ぶち当たる壁は「情報不足」
ハーレムパーティーとは別れ、ソラは青青とした葡萄畑を横目に村を散策している。
神殿から村までの道のりは、魔物が出ると分かっていたのめ周囲の警戒に重きを置いていたソラ。
その結果は、自分から巣に突っ込んでコロニーを壊滅、だが。
村の治安は良さそうなので「安全圏に入った」と判断したソラは、自分のことから世界のことまで、道中に聞いた情報や経験を元に、歩きながら頭の中で考査する。
一、この世界は『Persona not Guilty』とは何の関係も無い。
薄々はそうだと思っていたが、この世界の名前を聞いて確定した。ニートルダム。特にヨーロッパ圏で多くの信仰を宗教の一番有名な聖母を指す、フランス語で「我らの貴婦人」、ノートルダムとニアミス。
『Persona not Guilty』の世界は、多層構成世界ワルドグランセ。多層構成世界とは世界、つまり複数のサーバーを利用したMMO……の、設定の名残だ。
日本語の「地球」、英語の「アース」のようなこの違いという可能性も存在したが、それは異世界の謎でソラにも当然のように掛かっている『翻訳機能』が否定している。
『Persona not Guilty』の世界なら、無職の貴婦人……ニートルダムという聞き慣れぬ言葉ではなく、ワルドグランセと聞き取っていたはず、だとソラは思った。
世界の名前以外にも否定する要素は沢山あるのだから、確定でいいだろう。
二、ゲームの能力は『ギフト』である。
ギフトとは、個人固有の特殊能力のこと。
怪力とか火を吐くとか、空を飛べるとか動物に変化するとか。ギフトには規則性も法則性も無く、同じだったり似たようなギフトでも、力の強さには個人差がある。
因みに、魔法はギフトではなく空気中の魔力を操作する才能……けん玉が出来るかどうか、みたいな技術らしい。
この世界の役場やハンターズギルドなどでギフトの名前だけは調べられるそうだが、内容までは分からないらしい。
数百年前に召喚された勇者は『聖剣』というギフトを持っており、その力で魔王を倒したのだとか……ありきたりだ。
──勇者がもし『Persona not Guilty』プレイヤーだとして、自身と同じ能力を持っていたとしたら。
──ギフト『聖剣』が剣を振るう姿からついた所謂二つ名で、本当は「勇者といったら剣だろ」という、一種のなりきりだとしたら。
「……可能性は、限り無く薄い」
剣なんて縛りを付けず、ハッチャけるだろ普通。
つまりこれは、ソラ固有のギフトである可能性が高い。
ギフトは通常、一つの能力しか発揮しないらしい。
だが、ソラのギフトはそのゲームと同じ仕様上、怪力だし火を吹けるし空を飛べるし動物に変化もする。まさに何でも有り。チート。俺TUEEEEE……ローマ字的にはTSUEEEEEの方が正しいのか?
同じ召喚日本人も、まさかピンポイントで同じゲームの能力……なんて被りはしないだろうし。
ソラは『ギフト』 という面では、かなり上位どころか世界最強クラスであると、この時、自覚した。
──したのだが、しかし。
「三、この世界は異世界のテンプレらしくレベル制なのですが、ゲームの仕様上、私にはレベルがありません」
レベル制のゲームはRPGというジャンルに飛び抜けて多く、だが、レベル制ではないRPGも確かに存在はする。
レベル制は言わずもがな、レベルの無いゲームはスキル的なものを成長させたりして、レベル制よりも個性が表れるのが特徴か。
戦闘をこなし、装備を整え、技を使いこなす。
レベル制だろうがなかろうが、やることは基本、変わらないの。
だが、『Persona not Guilty』は違う。
RPGとしてはかなり尖ったシステムで、キャラクターに「戦闘で鍛える要素」という要素が全くといっていいほど無く、強くなるには「集め、組み合わせる」のである。
スキルを得ることで、そのスキルに設定されたステータスが上がる。
取ったスキルは成長することもなく、そのままにしておくか、機能をオフにするか、他のスキルと合体させるか、の三択。
スキルを集める方法は、行動──戦闘含め、アクション──と、ストーリーやイベントをこなすこと。
戦闘以外で獲得できるスキル数は膨大で、むしろ戦闘で得られるスキルは少ない。
つまり、戦闘外のスキルの取り方さえ知っていれば、戦闘をこなさずとも強キャラが作れるのだ。
「……つまり、スキルを全部取っちゃったら私の成長は頭打ち。この世界のレベルに上限は無い。聞いた話、初代勇者は二千超えとか…………二千って何さ。五十か九十九で止まれよ。カウンターストップ、仕事しろよ」
自分がスタートダッシュが速いだけの残念キャラと判明してしまい、頭をボーッとさせたまま村内を歩き続けるソラ。
「……生産で引きこもる、か。中世ベースだから現代知識も役立つのが幸い……勇者はだから勇者なのか……欠陥……ふふふっ……」
見知らぬ人間を観察していた子供が、最後の笑い声にびくっと跳ねた。
「……あれ? ……下手に旅するより、生産一色の方が女の子と仲良くなれないかな?」
───突然、風向きが変わった。
「旅をすれば一期一会の美女との出会いは多いだろうけど、定住すれば好感度をじっくりと上げられるし同棲とか夢が広がり……鍛冶で有名になれば有名な女騎士とか女ハンターが仕事を依頼しにきたり……スイーツショップで女性客ウハウハ……あれ?」
立ち止まり、顎に手をやる。
「そもそも、どうして旅に……自分の異世界チートがペルギルの能力だと知ったから……無双……成長止まる……あれ?」
「旅、しなくてよくね?」
結論づけたソラは、安全で豊かな国を聞いて、それと覚えられるならこの世界の魔法を、ついでに魔法イベントで『Persona not Guilty』の魔法が使えるようになればなぁ、と、さっき別れたばかりのハーレムパーティーに会おうと歩く向きを方向転換した。
──ソラの身体能力は、スキルを半分しか取れていない現状、初代勇者の全盛期と肩を並べるほどだというのに。
──スキル合成が加われば、すでに人類では対抗できないほどの戦力だということを。
──これに、魔法が加われば……
説明文ダルいです。
ソラ、召喚チートを通り越してすでに「壊れ」です。
タイトルは、ソラの勘違いの原因。
この物語は、脳内会議で出た結論が正解だと思い込んでしまう残念な主人公が、世界一周分の寄り道をしつつ、可愛い女の子たちとキャッキャウフフの百合ハーレムを目指す物語です。
次回、話を加速的に動かせたらいいですね(希望)