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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
「テンプレ改変乙」
11/133

異世界の醍醐味とお約束

2013/10/13 修正と改稿

 男一人に女四人という偏りが見られるこのパーティーは、兄と妹、妹の友達と、ギルドで募集した二人。

 女性が多いのは、兄が妹に過保護だから男を警戒して、だそうで。


「そういえば、もうすぐ結成一年?」


 胸より尻──妹である軽戦士、ニーナ。



「お試し期間のままズルズル」


 クール貧乳──ニーナの幼馴染みで弓使い、アルセ


「ワイルドウルフ、発見」


 エルフっ娘──無口な回復役、ネルフィー。



「……小さな群れね。魔法行くよ」


 お姉様──まだまだ若い攻撃魔法使い、カタリナ。



「……おーい」


 カタリナの杖から現れた火球が群れの真ん中で爆発したのを合図に、アルセの弓が矢を放ち、ニーナがウルフの進路を誘導する位置取りをしつつ剣で傷を与え、ウルフが誘導により固まったところをカタリナが爆発魔法で仕留める。



「勝利」


 働かないことが一番の仕事、とでもいうようなネルフィーの満足気な顔。

 聞けば、ネルフィーは魔法で十二分に戦えるが、エグいらしい。色々と。




「おい、俺抜きで戦うな。そして勝つなよ」




「壁役が入ればバランス良いね。ただ、カタリナ以外攻撃力不足?」

「そうそう。カタリナさんとネル以外は魔法使えないし、ギフトも攻撃向きじゃないからさ。まあ、この辺でやってくなら十分だよ」


 そう語るニーナの目は、ギラついていた。

 本当は旅に出たいのだが、まずはこの辺りで鍛えて、というパーティーの方針なのだろう。



「ねえ、こっちで一般的な、魔法の入門みたいなの教えてくれないかな? 違いがあるのか気になるんだよね」


 すっかりパーティーに馴染んでいるソラは、犬の返り血を浴びてそのままのニーナを森で作っておいた植物製の布で軽く拭きつつ、隣を歩くネルフィーにそう聞いた。


 少し考えたネルフィーは。


「……ギュッとして、バーン?」


「ソラ、エルフに聞くのは間違いだよ。こいつら、修行無しでも手足のように魔力を操るから他人に教えるのが絶望的に下手な種族なの」


 ニーナの説明で、エルフといったらやっぱり魔法なのかとテンプレに感心しつつ、カタリナを見つめる。



 パーティーでダントツに小さいネルフィーと同程度のソラが、二番に背の高いカタリナを見つめると、自然と上目遣いに。


 さらにソラは、異世界ロマンの筆頭である魔法。そして、もしかしたらパレット使用可能となった『キャラネーム決定』と同じような条件で『魔法』が使用可能になるかも知れない、という情熱で目が輝いていた。念のため、スキル効果ではないことを明記しておく。



「上目遣いは無自覚でやっても、おねだりなんてしてくれないからねぇ……」

「?」


 無口無表情無愛想で、時折意味不明な言葉を口走る仲間のエルフをちらりとだけ見て、ソラに視線を戻す。



 大きな黒目が、キラキラだ。




 実はカタリナ。仲間も知らない事実だが、可愛いものが大好きである。

 暫く帰っていない実家の自室はヌイグルミで溢れ、地元では魔法の修練の合間に子供達と遊び、ペットも何匹か飼っていた。


 話が合うかと思い女の子が多いパーティーに入ったはいいが、脳筋、男みたいな趣味、意味不明、という残念な同性ばかりで、さらに年下ばかりだったので最初にお姉さんぶったのがいけなかった。

