表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
Girls, be ambitious
35/133

迫り来る、猫耳パラダイス

「なー」

「うにゃー」

「ふにゃ」

「にゃにゃ」

「うにゃ、にゃにゃにゃ、ふにゃー」


 色鮮やかなお花畑で、沢山の子猫が戯れる光景。


 いつもの無表情に小さな微笑みを浮かべたベルと、目の前の光景が信じられず、ただ呆然と眺める女性。



 女性の頭の上で猫耳・・が、小さくうなだれた。






・・・






「あれって、村だよね」

「村ね」


「うぅ~、懐かしき人工物!」


 お姫様抱っこ移動にも慣れたある日。悪魔の森を出てから初めての人里を見つけたソラは、急に身体のだるさを感じた。人の営みを久し振りに見た安心感、だろうか。

 人工物なら毎日、キッチンやユニットバスを見ていたのは含まないらしい。


「村の中に直接降りるより、少し離れた所から歩いた方が良いよね」



「待って」



 人間は普通、飛ばない。


 そんな当然の内容をベルから事前に教わっていたソラだが、そのベルから待ったが掛かった。



 まさか、堂々とド真ん中に?



 というソラの予想は当たり前だが外れ、見つからないよう上空から、人の様子や家の造りなどを観察できないかという相談。


「悪魔の森に近すぎるの。この辺りはまだ盗賊の縄張りだと思うから、『盗賊の隠れ里』かも知れない」


 ベル曰わく。普通の村のように見えて、農作業を女性中心で行っていたらその可能性が高いのだという。


 働ける男が出稼ぎに出て、女が村の仕事をこなす。

 逞しきは男か女か。


 女ばかり居残る村とかハーレムじゃね。ソラの脳裏に邪念が過ぎる。



「何人か村の守りのために残していくとは思うけど、毎日やらないといけない作業は女性がやっているはずよ」


 がっかりだ、とソラは嘆いた。





「……」

「どう、見えた?」


「……」

「ソラ」


 無言で村を見つめるソラ。

 集中し出してから一切喋らなくなったソラに不安を覚えたベルが話し掛けるも、無反応。



 イラッ



 かぷっ



 村から目を離したソラは、腕の中のお姫様を見つめ。


「ベルさんや。ムカついたからと首を噛むとか。一体何のご褒美ですか?」

「抱っこされているからそれ以外できなかったのよ。それより、ん」


「ああ、はいはい。それじゃあ、あそこのお花畑にしようか」






 ベルが出てきた『ポータルハウス』が飛んでいくのを見送ったソラは、家の壁に張り付いたら一緒に飛ばされるのかと考えてみた。たった今、雲の高さで忽然と消えたのを目撃したので、飛べないと転落死する危険性を考えてである。



 ベルが何故、噛み付いてまでソラの気を引き、わざわざ家に入ったのかは永遠の謎だ。



 関係のない話だが、ゲーム中の『ポータルハウス』には開かずの扉があったのだが、その扉の先には日本式のトイレがあることを初日に発見している。


 話の前後には全く関係のない話だが。






「猫耳パラダイス」


 村をガン見した理由を尋ねたベルに、ソラが言った。



「なるほど、獣人の村ね。なら行きましょうか」

「良いの? 獣人の盗賊村とかじゃないの?」


 それなら大丈夫と言うベルに、ソラは首を傾げる。


 獣人の村と人間の村、それの何が違うのかと。


「貴重な動植物を守るギルドの保護区。それの番人が獣人なの」


 別に人間だろうが魔族だろうがエルフだろうが、保護区を守る立場にはなれるそうだが、圧倒的に獣人が多いというのが現状だそうで。



 獣人は魔法を使わない戦闘能力に優れ、どういう訳だか『植物を傷つけづらい体質』らしい。


 種族毎に木登りをしたとして、一番枝を折らないのが獣人。

 ソラ達が居るようなお花畑で暴れても、何故かあまり花弁を散らさないのが獣人。

 土が硬い場所に生えた根っこが細く長い植物を採取すると、他の種族ならば根っこが千切れる所、獣人だけはスルスルと細い根っこまで綺麗に取れるそうだ。


 だからこそ植物の保護に向いていて、身体能力の高さからすばしっこい動物の保護にも向いている。



「そういうのって、エルフだと思ってた」

「攻撃が魔法だから周囲に影響を与えすぎて保護に向かない。植物よりも精霊に好かれやすい。エルフは独自の聖域を護っているそうだけど、他の種族は滅多に入れないそうよ」


 聖域はエルフっぽいなと納得するソラは、ベルから目を離してお花畑、その向こう側を見つめながら呟いた。



「空飛ぶ家は、目立つよねぇ」



 人の気配が、近付いてきた。






・・・






 花畑の縁で子供の相手をしていると、花畑を挟んた向こう側で、白い何かが空を飛んでいくのが見えた。


「……何かしら?」


「なぁー?」

「ふにゃ?」


 一緒に見ていた、まだ人間の言葉を喋れない、声帯の育ちきっていない五歳から七歳くらいの子供達と首を傾げていると。


 その内の一人が、急に駆け出した。


「ちょっと!?」



「にゃにゃにゃー!」


 面白そう、じゃない!



「ふにゃ? にゃにゃ!」


「追いかけっこじゃないから! ほら、あんまり荒らすと村長に怒られるから!」


 主に私が、という言葉は泣きたくなるから引っ込め、子供とはいえ獣人の脚力では花畑程度すぐに渡りきってしまう。


「魔物が居たらどうするの!」

「ふっ、ふみゃ~!」

「しまった!?」


 怖がった子供まで走りだして──いや、なんで私から逃げて魔物(仮)の方に!?



「さては、てめぇコラ、泣き真似だな!?」


「に゛ゃ~!?」




 ハンター時代の汚らしい言葉で追い掛けてくる獣人の女性に、子供達は好奇心を忘れ、半ば本気で逃げ出すのであった。本末転倒。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