朝チュン
計画やお互いの情報の摺り合わせにより、一日を襤褸小屋で過ごした二人はその夜、ソラが一組しかないと言い張る布団で一緒に眠った。
その際何があったのかは、敢えて伏せさせていただく。
──ベルの胸は成長中、らしい。
・・・
「おっぱい」
朝一、ソラの第一声。
抱き付くように顔を埋めていたそれから名残惜しく離れたソラは、起き上がると、着ぐるみパジャマから軽鎧にと一瞬で着替え、小屋を出る。
出て行ってから暫く。
むくりと起き上がったベルは寝ぼけたまま、少女一人分空いた布団の隙間をバンバンと叩き、隙間が無くなると納得してまた寝た。
「寝坊はドジっこの始まりだから気をつけてね」
「あなたは一体何がしたいの?」
噛み合わない会話は、日が昇ったらすぐに旅立とうと計画していたのに遅刻気味の学生が学校に到着したくらいの時間に目を覚ましたベルと、そんなベルの寝顔を見ながら数時間、ニヤニヤしながら生産活動に勤しんでいたソラ。
二人のマイペースさが滲み出た結果だった。
「準備不足に気付いたから用意してたの。ほら、朝御飯」
座布団を敷き、その前に皿に載せたパンと目玉焼きと何かの肉を出す。
のそのそと布団から這い出てきたお姫様の後ろから布団を回収してから、対面に移って同じ皿を出す。
パンは外の森に何故か生えていた小麦らしき植物から生産し、目玉焼きは飛ぶ鶏のような鳥の巣から、肉はその親鳥である。
小麦とは、森に自生している植物だったであろうか。
パンに乗せて食べるソラと、ナイフとフォークを使うベル。
食事を終えたら最後の点検をして出発……の予定だったが、ソラが取り出した手鏡のせいで、女二人、身嗜みに時間を要するのであった。
「まずは森を抜けて、そこから街を目指しましょう」
白に近いサラサラな金髪を耳を隠す程度に整えた、まだまだ色々と少女から脱け出せないお姫様。不思議素材の上下の服を着せられ、その上から魔法使いらしい黒いローブを着ている。
「んー、ならあっちかな」
ポニーテールに白塗りのファントムマスク。急所を守る黒一色の部分鎧。鎧の下には紺色の服を着て、腰からは鞘をぶら下げている子供。
奇妙な二人組は、のんびりと歩き出すのであった。
歩き始めてすぐ、実は森の中を歩くのが初めてという箱入り娘は、キョロキョロと辺りを見渡しながら違和感を覚えた。
「──この森、王都の近くにある森とは木の種類が違うような」
そういえば移動中気絶してたんだっけと、気絶の原因はメニューを開いてマップを選択。大抵のRPGに搭載されている、地図機能。
「あー、地図によると『devil's nest』……悪魔達の巣、だって」
やたら古めかしいデザインながら詳細に描かれた地図は、ゲームのではなくこの世界の地図を映し出す。
そして森の名前を聞いたベルは、目を見開いて立ち止まった。
「……世界で二カ所しかない、悪魔が自生する、不可侵領域?」
藪が音を立て、ベルは「ひっ」と小さな悲鳴を上げた隣では、新調したマスクのベストな付け心地の位置を探っていたソラが「またか」と呟き。
指を藪に向けた。
「エア・バレット」
──指先から高速で撃ち出された空気の弾丸は、藪とその後ろに隠れたものを吹き飛ばした。
弾け飛んだ藪の背後、禍禍しいオーラを纏った黒い兎がクルリと回って着地した。
「今度は兎か」
固まるお姫様には気付かず、指先から今度は氷の弾丸を毎秒六発、着地直後の硬直に全段当てる、当てる、当てる。
三十発辺りでグズグズと闇に呑まれるように消えた兎を見ながら、倒した後の死骸が消える効果が個体で違うと、芸の細かさに感心。
並みの騎士やハンターでは一体倒すのに人数と時間が必要な悪魔を、簡単に倒してしまう小さな少女。
ベルは小さな恐怖と大きな期待を、背筋を震わせながら感じたのだった。