やらかした魔法
漢数字ではなくアラビア数字を多用しますので、読みづらかったらごめんなさい。
この世界で主流の魔法は専門的には『空間支配型魔法』と呼ばれ、人間の体内に僅かながら存在する魔力(生体魔力)を外に出すと同時にそれを呼び水として空気中の魔力(空間魔力)を必要な分だけ集め、外に出した自らの魔力と練り合わせて(支配魔力)から、初めて魔法にすることが出来る。
エルフや一部の魔物など、そもそもの生体魔力が豊富な存在はそんな手間を掛けずに所謂「無詠唱」で、しかも自分の魔力を薄れさせないので威力が段違いなのだとか。これは『純粋型魔法』と呼ばれる。
それだけ聞くと純粋型のほうが優秀そうだが、純粋型の消費魔力が馬鹿みたいに多いのに対し、支配型は自分の消費は少ない。純粋型は自分の中から出すので身体の近くからしか発動出来ないが、支配型は空間に広げた分だけ自由な選択が出来る。純粋型は連射可能だが、支配型は一々魔力を練らないとならない。支配型は空間魔力が無ければ使えない。支配型には複数人で一つの魔法を使う「大魔法」が存在する。
要は、純粋型が使えるほど高い魔力を持った存在が支配型を覚えれば魔法で敵無し、だ。
ソラの魔法は魔力ではなく、MPを使う。
ここもレベルと同じように『Persona not Guilty』のルールに縛られたソラだが、レベルと違いこちらは、ソラにとっては笑いが止まらぬほど有利すぎるルールだ。
まず、MPの最大値は他のステータスと同じくスキルで増える。
初期値は100で、現在の数値は、5万と少し。
スキルMAXだと10万なので、まだまだ成長可能。しかも残りは魔法を使えないと覚えられなかったスキルばかりで、今までは無理だった。
が、今は違う。
次に、MPの膨大さからさぞや消費が多いのかと思いきや、最低は1で最高は5000。
よく多用するのは50から800の間と広いが、最大値からしてみれば異様に少ない。
……ゲームでは、それほどのMPを、高威力の魔法を打つだけに使っていては使い切ってもクリアどころかボスにすら辿り着けない難易度のダンジョンが複数存在したので、ペルギルプレイヤーからすれば10万も決して多い数字ではないのだが。
因みに、人間の魔法使いとエルフ、似たような魔法を打てる回数から大雑把にMPを割り出してみると……。
人間=MP50
エルフ=MP1000
そんな少ない数値で頑張れる支配型魔法の低消費を称えるべきか、嘆くべきか。
これだけでいかに『Persona not Guilty』の魔法が優れているのが分かるが、ココまでのことはソラの素知らぬこと。
ソラが喜ぶ理由、それは……。
「やっと攻撃覚えたー!」
他のゲームならばそれこそスキルで攻撃を覚えそうなものだが、『Persona not Guilty』のスキルはステータス強化が重要なのであって、効果の中には攻撃もあるにはあるが、補助的な役割が基本。
そして『Persona not Guilty』の魔法は、炎の矢だったり爆発だったり雷だったり結界なんかもあるが、よくある「燃える攻撃」「飛ぶ斬撃」「高速の連撃」「大地を砕く一撃」など、他ならば魔法に組み込まないような攻撃も「要するに武器に魔法を纏ってズドン、だろ?」と言わんばかりのまとめっぷりだった。実際に社長がそう言っていた。
魔法が使えなかったソラは物理攻撃しか出来なかった。と言えば、RPG系のゲームを知る人ならばソラの喜びっぷりに納得できただろう。
物理無効で魔法属性しか効かない敵なんて、定番中の定番だ。
……そんな敵ですら物理攻撃だけで何とかなってしまう方法が存在するゲームも多々、あるが。
場面は、その場に居る皆が、床に落ちたアルセの矢を見つめているところに戻る。
「私の能力……ギフトはね、『武具の生産と付加能力』だよ」
「おい──」
「だいじょぶだいじょぶ、魔法を教えてくれたお礼だから」
ギフトは、本当に信頼している人にしか教えないという風潮があるようで。
仲間の命を預かるハンターでさえも臨時の仲間程度には絶対に教えないような、とても大事なことなのだと先ほど聞いたばかり。
「地元に魔法を使える人が居なかったから、旅に出て適当な誰かに魔法を教わろうとしてたんだけど……迷ったりなんだりしちゃってね。盗賊や魔物の襲撃、人に騙されて売られそうになったり知らない場所に置き去りにされたりして、地図も無いし故郷への帰り方も分からなくなっちゃうし」
──ここから先は「ソラの異世界設定・謎の一族、旅立ち編」が、心拍数や汗を測るタイプの嘘発見器に引っ掛からないレベルですらすらと、出てくるわ出てくるわ。
コツは、ちょっとの嘘と表現を遠回しにした真実、である。
「──まあ、『出来る』って感覚がいつものように来たからさ、ちょうどよくアルセが矢を作ってたし、魔法宿らせちゃった。多分、放つと炎の矢になるよ」
「なるほど。だから赤く光っているのか。身体能力は装備の補助、仮面も……むむむ」
「うぅぅぅ……頑張ったねぇ……」
「……」
アルセは普段通りだが、ニーナは目を潤ませながらソラの頭を撫でて、カタリナは目頭を押さえて上を向いている。
「メシはまだ……どうした?」
気付けば夕飯時で部屋から出てきたオードは、異様な光景に少し引いた。
その後、心なしかニーナとカタリナが優しかった。
堂々と嘘を吐く主人公、いいのでしょうか。