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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
祭を控えて
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悩みの大半は悩むだけ無駄

「空橋さんもサボり?」

「結果的にサボりになっただけで、サボる気は全く無かったんだよ」

「ふふ、何それ」


 クラスメイトの相川さんは、ソラとはジャンル違いのゲーム・漫画好き。

 召喚の当日は確か、イケメン揃いの戦国武将が戦うゲームの発売日だったか。

 運動不足感が滲み出る眼鏡っ娘で、ポッチャリには届かないが溢れ出るだらしなさが良いとソラは思う。


 他愛のない会話を挟み、空気を読んでからソラは切り出す。


「それじゃ、学校休んでまで買ったゲームをする時間を減らしちゃっても悪いし、これで」

「別に構わないけど……まあ、空橋さんもサボった理由があるだろうし。それじゃ、バイバーイ」


 何事もなく別れ、路地裏に入ると周囲を調べて『ゲート』を開く。

 真っ暗闇の『ゲート』の中、何となく後ろを振り返り、ソラは呟いた。


「相川さんは予想通り処女の匂い、と。……異世界とか好きそうだけど、二次元っぽいイケメンってそんなにいたかな?」


 予期せぬ出会いではあったが、何となく大丈夫だと<直感>が告げたのだ。



 物語のテンプレート、それとニートルダム世界のお決まりとして、勇者でなければいけない場面が必ず訪れる。

 それはソラだけの予感ではなく、帝国皇帝はソラの行動よりも勇者の行動に目を向けて動いている節が多々見られる。ソラの規格外さから、監視を諦めているだけかもしれないが。

 その勇者が必要な場面が過ぎたら一行を「今日」に帰すつもりのソラにとって、それに伴った地球での騒ぎをある程度は想定しているし、沈静化の解決策をその小さな胸に秘めている。


 日本で全国放送のニュースで流れる程度には騒がれていることを知れた事は想定の範囲内だと確認出来たプラスの出来事であり、クラスメイトとの出会いは、念のために対策を考えていたから大丈夫だ。


「相変わらず、日本は複雑な匂いだったなぁ」


 一時帰宅の感想をそう締めくくったソラは、潮風の香りがする我が家で料理の続きをするのであった。






・・・






 訓練から帰ってきたベルと護衛と使用人を迎えたのはお腹を空かせる料理の香りで、四人が砂浜から連れてきた潮の香りを着替えて払うと、ソラの一声で身分に関係なく一緒の食卓で食事を始めた。

 それぞれの前にメインやスープは置かれているが、デパ地下のオードブルや付け合わせのサラダなどは各自が取り分けるスタイル。



「あっちでクラスメイトにばったり会っちゃったけど、可笑しな事にならないように何とかするよ」

「『ゲート』により前後する時間の矛盾。世界で変わる不可解な時の流れ。同じ人間が同じ時間に存在する現実……ふふっ」


 主人二人が談笑するのと同じテーブルで、オードブルを競い合うように浚っていった三色メイドがメイド長に怒られている。



「あなた達は、自分の立場を弁えているのですか?」


 箸を置かされ、説教。


「緑みたいにポテサラ独り占めとかしてないし、黄色みたいに全種類は取ってないし」


 赤髪がオードブルの器に生まれた空白ポテトサラダゾーンを見つめ、反省の色なく、三人の中で先人を切って口を開けば。


「赤いのは肉ばっか取り過ぎでしょ。あんたメインも肉料理なのに……。あと黄色いの、人の皿を見つめない。気味悪い」


「ポテトサラダだけ取ってない……」



「…………ハァ」


 メイド長ソフィアは使用人としての技術はともかく成長しない三人の性根しょうねに呆れ、食事の場で叱ってもあれなので取りあえず今は食事を再開させ、一体どんな罰を与えてやれば反省するのかと頭を悩ませる。



 お堅い騎士団とは違う自由すぎる職場にもいい加減慣れてきた騎士二人は、大盛りに分けられた食事を黙ってぱくぱくと平らげていく。

 長い期間、帝国の騎士として恥ずかしくないように教育されてきたので無口になりがちだが、中身は普通の女の子。

 食事の終盤にソラがデザートを取り出すと目に見えて反応するし、甘味に目を輝かせ、量的な物足りなさに皿を見つめる。


 双子みたいな反応をするなぁと、デパートで買ってきたプリンを追加で取り出しつつ観察していたソラはニヤケた。






「そうそう。今度のお祭りが終わったら“三人の名前”を決めるから、こんな感じが良いっていうのがあるなら教えてね」


 全員がプリンを食べ終えたのを見届けたソラは、メイド三人に向かってそんな言葉を投げかけた。


「……名前、ですか」


 黄色と呼ばれているが実際は金髪のメイドは咥えていたスプーンを口から離し、どうせ黄色なら辛くて食べれないカレーじゃなくて甘くて美味しいプリンが良いのになんて考えを頭の隅の方へと追いやり、自然と目が二人の方に向く。

