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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
忘却エネミー
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蘇る黒龍物語

復活。

 才能の有無に関係なく、誰にでも見える白い光となって魔力が吸い込まれるように一つの球体へと集まる。それは表面を激しく波打たせながら強く光り輝きながら空に留まる。


 誰よりもその光に近い場所。

 護衛の男に支えられながら額に汗をかくほど集中している男の、胸辺りから滲み出るように飛び出した黒い魔力が交われば。


 光を消し去るように、漆黒の鱗が現れる。


「おお……」


 光を見上げていたソラは、感嘆の声を上げた。

 同じような声は訓練場のそこかしこから聞こえ、声を上げたよりも多くの人が言葉を失っていた。


 そして、魔力の光が完全に消えた時。


『ギュルァァァァァァ!!』


 大音声と共に、八百五十年前、四代目勇者と相討ちとなって死んだ邪龍が、再びこの世に姿を現した。



 厳つく尖った黒鱗が今まで見たどのドラゴンよりも重厚感と威圧感を生み出し、先端に棘の生えた尻尾でバランスを取りながら二足で待機している様が、ゲーム終盤のボスみたいでとてもよく似合う。

 足に比べて細い腕は比べる対象が悪いだけで十分に筋肉の塊で爪という凶器を備え、移動用の前足ではなく攻撃の為の武器だと知らしめる。


 爬虫類のような顔で表情は解りづらいが邪龍らしい凶悪さは欠片も無く、どうやら召喚体に生前の意識は無い様子。呆然と立ち尽くしている。




 ソラからインテリ優男と認識されている男、ルドルの話。


 本当は勇者の魂情報を求めて護衛の男と共に湖に訪れた所、そこにアジトがあるとは知らず盗賊団に襲われ、咄嗟に手に入れたばかりの召喚を試したら勇者ではなく黒龍で過剰な火力でアジトごと滅ぼしてしまった。

 アジトの規模が大きくただの盗賊団ではないと見抜いた優男は遠く離れた砂漠の国に逃げ、辺りに遮蔽物が無い砂漠で黒龍を試した時に、たまたま近くを通りかかった(?)情報部に捕まったらしい。


 情報部という組織を優男は噂程度しか知らないが、他国に大規模な諜報機関を持つ国となると帝国しか有り得ないだろうと目星は付けていた。

 男としても帝国方面に用があったので輸送は渡りに船だったそうだが。


 まさか、帝国が追っていた犯罪組織を証拠ごと燃やしたからと帝国騎士団から取り調べを受ける羽目になり、本当に滅ぼせる力があるのかと黒龍を多勢の前で披露することになったり。


 黒龍を倒したがっている、デタラメな子供が居るとは思わなかっただろう。





 遠巻きに魔法やギフトで観察する帝国関係者から離れ、黒龍を間近で無表情で見上げるベルと、ベルの隣で役人になりすましている情報部の長。


 ソラは一人、飛んでいた。


「邪悪な雰囲気も、まさに黒龍って感じでいいね」


 黒龍の周りをぐるぐると飛び回りながらハシャぐ仮面の子供。

 念のため、属性や弱点といったものが省かれてゲームの時より見えるものが減ってあまり役に立たない『アナライズ』の魔法でステータスを確認したが、レベルが白龍ツィーバより若干低いことと、ツィーバのような個体としての名前が無いことくらいしか分からない。


 当たり前のように飛んでいる事にこの場では二人だけが驚き、その二人の前にそれが飛んでくると、思わず構えた。

 飛ぶことが当たり前になっていたソラはその反応に首を傾げ。勢いをつけて急に目の前で止まったから、自転車がぶつかる寸前で急停車したようなものかと、微妙に違う納得をして気にせず話し掛ける。


「召喚体って、倒されるとどうなるの?」


「体を維持する魔力が拡散して消えるだけだ。すぐに呼び出すことも可能だが、失った魔力は還ってこない。黒龍となると、三日は休まないと駄目かもな」


 ソラから名前を覚えられていないインテリ優男は、ビビった事を視線を逸らして誤魔化しながら答える。

 優男が頬を赤らめて羞恥心を隠している姿に、並みの女性なら母性とか腐った何かとかでテンションが上げるものなのかも知れない。目の前の男が恥ずかしがっている事に無関心ゆえ気付いていない思春期少女もここに居るが。



