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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
勇者の旅立ち
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あまり深く考えず

前話、タイトル間違えたままでした。テヘッ

(悪気は無いのです。私が神官──いや、馬鹿なのです)

──初代勇者に縛られた王国の、第三王女としての義務。




「初代勇者を召喚した……この国には、それしか無いの」




「糧は自国で消費する分だけ。鉱山の産出量は帝国の半分。名物や名産品は全て初代勇者繋がりで、それ以外で有名なのは、騎士団長──貴方に出し抜かれた、ちょっと強いだけの人間」


 国を憂いだ姫様と、男物のぶかぶかワイシャツを着たロリ。


「私は第三王女として、そんなつまらない国の、つまらない貴族の下に嫁がされるのが嫌だった」


 この国は伝統的に、王族が他国に嫁ぐことはない。

 第三王女の婚約者候補は、五十近くの公爵と、先程も出てきた騎士団長。騎士団長は代々、名門の貴族が持ち回り受け持つのだとか。


「初代勇者と深い関係があったらしい教会が国政に口を出し、だけど互いに勇者関連の権利を独占できない商売敵。派遣された神官は、権力争いに負けて飛ばされたことを理解していない、未だに出世の夢を見続けている老害」


 姫は、今回の勇者召喚に協力させた神官を思い出す。


「勇者召喚の秘術が書かれた王国の宝……実際に召喚するより、それの存在を教会の上に知らせたほうが返り咲きの可能性があったのに、馬鹿な男」




「話は変わるけど、今回召喚された勇者で記念すべき十人目なの」



「初代は魔王を倒して、二代目は建国した。三代目は多くの発明を残し、四代目はギルドを立ち上げた」



「五から九は特に何も無くて、ハンターになったり、どこかで野垂れ死んだり、元の世界に帰ったり……国を滅ぼしたり、ね」



「今回の勇者には是非、このつまらない国を滅ぼして欲しかった……なんてね。教会よりも初代勇者を信仰しているこの国の民を味方につけて革命、そして教会を敵に、なんていうのもアリかしら」



 傾国の姫。


 自らの自由のために勇者を召喚し、自由にならないならば自分諸共滅ぼしてしまいたかった、混沌を望んだ姫。


 勇者を召喚したことが全ての始まりである『第三王女誘拐事件』は、有る意味では目標達成、と言えなくもない。





「……ん? あ、ゴメン。途中から聞いてないや」


 次は何のお遊び装備を着ようか悩んでいたソラは、大事な所を聞き逃し、誘拐されたという状況を忘れたお姫様に怒鳴られるのであった。








「要するに、勇者召喚は貴族と結婚したくない姫様のワガママ。そのために巻き込まれた若者も“勇者の仲間”という名目で残して、若者特有の暴走を期待。そしてダークホース(私)の出現、と」


 むー、と唸る、ネコの着ぐるみ。

 説教の影響か、耳が垂れて所々がほつれている。


「言っておくけど、勇者が何もやらなくても私は気にしないわ。そうなったらいいな、程度の軽い期待」

「その割には、問題を起こすこと前提みたいな……」


 姫はニヤリ、と顔を歪め。



「それは聖剣の呪い・・・・・を利用した、簡単な仕掛けよ」




「勇者のギフトは、初めて発動した際、一番近くにいる高位の精霊を取り込む・・・・の」

「ほぅ」

「そしてその精霊を剣として具現化し、世界の調整者たる精霊の力を自由自在に操る最強のギフト」


「だけど精霊なんていう超常現象を取り込むことによって、本人の人格に精霊の影響が強く出てくるの」


 少し考え、なるほどと呟くバニーガール。


「危険な精霊……もしかして、国を滅ぼしたっていう勇者と同じ精霊?」


 頷く姫。つまり、前科持ちの精霊の近くで勇者にギフトを使わせた、というわけ。


「馬鹿は知らなかったみたいだけど、王都の神殿はね、元々はその精霊を封じ込めるために建てられたらものだから。そんな危険な精霊を封じ込めているなんて表向きには言えるわけないし、飛ばされた神官はそっちの理由しか聞かされてないのね」


