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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
祭を控えて
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遠い過去、近い過去

習慣でパソコンではなくスマホから投稿しているのですが、文字入力アプリを変えたので違和感や誤字脱字が多く見受けられる可能性があります。


なお、投稿が遅れたのとはあまり関係が無い模様。


視点変更多めですが、ご了承下さい。

(ボツ候補でしたが、これ以上遅らせるわけには……)



 祭りの当日。

 ガングリファン帝国で、後の世に"世界一の大祭"と語り継がれることにとなる千年祭が行われている頃。

 時差により少し遅れて開催されたラクール王国の千年祭は、規模や華やかさ、という面では逆立ちしても帝国には敵わないが、お金も人も技術も足りない割には頑張っていた。


 何と言っても、今世の勇者が居るのだ。

 騎士と楽団と大道芸師で列をなして馬車の荷台から勇者が手を振れば、それだけで歴史に残る最強の催し物の完成である。


 とは言っても、パレードの良さというものが分からない人間も居るわけで。


「うーん……あんまり面白くないお祭りだね」

「実物が在るか無いかの、代わり映えの無い何時もの王国祭ね」



 そんな少女たちの会話を耳にしたのは、勇者信仰に厚い初老の男性。

 勇者様が主役のパレードの音だけが聴こえる、あと少しで先頭が見えてくるだろうというある種の緊張感が立ち込めるこの場で、随分と不粋な会話をする子供だなと顔をしかめた。


 熱い感情に冷や水を掛けられた仕返し……否、大人として注意しなければという常識的な思考。

 勇者様が遺された有り難いお言葉を交えた説教をしてやろうと声がした方向に顔を向けた男性は、こちらに背を向けて歩き去る声の主だと思われる二人の少女の両手が屋台の食べ物で塞がっている事に気が付くと脳裏にビリビリっと強い電流が走り、思考の海に沈んだ。


 千年祭は確かに最上級のお祭りであり、老い先短い人生の中でこの場に立ち会えたことを誇りに思う。

 だがしかし、"食"という観点からこの祭りを見れば。


 普段のお祭りならば稼ぎを優先する商人すら今日に限っては店を閉める、それだけ特別なお祭りだからこそ、物足りない屋台の数。



 ――自分は幼き頃から楽団や大道芸といった見世物が大好きで、視線を釘付けにして足を止めては親に手を引っ張られたものだが、それよりも、何よりも楽しみにしていたのは屋台だった。

 今になって思い返してみれば、初めて勇者様に感謝したのは屋台の"ヤキソバ"を食べた時だったか、いや、"カキゴオリ"の時だったかも知れない。


 そんな自分が結婚して息子が出来ると、今度は自分が子供から、屋台に行きたいと責っ付かれる。

 大人になってお祭りの屋台で食べる機会は減ったが、自分が子供の時には無かった物を見ると今でも好奇心が刺激される。


 ――そして、今。


 大きくなった息子に目をやれば、まだかまだかと人垣の向こうを気にする息子と、その足にしがみつき、見るからに不機嫌そうにしている可愛い孫の姿が。



 何気なく過ごしてきた日常だが。

 ああ、何て不思議な心地好さか。



 懐かしき記憶の逆行から帰ってきた男性は、逆に感謝したいくらいだと小さな二つの背中を見送った。

 そしてパレードの音が近付いてくる中、男性はおもむろにしゃがみこむと、孫に優しく声をかけた。


 孫は不機嫌な表情をどこへやら、不思議そうに爺の顔を見つめる。

 それは初めて見る爺の顔で、怖くはないがとにかく不思議で、話し半分に爺の言葉に頷いた。



 余所見をしていて親父の行動に遅れて気付いた息子は、親父を見てぎょっとした。

 あの、勇者様が勇者様がといつも五月蝿い頑固親父が、勇者様が主役であるパレードを抜け出して、屋台に行こうと孫を誘っている。


 そして何故か、涙を流しているのだ。



 どこか悪いのかと心配した息子に怒鳴る頃には涙も引っ込んでいたが、結局この三世代の親子はパレードの人混みを抜け出し、数は少ないが商魂逞しい屋台を巡ることになったとか。






 ・・・






「やばっ、スキルセット変え忘れてた」


 ソラがおかしいと気付いたのは、ハンターチーム『流れ星』が長期滞在する宿に到着し、柔らかすぎるソファに埋もれた頃。

 何気無くメニューを開いてみれば、洗脳や状態異常といった不意打ちで喰らうと厄介なギフトや魔法対策に各種耐性中心で組んだ安全セットにしていたはずなのに、効果がよく判っていないスキルを実験用にと放り込んだセットに変更されたままであった。