 そんな事より、ソラはとても良いことを聞いた。


 仮面の下で笑う子供から猛烈に嫌な予感がした優男は咄嗟に逃げ場所を探すために辺りを見渡す、が。

 周囲は帝国人に囲まれ、護衛はアホみたいに鈍感で警戒すべき子供ではなく黒龍を見上げ、気付けば黒龍の近くにいたはずの二人が自分たちの背後に。


 後で護衛にはキツいお仕置きをする事を心に決め、優男は腹を括ることを決心した。




 黒龍を倒して、魔力を回復させて、召喚させて、また倒して。


 なんて素敵なアイテム稼ぎ。

 優男の事など知ったことではないソラは、自分の発想にご機嫌。


 気分に乗ったまま特に考えることなくインベントリから取り出したのは、鞘に収められた一本の刀。



 それは、遠巻きに黒龍を眺めている帝国関係者の視線を全て奪うほど圧倒的な存在感を放ち。

 ソラに近くにいる人々、ソラ本人とベル以外の、黒龍も含む全て生物を等しく畏縮させた。


 現在地は帝都から数キロ離れた、騎士訓練所。

 だが、帝都では鳥や虫や動物が一斉に鳴き止み、空気に敏感な亜人とギフト保持者が同時に立ち上がると揃って同じ方角を向き、皇帝は椅子からずり落ちた。



 逆恨みで帝都を恐怖の底に落としてやろうと今まさに路上で本性を晒そうとしていた悪魔憑きの男性が突然の胸の痛みを訴え、それ目撃した花屋の看板娘に看病され、事件は未遂となった代わりに新たな恋のストーリーが始まったのも、この時の出来事。




 武器一本取り出しただけであちこちで大事になっているとはつゆ知らず、ソラはインベントリからMP回復ポーションも取り出して優男に手渡そうとしたが。


「……あれ?」


 逃げる算段を忘れ呆然と刀に目と思考を奪われている優男は、差し出されている瓶に気付かない。


 投げてぶつけても効果あるからいいかと、異変に気付かないソラは黒龍に向く。


 そして。


「たあ」


 虚空に向けて気の抜けた掛け声と共に、技術も鍛錬も無い格好だけの居合い切りを放った。



 鞘から抜かれた刀身が閃光としか見えなくても、それを見てしまった人間は五感を失い、閃光だけが脳裏に強く焼き付いた。


 自分は斬られたのか。


 離れていてもそう錯覚させる閃光はしかし、黒龍に向けて素振りしただけのもので。

 だというのに黒龍の首は切れ落ち、黒龍は幽かな光となって飛び散るように消えた。



 魔力を使った飛ぶ斬撃は、武器が鋭利なほど薄くて鋭い斬撃になるとソラは考えた。

 逆に鈍器に近付くほど、ハンマーのような衝撃を与えるものに変化するのだと。


 だからと所持しているゲーム武器の中で一番鋭い刀「童子切」を選んだソラの行動は、伝承や逸話が攻撃力や特殊効果に反映されてインフレを繰り返すゲーム武器に、ゲームの能力値や説明文を現実にしてさらに過剰な能力補正を掛けたこの世界のルールに則った状態の「天下五剣」を舐めすぎている。


 神殺しの武器とか出したらどうなるかなと気になったソラだが、今はとりあえず。


「次」


 未だ立ち尽くす優男に瓶を投げつけガラスの破片と液体が消える中、正気に戻った男に再度の召喚を促した。


 何度も。






 必要分の素材が集め終わるまで黒龍狩りをした後、目立ちすぎだとベルに怒られるソラ。ソラは刀の異変など気付いていなかったが、そういうこともあるのかと納得したら更に怒られた。


 魔力の急激な回復と消費を繰り返したことで体内魔力の増加に成功したインテリ優男ルドルだが、心に傷を負い、利用されるだけされて名前は一度も呼ばれていない。


 仮面の子供が黒髪というだけで日本人だという確証がないまま、実力の差を感じて自分は一体何なのだろうと悩む護衛(非公認勇者)。名前はそもそも名乗っていない。


 どうせ奴の仕業だと割り切り、後で軽く話をしようと決め、異常は解決したと発令する皇帝。


 伝説の黒龍が気になるけど部屋に閉じ込められて半べそを掻く皇女。


 初めて恋という感情を知ったが悪魔憑きという己の闇に苦しむ男と、そんな男の姿を見たくないと躍起になる恋に無自覚な少女の物語。



 恋の物語は知らないが、ソラの物語は続く。



勝手な都合により一月の休みを貰いましたが、その間にストーリーの補完を決行することに決めました。

主にグリモワールの住人たちとソラとの出会いで、作中に書かれていない人達の短編集です。

体調不良で頭が回らなかった分のリハビリにもなりますから、キャラや「この場面」などのリクエストも受付中。

新しい章で公開の後、それぞれの初登場回がある章に移動予定。


そんな事より本編書け、というリクエストも可能です。

宜しくお願いします。

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