 皆から「クールなお姉さん」と認識されてしまい、いまさら「少女趣味」を全開にするのはイメージが崩れてしまい気後れする。




 簡単に言えば、可愛いソラを抱き締めたくなった。






「お前ら! 何でそんな怪しいヤツを信用するんだ!」



 カタリナの衝動を抑えたのは、この場で唯一の男、パーティーの壁役でニーナの兄、オードの不粋な声だ。



「怪しい? どこが?」

「なぁ、どうやったらあんなに早く動けるんだ?」

「……カワイイは正義」

「?」


 ニーナはソラを見て怪しいところが判らず、アルセはそもそもオードの話を聞いていなく、カタリナが呟き、ネルフィーは、オードの発言とカタリナの呟きに首を傾げた。


 ソラは、自分の格好を見下ろした。

 ニーナやアルセとあまり変わらない装備。


「どこが?」


 思わず、口に出た。






「──仮面は怪しいだろ!」




 そういえばコロニーとやらを滅ぼした時に犬素材で仮面を作ったっけと、今更ながらに思い出して顔に手をやる。

 鼻から上を隠して口は出したままの、紺色の毛皮付きの犬仮面。



「顔を隠したハンターなんて、ギルドにも何人か居るじゃん」


 ニーナは兄の言葉の意味が分からないと、自分の常識と照らし合わせて判断した。


「仮面は防具の一種です」


 アルセは断言した。強い者に敬意と尊敬の念を送るアルセは、よほどでない限りは強い者を全肯定。


「ふさふさ」


 ネルフィーは仮面に付いた毛皮を触る。


「それもカワ──ごほん。オード、顔を隠した、それも女性に失礼よ。……そんな女心を読めないようだから、受付嬢に他多数と同じ扱いをされるのよ」


 本音は誰にも聞き取れなかったようで。


「強いていうなら、食事に毛が入らないか心配、かな?」


 ソラの切実な心配だった。



「ソラと言ったか。お前、ハンターじゃないだろ。しかもその発言、まるでその仮面を初めて付けたような──」


 発言を遮るように、ソラは仮面に手を掛け、毛皮の付いたそれを空高く投げた。





──日本人ならお馴染みの、赤鬼の面。





「……はっ!? なんで仮面の下に仮面着けてんだよ!」


 呆けていたオードが叫ぶとソラがまた仮面を投げる。


 仮面舞踏会的な、羽根付きマスカレード。


「凄いね! もしかしてギフト!?」

「いえ、特技です」


 ソラが行っているのは、『Persona not Guilty』の絶対に仮面を外さない主人公が行う、MMO(多人数参加型)とはならなかったが残されたコミュニケーション用アクションの一つ、『仮面マトリョシカ』。

 ゲームでは、一部NPCの前で行うと些細な会話イベントが始まる、完全なオマケ要素である。



「私の一族は、仲間以外には素顔を見せない、という伝統があるのです」


 ソラの即席異世界設定「秘境に隠れた謎の一族」も、段々と骨組みに肉付けされてきた。


「破ったところで何もないんですけど、私は、特に男性には見せないようにしていまして」


 勇者一行に日本人だとバレたら、設定に付き合わせて仮面を送ることを思い付いた。

 バレるつもりは毛頭ないが。



「伝統とか規則ってのは、他の人からすればどうして守るのか分からないものだからね。オード、謝りなさい」

「……ふん、それも本当かどうか怪しいだろ」

「オード!」


 何やらオードという男にソラは嫌われているらしい。


 こいつ自体はどうでもいいが、自分とその仲間の間に、特に妹ちゃんとの間に不安要素を残したくなかったソラは、オードが自分を嫌う理由を考える。



 出会い頭の一撃。これが理由なら仕方がない。やり直せないし、例えやれてもやり直すつもりはない。キリっ。


 仮面は、恐らくこじつけだろう。


 それ以外となると……と考えたソラは真っ先に、地球でもよくされた勘違いが原因ではないかと思い当たる。



 オードと目を合わせると、確かにその時と同じような目だ。




「ニーナ、ちょっと来て」

「うん?」


「おい、ニーナに何を──」


「ちょっとその男掴んでて」


 不機嫌なオードを無視してグループから少し離れたソラは、念のためにオードに背を向け、正面にニーナを立たせる。

 速攻、アルセがオードを羽交い締めにした。




「何かな?」


「はい、見て」


 好奇心満載なニーナに、ソラが見てと言って見せたものは──




 見てと言われ、開かれたズボン・・・を咄嗟に上から覗いてしまったニーナは、同性のとはいえそれ・・を目視してしまい、顔を真っ赤にしてあたふたしだした。


「いやっ、え? なんで? あれ? えっ?」

だったでしょ?」

「へぇ!? ──う、うん、ツルツルだったよ!?」

「いや、毛の有無を叫ばれるのは恥ずかしいんだけど……」

「はっ! ごめんね……って! 何を突然見せるかな!?」


 何ってナニ──女でもナニなんだろうか?


 そんな下らないことで悩みだしたソラをよそに、状況を察したカタリナが固まるオードを見る。


 愉快そうな、黒い笑顔で。


「仮面を気にしたのも、性別が判らなかったから?」

「い、いや、性別なんか別に──」

「そんなに妹に悪い虫が付くのが嫌なの? そうよね、パーティーに女性しか募集しないなんてことをやらかすほど大事な妹ちゃんだもんね。その誤解をキッカケに受付ちゃんと会話するようになって良かったわね。で?」

「……はい、そこから疑ってましたゴメンナサイ。だからカタリナ、お願いだからネルフィの魔法詠唱を止めてくれないか?」


「イ、ヤ、だ」




「よく勘違いされて、友達の兄弟とか親御さんに誤解されるんだよね」

「まあ、私もだが……胸──肉と顔付きがな」

「アルセはカワイイよ。仮面を付けたからさらに間違われるかもなぁ……利用するか」


 中性的な見た目のアルセを何気なく口説きつつ、今後の身の振り方に修正を加えるソラ。左手には、顔を真っ赤にしたまま固まるニーナを引っ張って。






「しょ、植物が……! おいっ、こいつを止めっ──袖から入ってきたぞ!?」






「相変わらず悪趣味な魔法ね……女性に使っちゃ駄目よ?」

「拷問以外には使わない」



 異世界のお楽しみ、最初の触手プレイがまさかの男だなんて……と、ソラは落ち込みつつも、ネルフィーに弟子入りするか本気で悩むのだった。

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