誤算と仕様
『Persona not Guilty』は、広大なフィールドを自由に駆け巡ってモンスターを倒したりエリアを行き来したりする、所謂「オープンワールド」や「オープンフィールド」と呼ばれるジャンルのアクションRPGである。
ストーリーは、強制的に仮面装備(種類豊富)の主人公が仮面のせいで怪しい奴扱いされながらも目的地に向けて脱線を繰り返しながら世界を旅する、終盤まで進めないと仮面の意味が分からないユーモアとシュールを含んだRPG。
ゲームの目玉となるシステムは、行動やイベントで手に入る豊富なスキル、魔法、アイテムを、自由に組み合わせたり調整したりできる『パレット』。
知識の無い者には複雑過ぎて訳が分からないそれはしかし、少女にとっては異世界無双を可能とする最大の武器であった。
そんなゲームの『システムメニュー』を能力として得た少女は、というと……。
「…………お、なか、すいた……」
通学途中で異世界に着てからスキル集めに情熱を費やし、今は夕暮れ時。
十時間近く何も口にすることなく、安全だと思われる神殿の中でへばっていた。
──《スキル<仙人>獲得》
「……<仙人>の習得条件は、ポーション含む“口にするアイテム”の十時間使用禁止で合ってたね」
少女は別に、この称号を得るために努力していたのではない。
「あぁー…………ソラ、でいいや」
《ソラは『パレット』を使えるようになった》
そんなウィンドウが少女の目の前に現れると、それまで腹を空かせて身動き一つしなかった少女は、むくりと起き上がって胡座をかいた。服装はブレザーで、勿論スカートである。
「『名乗りイベントまでスキル使用不可』が、今の状態でもかかってたなんて……」
ゲームの仕様で、キャラクターは最初、スキルは覚えられるのに使えない状態から始まる。
その後、最初のイベントである『宿屋のチンピラ退治』をクリアすると、チンピラがアイテムとして『パレット』を落とし、宿屋の親父に名前を聞かれ、そこでようやくキャラクターネームを付け、チンピラを追い払った礼として『パレット』のチュートリアルと宿屋の値引きを受けるのだ。
少女──ソラは当初、ゲームにも存在した“空腹値”を自動回復する効果がある常時発動型スキル<光合成>を頼りに、外でスキルフィーバーを体感していた。が、おかしいと感じるまでに時間が掛かってしまったのは不幸か幸運か。
「……さすが<仙人>、空腹値の減少が止まった」
で、原因に思い当たりはしたが、異世界は何が起こるか分からないのでどうせならと、空腹値の減少を抑える効果がある<仙人>スキルを習得しようと。
そして逃げ道を作ると自分を甘やかしそうだったので『キャラクターネーム』を後回しにしたのだ。習得したスキルの中には水を生み出す物があったからだ。
暗闇でボーッとする。ようやく反映された<暗視>スキルのお陰で、色以外はハッキリと見える。<暗視>中に視界が白黒なのは、ゲーム時からの仕様。
「仕様には縛られるのかぁ」
現実になって自由が増えた分、些細な縛りが窮屈に感じられた。
「お腹空いた……あの木の実、食べれるかな……」
のそのそと億劫そうに立ち上がったソラは、減りずらくなったとはいえ増えた訳ではない空腹感に背中を押され、外で見かけた花と一緒になる不思議な実が食べられないかと神殿を出て行く。
勇者が必要な異世界と言ったら、外には────