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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
勇者は何処へ向かうべきか
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ギリギリな顔合わせ

 用事を済ませたソラが『ゲート』を使わずに待ち合わせ場所である真っ暗な草原に飛んで来ると、そこではランプを囲む五人の協力者たちが待っていた。

まだ続いている花火の音は障害物の少ない草原の割には小さく、場所を指定したソラがこの場に消音の結界などを仕掛けているのは明らかだった。


 いつも通り本を読んでいたベルが、今回の作戦のためにこの場に居る全員に渡された腕時計を確認してからソラに声を掛ける。


「遅かったわね」

「邪魔が入りそうだったからついでに片付けてきた。原世のなんとかっていう組織」


 計画を完璧なものにしたいソラが動いたことにより、客室の侍従を誘惑するギフトで洗脳し呪いの絵画を仕掛けた犯人グループは、事件から数分、誰にも知られることなく半壊していた。


<光学迷彩>で隠れ、<嗅覚強化>で操られている侍従を見つけ出し、<洗脳>で絵画を渡した犯人を聞き出し、<直感>で犯人の現在地を酒場だと特定して、<直感>で犯人とその仲間を判別して殴る。

 ……<光学迷彩>の役割以外、万能スキル<直感>で何とでもなったのだが、その場その場でスキルを使い分ける練習がてらの襲撃にしたかったのだ。

 これからメインイベントが控えている前にやることではないと途中でソラが思い直したことで結局は<直感>頼りになってしまったのだが。


 --<洗脳>というそれだけで異世界を冒険出来てしまうような強スキルをソラが滅多に使わないのは、「女の子は自然のままに」というモットーがあるソラにとって、男相手にしか使わないスキルだからだ。

 因みに余談だが、ソラは女の子を洗脳してアレコレするより自然体を楽しむ方が好きなだけで、その手の趣向を専門にした作品なんかは好きである。悪堕ちとか学園支配とか。

 人の好みというものは非常に繊細で難しい話であり、麺状のパスタは好きだけどマカロニは嫌い、うどんと言ったらコシが命でフニャフニャのうどんはうどんとして認めない、ツンデレ好きだけど現実のツンデレはちょっと……等々。



 仮面の男が手を挙げた。

 それにぴくりと反応した人間が一人居たが、男は気にしない。


「聞きたいことがあるのだが」


 この場に居る人物はベルも含めて全員が仮面着用で、ソラとベルの二人を除く四人が男。

 紛らわしそうだが、全員に個性があるのでそれほどでもない。


 手を挙げた男は、『英霊顕現』という珍しいギフトの使い手でソラにドラゴン素材の調達として利用された男の、護衛。

 今回は護衛対象であるイケメンは居ない。


「渡された腕時計だが、これは……」

「ナツキさん、ご想像に任せるよ」


 見覚えがある"頑丈さが売りのメーカーの腕時計"が人数分揃っている不自然さを暗に指摘したナツキと呼ばれる男だったが、返された仮面越しでも判るソラのニコニコ顔に困惑と疑念で返事を失い、むっつりとした顔で再び黙りこむ。



 そのやり取りを見ていたオードは、先程は我慢したがソラに尋ねざるを得ない。


「なあ、このナツキって男、本当に大丈夫なのか? 話し掛けても無視するしよ。他の面識がない二人は……あれだ、最低限の・・・・情報交換は出来た。そいつだけ分からんままで、しかも俺は組まされるんだろ? ソラとしか会話してないぞこいつ」


 そう挑発気味に言ってからチラ見するも、ナツキは我関せず。




 オードからしてみれば、この男はとにかく気に食わない。


 仲間から一人離されて連れてこられた真っ暗闇の草原で待っていた三人の男。

 作戦内容を軽く口頭で説明したソラは腕時計を配ると用事があると『ゲート』で消え、一緒に来たお姫様はソラが用意した椅子で読書を始めたが、まぁお姫様はいいかと他を見渡す。


 組まされることが分かったナツキに話し掛けるも、全て無視。

 怒鳴っても、肩を揺らしても無反応。

 言葉が通じないのかと諦めて、なら他の面子はと最初に話し掛けた魔法使い風の男は、待っていましたと言わんばかりに立ち上がると、ソラとの出会いや自分のギフトなんかを大袈裟な身振り手振りを交えてベラベラと喋り出した。

