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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
Girls, be ambitious
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腹黒とアホ、イベント前

「万年花は、一度花が咲けば枯れるまで何年も咲き誇る不思議な花なの。実が生ることも種を落とすこともないのにどうやってか繁殖しているところも不思議で、その根っこは特殊な加工を施すことで、ハンターがよく使う回復薬の材料になるのよ」


「そう、これが万年花なの」


 印刷技術が不安定・・・なので蔵書自体少ないが、城の本を、隠されていた物も含めて読破済みなベル。

 植物辞典から研究記録、料理本や冒険記に果ては子育て教本にまで登場してくる『万年花』は、名前は誰でも知っていても実際に生えている姿は関係者以外滅多に目にする者がいない花、として有名なのだ。


 収穫してすぐに加工される。

 回復薬の材料となるのは根っこだけ。


 そんな理由もあるが、群生地以外では決して根付かないという人工栽培の難しさ。


 そして、周辺に多くの人が住み着くと群生地が丸ごと枯れてしまうという謎すぎる厄介な特性が備わっているせいだ。




 勝手に移民や亜人が住み着かないよう監視しながら、住人の人数を常に把握して人を招いたり若者を旅立たせたり。

 他の絶滅を危惧される動植物の保護とは難易度も勝手も違うが、どの職業よりも回復薬を必要とするハンターズギルドは、優先的に保護区指定して原材料の独占……もとい、確保に努めている。



「根っこの加工から回復薬にするまでは錬金ギルドの、そして商業ギルドとは戦えないハンターズギルド……独占と呼べるのかしら? むしろ、材料を自分で持ってくる賢い金蔓よね」


 ベルはぼそっと、世知づらい大人の事情を呟いた。



「……あっちがボケ担当で、こっちは腹黒なのね」


 保護者の猫耳さんは、自慢の猫耳をうなだれるように垂らしながら「疲れる。腹黒は隣に居ると色々と疲れる」と、子猫たちに癒やしを求めてボケ担当を探した。





 飛んでいた。




「うにゃーーーー!?」


 一本の垂れ下がった長いロープに子猫たちが列をなすようにしがみつき、ロープの天辺を掴んだアホが飛んでいた。


 背中に最年少の子猫おんなのこを乗せて。


「アホ! 危ないから下ろせアホ!」




「初対面の女の子からアホ呼ばわり……つまり、芸人的に『もっとやれ』?」


 ならばと、上に下にと高度を複雑に変え、ロープを左右に揺らす。


 にゃーにゃー言いながら振り回される子猫たち。


 顔を青ざめながらロープの下を掴もうと飛び跳ねる保護者。


 ソラの仮面を剥がそうと躍起になる最年少猫耳幼女。


 しゃがみ込んで万年花を観察しているせいで置いてきぼりにされているのに気にしない王国第三王女(誘拐され中)。



「なんでそうなるんだアホ! 止めろアホ! バカかアホ! アホ! アーホ! アホー!」


「言葉に出さない小さな期待にも応える、スター性溢れるソラちゃんだよ。それと未来のマイ・ワイフ。お願いだから仮面は触らないで。いや、仮面はいいんだけどさ、さっきから仮面じゃなくて髪の毛引っ張ってるから。痛い痛い、いっ!? イテテテテテテテっ!?」


「に?」


「……あら? ソラ、迎えにきて頂戴」



 カオス。






・・・






「旅人か。女二人っつうのも珍しいが、それが二人とも仮面ってのは本当に珍しいな」


 この大柄な男性が、村の代表らしい。



 筋肉もりもり、背丈二メートル超え、そして猫耳猫尻尾である。白黒のぶちである。


 思わず、ソラはぽつり。


「怪人、マッスルキャット」


「こらっ、本人も水面に映る自分の顔を見ては『怖いよな……特に、この猫耳のアンバランスさが……』とか気にしてるんだから、口にしないの!」



「お前の方がいらんこと言ってるからな、サシャ」



 慣れているのか傷付いた様子もなく流している様が、逆に哀れに感じた。




 男だけど少しは優しく接しようと、ソラは仮面の下で小さく微笑んだ。




 見た目幼女からの「遠くで見守っていますよ」的な扱いは地味に傷付くだろうなぁ、と思ったベルであったが、最年少の子猫とソラの出しっぱなしの猫耳の触り心地の違いを堪能していたので、決して口にはしなかった。


 最年少は、触られるのが嫌なのに何故だか身体が硬直して逃げられない。

 『小さいの』より弱っちそうなのに、不思議と緊張してしまう『高そうなの』。苦手意識を持つのであった。




 因みに猫耳幼女が直感で名付けた渾名。『小さいの』はそのまま色々と小さいからだが、『高そうなの』は、村長が子供の手の届かない場所に仕舞うほど大事にしている、行商に勧められるがままに買わされた変な形の置物よりも、何だか触っちゃいけないような、遠目から見るだけでも満足してしまうような、小さな村の小娘とは相容れない何かを感じたから付けた名前だ。


 触っちゃいけないようなのが自ら触りに来るのだから、質が悪い。



 もう一方の触られている側はというと、装飾品とは思えないほど器用に耳をピコピコ揺らし、尻尾をユラユラと気持ちよさげに振っているのであった。

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