 王族が自らの国の表裏、あらゆる歴史を勉強するために代々受け継いできた秘蔵の歴史書に書かれていたのだとか。


「どうしても神殿内で勇者に使わせたかったから仕方なくあの馬鹿に話しを持ち掛けたんだけど、適当に『ここで使わせれば箔がつく』と言えば簡単に乗るものだから、逆にそういう策略かと焦ったわ」


 焦って損した、と姫。


 哀れ馬鹿、否、哀れ王国一の高位神官。

 腹黒王女に利用され、その王女が居なくなった今、どう動くのか。



「まあ、馬鹿をやるってことだけは確実でしょうね」






・・・






「勇者に追わせるべきです!」


 そう声を荒げるのは王国に来て早二十年近い、歳を召した神官。

 国の重鎮が一様に暗い表情で静まり返る中、一人興奮気味で勇者を使った第三王女の救出案を熱望。勇者の活躍が自分の栄達への道だと思い込んでいる神官は、空気が読めていなかった。


「勇者が姫を救い出した暁には勇者だけの名声のみならず、王国の──」




「……誰か、そいつをつまみ出せ」


 何を言われたのか分からない、という顔をした後、騎士に両脇を固められ喚きながら退場。


 一転、会議室は静けさを取り戻したの。


「……さて、皆で黙っていても仕方がない。この際は何でも良い。取り敢えず意見を述べてくれ」




「第三王女を誘拐した悪魔憑きと思われる存在は空を飛びます。進入経路と思われていた外壁の穴を通る必要は全くなく、陽動、もしくは飛べない仲間がいた可能性が」


「外壁と城の結界が作動しなかったことから、何らかのマジックアイテムで無効化していた可能性が」


「いや、そもそも結界は魔物用であり、悪魔憑きに効果があるという実験結果は無い。このことから外壁の修理の際、さらなる結界の強化を」


「外壁の修理、出来るのか?」


「……全く同じ物は無理でしょう。取り敢えずは応急処置として魔法で埋めておきましたが」


「騎士団長が気付くまで、悪魔憑きは姿を隠していたとか。ならばわざわざ外壁に穴を開ける意味は? 姿を隠したまま飛んで入れば……」


「つまり、第三王女を浚った悪魔憑きとは別に、外壁を壊した何者かが居る、と?」


「そもそもあれは悪魔憑きなのか? たまたまその場に居合わせたが、悪魔憑きとは喋るものなのか? どうなのだ騎士団長殿」


「……私が見た悪魔憑きは全て理性を失っており、喋る、というよりは鳴き声のように叫ぶ、唸るといった動物的な行動が目立ちました……あれは、噂に聞く魔族、では?」


「魔族……確か、羽の生えたやつも居たな」


「魔族の中には、初代を強く憎む者もいるらしいな」


「どうやって召喚を嗅ぎ付けた? 我々ですら事後報告だったのだ。第三王女が馬鹿──失礼、神官を焚き付けて信仰深い騎士や魔法使いを誘惑して実行したことは分かっているが、その中に魔族と繋がりがあるものが?」


「いや、魔族の犯行と考えるより、魔族を含む何らかのグループの犯行、と考えてみれば?」


「……なるほど、仲間の中に人間がいればまだ」


「国に入り込んでいる可能性があるな。怪しい者が居ないか、それぞれ洗い出しておくように」


「こう言っては何ですが、私は勇者を使うことには賛成です。国に残せば周辺国に警戒されるでしょう。……勇者(兵器)を使って何をするつもりだ、と」


「公表して外に出すか。ならば召喚した理由を適当に考えておかねばな」


「今時『魔王を倒す』では、少々問題がありすぎますからな」


「だからあの宗教は嫌いなのだ。一部強硬派は未だに魔王を悪と決め付ける。人間にだって極悪人がいるではないか。改心して政治に目覚めただけ魔王の方がマシだ」


「ふむ……今回の事件を材料に、魔王領と国交を結べるかもしれんな」


「それは?」




───迷走する会議は、深夜にまで及んだ。

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