 そしてオードはそこで初めて、この男が自分とも因縁がある相手だったことを思い出して、因縁の内容からして気まずくなる。


 ……皇帝の依頼として金属鎧を身に纏ったソラと退治しに行ったあの時の、敵を前にして演説を始めたせいて頭を射ぬかれ即死、という間抜けな死に方をした奴だった。

 当時は死体を消している意味が分からなかったが、なるほど回収して蘇生し、帝国で尋問やら教育やらを受けたのだろう。


 ソラのことを強く崇拝している様子で演技調な自己紹介に熱が入り、それにナツキが反応した事が少し気に障った。

 言葉が通じてるじゃねぇか、と。

 暫くは気まずさもありちゃんと聞いていたが、何をしなくても自分の世界に入っているので喋り続けると分かってからは、後はずっと顔色が悪い剣士と話していた。

 不気味な気配を放っていたが会話をしてみれば至って普通の旅の戦士で経験も深く、為になる。


 顔色悪い戦士だけが救いだった。




 そんな事があったとは知らないソラは、オードに、ナツキがどれほど戦力になるのかアピールする。


「ナツキは『聖剣』を扱う非公式な勇者だからね。戦力としては勇者なんだから十分だよ」


 あっけらかんと秘密をバラされ、ポカンとするナツキ。

 勇者が何人も居る、というか目の前に居ることに固まるオード。

 お喋りな魔法使い風の男と顔色悪い戦士は「そうなのかぁ」と事の重大さが解らぬ様子で、特に大きな驚きはない。


 ナツキな気を取り直す。


「おい! なぜバラす必要が……」

「これから一緒に戦うんだからどうせバレるでしょ? ていうか十代目勇者に自分という存在を伝えるのが目的だって保護者の人と相談して決めたのに、仲間に隠してどうするの?」

「ぐっ……」


 保護者というのは勿論、護衛対象であり、この世界でナツキの身分を保証してくれる男のことだ。



 酷く動揺しているナツキとは対照的にオードは落ち着き払い、全員の顔を見ながら考えた。

 --目が合ったお姫様が笑ったから、下手に喋らないほうが吉、だな。


「……なるほど、こっちの世界の言葉に不慣れなんだな。さっきは怒鳴ったりして済まなかった」


 それもまた良しといった様子で微笑むベルに、この女は拐われたはずの第三王女でと言った場合の対処とかも用意してあるんだろうなと考え、その可能性の先を予想してしまった悪寒で身震いした。


「いや、その、あれはだな……済まない、隠し事の演技が下手で、よくボロを出してしまってだな、癖で……」


 身震いが不思議に思われず、ほっとした。



 仮面がヒントだった。

 王国で暮らすオードたちの前でも平気で素顔を晒して正体をバラすベルが、人混みでもないのに今は仮面を着けている。

 正体を隠しておきたい誰かがこの中に居る、と考えるのが自然だろう。


 勇者を召喚したのが第三王女というのは有名な話で、そして非公式な勇者ということは、召喚されたが秘密裏に放り出された勇者……。

 無責任な第三王女を、正式な勇者として表舞台に立つ十代目勇者を憎んでいてもおかしくはない。


「だから二人組か。勇者に他の付き添いが居たら俺がそいつを足止めすれば良いわけか。なんだ、てっきり勇者と戦わされるのかと」

「ごめんごめん。先に教えるつもりだったけどあっちで何かあったみたいで予定を繰り上げちゃって。でもオードも勇者と戦うよ? 多分だけど二人掛かりじゃないとキツいし」


 冷や汗を隠したオードは、今更になって心の中で嘆く。

 どうして祭りの日に勇者襲撃という犯罪者になって、その上でこんなに気を使わなくてはならないのか、と。


 身元を隠す用意はして貰ったが、不安だ。

 ましてや戦う相手が勇者で、もしかしたら世界最強と名高い騎士と剣を交える……いや、それは流石に。


「予想だと例の騎士・・・・は勇者と一緒のはずだから、二人は特に頑張ってね」

「うげぇ」

「例の騎士……?」


 奴を知らない相棒に頼りなさを感じたオードだが、ソラの装備を信じ、諦めて頑張ることにした。



「他の勇者一行は……まぁ、流れで」


 そんか適当な指示に、オードの不安は倍増した。

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