアを目指すだけなら早熟型の方が各段に使い易い。
そしてこれはゲームではないので、「ベルは早熟型」というのはソラの勘でしかない。
そのソラには<直感><推理>などの勘を鋭くさせるスキルがあるので、ただの勘と切り捨てるのは難しいが。
悪魔の最低レベルを知ったベルは、頬がピクリとした。
「多分、ベルの『魔の目』は同レベル帯か格下の魔物にしか効かない系のスキル、じゃなくてギフトだと思う。今までの敵を見た感じ、五十までいけばそれなりに選び放題じゃないかな?」
ギフトの推察も勘とゲームでの経験だが、過去の文献を読んだベルの知識とも一致する。
魔物にもレベルがあるという今の常識が広まったのはここ数十年の話だが、個体によって強さが異なることは書物が開発される以前からの常識で。
『魔の目』の初代所有者は「己のレベルを上げれば今は敵でもいつかは仲間となってくれるであろう」と、何度も横線やぐちゃぐちゃに掻き消した跡が残る情熱の籠もったポエムの下に小さく書き遺していた。どうしてそこに書いてしまったのか。色々と台無しである。
「だから、ベル!」
仮面の穴から覗く目をキラキラと輝かせたソラが言う。
あの村──村の名前をソラは聞いていない──からわざわざ離れたのは、あの周辺では『悪魔の森』の影響で魔物が少ないからだ。
「魔物仲間にしよ!」
「え、嫌よ」
墜落と誤解するほど変わら速さのまま着陸したソラはベルをそっと立たせてから、体育座りで永遠と地面に「の」を書き続けた。