「屋台で<値引き>した時だ。効果あったし、<値引き>は外しとこ」

「薄利多売の商売相手に値引くなよ」


 屋台で値引き、という所に突っ込みを入れたのは『流れ星』のリーダーにして唯一の男、オード 。


 流石に男女で部屋は別々だが、今回はチームの会議室にするために広い部屋を一人で借りているオードの部屋。

 女の子の部屋を期待していたソラは、非常に残念がった。

 ついでにオードは無視され、ソラはウィンドウの雑多なスキル群を睨む。



 オードは会議の時の定位置に座ると、自分用に淹れてきたコーヒーカップを置き、空中を睨む"コレ"に出逢ってからの、様々な出来事を思い返していた。






 仮面を着けた、まるで少年のような女。

 ラクール王国の田舎で出逢い、故郷の掟やらひとり旅の辛さを語って女性陣に取り込み、兎を調理したり家に泊まったりと馴染んでいたが、その日の夜に失踪。

 出ていった際に大量の武器を置いていき、更には『友情のグリモワール』という魔道具を経由して回復用ポーションを渡してきたりと、謎の行動。

 武器をヤバいがこのポーションが際立つほどに出鱈目で、効果が欠損した部位が再生するという出鱈目ぶり。


 洗脳され暴れていたゴブリンの集団を倒した功績でランクが上がり、田舎から王都に転属。

 転属後すぐ、新米チームなのに隣国の皇帝陛下から、洗脳されたゴブリンに関わる話だからと指名依頼が入り、何故か"コレ"が同行。

 依頼完了後は何事もなく別れたが、後に仲間がグリモワールを使って軽いノリで正体を話され、伝えられる。

 嘘だとは全員が気付いていたが、まさか、勇者と同じ異世界の人間とは……。


 女四人に男一人というチームだから普段から注目を集めている自覚はあったが、皇帝陛下からの指名依頼が止めとなり、同業者からのやっかみと媚びが増え、面倒な事になっていたのがこの頃。

 で、レベル上げに誘われ、王都から離れたかったから話を受けた。


 後悔した。


 魔王がいたことに驚きはしたが、生きた伝説の存在である魔王以上に"コレ"がヤバいと気付いたのは、この時だ。

 レベル三桁の魔物を見たのは初めてだし全く生きた心地がしなかったが、"コレ"はそれらを一撫でで光に変えてしまい、そして何よりも、"コレ"が作ったという装備を使う自分たちがレベル300と戦えてしまった事で、そのヤバさを実感した。


 急激なレベルアップは苦痛を生むという都市伝説があるが、まさか自分が味わう羽目になるとは。

 王都での厄介事も、仲間にしつこいナンパをしてきたトップチームの連中を、桁違いなレベル上昇のせいで狂った力加減を自重ないでぶっ飛ばしてからは、見違えるほど減った。

 トップチームが放置していた亜竜の討伐依頼なんかが嫌がらせのように回って来たが、亜竜の強さを理解する前に倒してしまい、気付けば、短すぎる間で王国のトップチームと呼ばれるようになっていた。



 ……滅び行く村から妹と二人で逃げ出した時の誓いが、"コレ"のせいで狂っていく。




「ま、もう逃げることはないけどな」


 オードはひとりごちて思考を〆ると、丁度良いくらいに冷めたコーヒーを飲む。

 メニューを閉じたソラはその姿を見て、何かに引っ掛かってから「あっ」と声をあげた。


「そういえば皇帝のせいでお茶ばっかりだ。カフェオレ飲みたい。ベルは?」

「甘過ぎなければ何でもいいわ」

「コーヒー豆は高いんだが……まあ、いいか」


 そこまで稼げたのも元を辿れば……と考えたオードの思考を遮るように、部屋の扉が開いた。


「あれ、もう来ていたのですか」


 扉を開けたアルセが座るベルに気付いて立ち止まると、その横をすり抜けたニーナが「飲み物入れてくるー」と言いながらキッチンへと小走り。

 ネルフィーとカタリナはベルに挨拶をして席に座ったところで、この部屋には置いてないはずの大皿を持ったニーナが戻ってきた。


「ソラちゃんからお菓子貰っちゃった!」


 お菓子に手を伸ばす女性陣をオードが眺めていると、オード以外の分のカップをお盆に乗せて運んできたソラがカップを配り、座った所で。

 今回の、今夜のために急遽開かれることになった会議は始まった。



 開口一番、計画者であるソラが目的と流れの説明をする。


 目的は「いつか来る決戦の日に備え、勇者の実力を図る」。

 流れとしては、ソラが誘導した勇者一行の面々を、ソラが用意した刺客と戦わせるという、単純にして滅茶苦茶な計画。


 ではあるが、今のところ『流れ星』が大きな役割を任されることはなく、どうしてこのメンバーで会議をするのか……。




「ーーで、オードは勇者と戦ってね」



「……は?」


 オードは言葉を失い、仲間たちはオードに向かって手を合わせ、黙祷した。




観覧、お気に入り登録、コメント等、ありがとうございます。

更新速度復活に向け、頑張っていきたいと思います。

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