システムと勘違い
3/19、4/5サタブイトル変更
いい加減、真っ暗闇な神殿から外に出た。
太陽は地球より少し大きいか? 気温はあまり変わらないようだが、とにかく眩しい。
「スキルゲットチャンス!」
何かが残念な少女は、太陽に向かって両手を広げて背伸びをした。
《スキル<光合成>獲得》
「……両手を広げて背伸びをして、どうしてスキルを得られるんだろ。あのポーズには何の意味が?」
無駄なことで悩みつつ、手頃な木の枝を拾い地面に“へのへのもへじ”を書く少女。
《スキル<文字>獲得》
《スキル<絵>獲得》
少女の視界にのみ映る、宙に浮かぶウィンドウと日本語。
「行動スキルが無くても、現実なら自由に動けるから制限無し。つまり、ひとっ飛びで次のスキルを得られる訳か……利点はあまり無いかな」
今度は突然、歌い出した少女。
選曲は、純愛系感動ものエロゲのエンディング曲。
《スキル<歌>獲得》
「よし、イベント系もイベント無視で手に入る。これはデカいな……」
ふと、確認作業の手を止め、今までの元気は何だったのかというほど暗い表情で溜め息を吐いた少女は、神殿の壁を背にし、座り込んで空を見上げた。
「『異世界特典のゲーム能力』は、そのゲームをやってる最中に死んだとか、MMOのサービス終了時の置き去りか、神様にお願いか、神様のお願いか、神様がゲーマーか、神様強制か、ゲームの世界は実在して最強プレイヤーの貴方に世界を救って欲しいの!」
最後だけ演劇風。
一人だが。
「……つまるところ、ゲームのプレイ中に死んだか、神様関係じゃないの?」
白い雲が気持ち良さげに漂う青空と、大きめな太陽。
視界を下げれば、現実でもゲーム中でも見たことがない種類の木。
「地球の植物には詳しくないけど、実と花が同時になる木なんて、フィールド中の木を木材に変えまくった私でも見たこと無い……てか、『ペルギル』に太陽無いし」
『Persona not Guilty』……パッケージの裏表紙に「仮面に罪は無い」と書かれたこのゲームは、主人公は自作出来るのに仮面が外せないので顔は作れないという、よく分からない仕様だった。
他にも、高性能なパソコンでなければ満足にプレイ出来ないデータ容量に、オンライン環境必須の癖に一人用ゲーム。難易度がイカレていて、社員の過労を心配するほど過剰な追加パッチの更新と。
ゲーマーの間で、色々と話題になった作品だ。
オゾン層に存在する「不思議な気体」が何やかんやで光を放っている……。
プレイ中に、モブキャラである街の子供がそんなことを言っていたはずだった。
システムは凝っているのに設定は適当。それがペルギルクオリティ。
太陽を作り忘れたことに最終チェックで気がついて、慌てて大したことを言わない子供キャラに説明させたとかいう開発裏話を社長がブログで暴露したとか。
そんな話は、毎週更新される開発裏話を楽しみに社長ブログを観覧していた少女は、知らない。
裏話は見なかったことにして内心ニヤニヤするのがペルギル上級ファンのネットマナーであるので、知っていても少女は知らないのだ。
ちょっとの間、独りでにやけていたことに気がついて少女は慌てて当たりを見渡すが、森と神殿と馬車道しかなく、生き物は虫と鳥ばかり。
「……ああ、寂しいから独り言が多いのか」
柱に隠れるじゃなかったと後悔する少女はふと、どうして自分にこんな能力があるのかという理由について、最もあり得そうな理由に思い当たってしまった。
「まさか、召喚されたのはペルギルプレイヤーで、帰されなかったのは上級プレイヤー……つまり、全員同じ能力!?」
だとしたら、この能力の価値が減るのではないかと焦る少女。
異世界といったら無双だろうと、同郷だろうが勇者だろうが圧倒的ゲームスキルで出し抜くつもりでいた少女は、自分より上級者である可能性が高い勇者一行──改め、ペルギルプレイヤー──をライバル視しだし、スキルの乱獲を再開した。
・・・
───まさか、勇者以外も、歴史に深く名を刻んだギフト持ちしか居ないなんて。
───帰した者も、もしかしたらこれらに及ばないながら有用なギフト持ちだったのでは……?
───過ぎたものは仕方ない、か。
───勇者御一行様。
───どうか、どうか私の為に。
───掌の上で、踊り続けてくださいね?
圧倒的説明回の始まり。