仮面は裏を知る義務が
喋る、喋る。
勇者他、召喚者と対談の場を何度か設けていた姫だが、ここまでズバズバと言いたいことを言う召喚者は居なかった。
それは「姫」という相手の立場から、気軽に話し掛けるわけにはいかないと思い込んだ日本人らしい対応なのだが。
「この世界の女性は美人が多くていいね。完全な外国人顔というよりはハーフとかクォーターっぽいのがまた」
よく喋る少女は「なんかゴメンね、誘拐しちゃって」と軽い謝罪の後、この世界に来てからのことを喋る。
本来なら秘密にするはずのギフトですら聞いてもいないのに喋り出した時は、姫様は本気で驚いてた。
「あなた、馬鹿なの?」
ソラが話し終えた満足感で満たされた時、姫は思わず、そんな言葉を発していた。
「いやー、召喚されてから独りが長かったから、とにかく喋りたかったんだよね」
のほほんと床に座るソラは、どこから取り出した湯呑みで白湯を啜る。
『Persona not Guilty』の生産は、武具の他は消費アイテムとクエスト限定アイテムが多数。湯呑みも、土さえあれば作れるクエストアイテムだ。茶葉が無いので白湯だが。
「飲む?」
「いりません」
重心がズレるだけで軋む床に湯呑みを置いたソラは、未だ布団から上半身を起こした体勢の姫を見て。
「死なないでおくれ、おっかさん」
「あなた、馬鹿でしょ」
時代劇的なシチュエーションに思わず飛び出した軽口をバッサリ。
「ぶ~、ノリが悪いよお姫様」
「……誘拐された上で、誘拐犯の冗談に合わせろと?」
「ごめんなさい」
素直に謝った。
襤褸小屋の中。
ソラによって片付けられたら布団を名残惜しげに見ていた姫様を布団と同じ素材で作られた座布団に座らせ、飲まないと言われたけども白湯の入ったら湯呑みを差し出す。
俗に言う女の子座りをしたお姫様と、胡座をかくソラ。
姫様はドレスのまま、ソラはナース服。
「それにしても姫様、誘拐されたにしては落ち着きすぎじゃない?」
喚いたり泣いたり逃げ出そうとするかもと思っていたソラは、黙って話を聞き、抵抗もしないことを不思議に思う。
姫は、少女が奇妙なピンク色の服から一瞬で鎧姿になった現象を見慣れてしまった自分に何ともいえない感情を抱きながら、理由を述べる。
「空を飛ばれ、不本意ながら意識を失ったことで方向は不明。中を見る限り、樵かハンターの休憩小屋でしょうから森の中。王都は周囲を草原に囲まれ、森はそのさらに奥」
一息吐いて。
「私が戦って勝てる見込みはなく、逃げたところで相手は飛べる……他にどうしろと?」
ソラは考え。
「服を脱いで誘拐犯を誘惑するに一票」
「同性相手に……そういえばさっき、女性が美人とか……」
ここでようやく、姫様はソラの|危険性(真性百合)に気がついた様子で。
「まさか、そのために私を誘拐……」
「確かに王子だったらさっさと逃げてたかも知れないけどさ、勇者召喚の黒幕っぽい姫様に聞きたいことがあっただけ。そっちはちょっとしか期待してないから安心して」
ちょっとは期待しているそうだ。
白湯を飲み干したソラ。
姫は、空気がピリッとしたのを肌で感じとった。
「何を聞きたいって、勇者が召喚された理由だよ」
「魔王は数百年前から魔王領に引きこもってるらしいし、魔物の発生が活性化したわけでもないし、どこかの国と戦争を起こすわけでもないのに、どうして今、勇者を召喚したの?」
勇者召喚に巻き込まれた(?)ソラは、例のハーレムパーティーに尋ねたのだ。「魔王って知ってる?」、と。
勇者が召喚されるのは魔王かそれに準ずる存在が原因だと九割九分決まっているようなものだし、最終目標の情報は最重要だと思ったからだが。
だが、その答えはソラの予想を斜めに裏切り、「初代勇者に負けた」「死んではいない」「数百年間、人類の前には現れていない」「魔王領の経営に専念してる」といった、不老不死で昔はやんちゃしたけど、今は王様業に専念している元ヤン大統領(?
)。
ニートルダムにおいて、魔族は別に人類とは戦っていないそうだ。
初代勇者の時代にはそれはもう世界を二分する激しい争いがあったそうだが、それも初代勇者と時間の流れが解決したためにすっかり落ち着き、世界はまさに平和。
「どうして勇者を召喚したの?」
だからこそソラは、気になった。
「──私は、仮面キャラとして、勇者をどこに導けばいいの?」
有る意味、死活問題だった。