 三人は交互に目が合わせるが、何のこっちゃ、だ。



「千年祭で皇帝なんちゃらの儀式をやるから“紅き血の祝福”っていうのが切れるんだってさ。それで赤メイドちゃんに魂の返還がされて、晴れて名前が付けれるってわけだよ。だよね?」


 ご主人様の目が、もう一人のご主人様へ。


「『赤き皇族の血による継承の儀』。国宝『水鏡』に封印された皇位継承者の魂を現皇帝と次期皇帝のものを除いて全て解放し、“紅き血の祝福”を皇帝に集中させることで執り行われる、正式な後継を定めるための儀式。“紅き血の祝福”の効果はあまり詳しくは知らないけど、皇族の証であるギフトを所有する者を不死にする代わりに、命名などの魂に行われる行為を受け付けなくすること。儀式が終わり次第、希望者は“紅き血の祝福”をもう一度受けれるそうだけど?」


 もう一人のご主人様の目は、今度は赤いのに。



 全員の目が赤いのに向く中、素っ頓狂な声を上げる緑髪が一人。


「へ……赤いのって皇族だったの!?」

「いや、これだけ一緒に居て気付かなかったの?」


 黄色が呆れたように緑を馬鹿にするが、知らなくて無理もない。

 地球でいう「赤毛」とは茶色と金を混ぜたような髪色を指す言葉だが、此方の世界では本当に赤い色をした髪を「赤毛」という。


 ガングリファン帝国の現皇帝と皇女は、それはもう赤毛の中に紛れても際立つほどに深みのある綺麗な紅の髪を持っているのだが、赤メイドはというと、赤いには赤いのだが明るい赤なので、同じ血筋には見えない。

 そして赤毛は庶民の中にも居るくらい珍しくない、皇帝のような深紅が珍しいというだけの話。



 ほげーっと呆けたままの赤を無視して、黄色が緑に諭す。


「“あの”メイド長の拳骨を受けて平気だなんて、それこそ不死でもなければソラ様くらいなものでしょ。他にも、ドラゴンの釣り餌にされたり」

「あぁ~、そういえば結局、赤いのしか『釘打ち拳骨』受けてないもんね。頑丈になるギフト持ちなのかと思ってた」


 拳骨で人が木の床に埋まる光景は、二人の脳裏に強く焼き付いている。



 呆けた様子で固まる赤に、他二人とメイド長をチラリと見たソラが告げた。


「祝福を続けたいって言うなら名前は諦めるけど……祝福があるかぎり、拳骨、されると思うよ?」


「太陽龍の餌にしようとした貴方が言えることではないでしょう」


 ベルの突っ込みに、ソラは胸を張って。


「祝福が切れた時、レベルが低いと今までの反動が返ってくるって聞いたからね。あれでかなり上がったから反動は無いと思うよ!」

「そうね。殺さずに撃退しただけなのに100は上がったそうだから、これで反動が来るようなら“レベルを上げれば反動は来ない”なんて言葉は安易には生まれないでしょう」


 武人でも30あればレベルが高い世界で、レベル100を超えたメイド。



 ずっと黙っていた女騎士二人が、顔を見合わせてコソコソと話す。


「ソラ様にしては押さえ気味ですよね」

「初代勇者は死ぬまでに2000から3000ほどまで何らかの理由があってレベルを上げたそうですけど、ソラ様がそれに対抗してても不思議じゃなかったですよ」


 ただ、この場にいる人間はその辺りの感覚が麻痺していた。



 今まで微動だにしなかった赤いのが身動ぎしたことで、みんなが押し黙って再び目線が集まった。


「……格好いいのよりは、やっぱり可愛いほうが……」


 照れた様子で赤いのが呟くと、その場はどんな名前にしようかという話題で盛り上がり始めた。




 ふと、女騎士の一人、イリヤは首を傾げた。

 ソラは最初に“三人の名前”と言ったのだ。


「他の二人も、名前が無い……?」


 一緒の家で生活している上で、何となく気にはなってはいたが敢えて触れないでいた話題。


 名前は肉体ではなく魂に付けられる。

 では、名前が無いと言うことは。

 命名より先に親を亡くした孤児でも、大抵は孤児院や育ての親が命名するものだ。

 ギフトの中には『命名士』と呼ばれる能力があることは有名だが、名前を変えることが出来ても消すことが出来るとは聞いたことがない。


 ……では、二人は?



「千年祭が終われば解ること。悩むだけ無駄よ」


 背筋をぞくりと駆け抜ける感覚。

 慌てて振り返れば、部屋を立ち去るベルの後ろ姿。


 油断していたのもあるが、いつの間に回り込まれたのか。

 非戦闘員であるベル様に……とは心のどこかで思わなくもないが、今日の砂浜での訓練でイリヤはベル様への見方を変えたばかりだった。



「……もしかして、騎士二人が一番レベルが低いのでは」


 名前の件は忘れることにしたが、しかし、今度の悩みは中々に手強そうであった。




試験的にレベルの表記を半角英数に。

たまに英数も使っていましたが、何となく漢字への拘りを捨ててみた。

拘っていた癖に言うのはなんですが、漢字だと違和感あったんですよね、レベル。

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