砂漠の国、ニクラス連邦
短めです。
ガングリファン帝国からひたすら西に。
緑豊かな帝国とは打って変わって、砂漠の大地。
二代目から始まり、悲劇により国を滅ぼした七代目まで続いた「五十年置きの勇者召喚」。
それによって目的もなく喚ばれた五代目勇者が、紆余曲折を経て建国した『革命と銃の国』。
ニクラス連邦だ。
銃器に関わる職業をしていたらしい五代目勇者──初の社会人勇者──が何やかんやで革命軍に入り、勇者としての戦力以外で活躍したのが銃器開発。
物作りで名を残した三代目がタブーとして危険性を語るだけで設計図を残さなかった銃器だが、五代目が開発して八百年経った今でも帝国騎士が甲冑を着て剣を振り回しているのを見て判るとおり、異世界ではそんなに通用しなかった。
魔法が優秀すぎたのだ。
視野に入っていれば何キロ先だろうと攻撃できる物が幾つか有り、範囲も優秀、威力は下手な爆弾以上。修行は必要だが、それなりの才能さえあれば一年で実戦に出られる。
銃器は火薬を使うので火を吐いたり水中から出て来ないような魔物が苦手だったりと、魔法の応用力にも勝てない。
相手が人間ばかりの革命には十二分にその猛威を振るい、帝国には極少数だが狙撃銃部隊があったり、情報部の中には拳銃を携帯している者が居たりと、相手が魔物でなければ優秀な面があることに変わりは無いのだが。
「こちらです」
砂漠のオアシスを囲んだ町をキョロキョロしながら歩く仮面の不審者二人組に、砂漠の民らしい白い服装にターバンを頭に巻いた猫顔の獣人が話し掛けた。
「よく判ったね」
「そちらの仮面、一度見ておりますから」
ソラとベルの二人は、鼻から額までを隠すウサギの仮面を装着。
皇女と会う時はなるべく可愛らしい仮面をチョイスしていたからなぁ、被り物だけに被りが気になる。
つまらない脳内ギャグで一人笑っているソラの隣で、ベルは目の前の獣人を不審そうに観察する。
「ソラと何処かで会った上で、此処に?」
「あまり推察されるのは職業柄どうにも。ただ、こんな職業なら足の速さが売りのギフト持ちも居るってことで、ここはお一つ御容赦下さい」
帝都から、普通の行商なら半年近くは掛かる距離だ。
ソラなら他人のギフトも、名前だけ調べることも出来るが。
「……褐色も良いよね」
露出の激しい民族衣装を着たお姉さんに視線を奪われ、話を聞いていない。
気になっただけでそこまで調べるつもりは無かったベルは、視線に気付いて手を振ってきたお姉さんにそのまま付いて行きそうなスケベ少女のほっぺを抓り、早く案内するように獣人を促す。
「お嬢さん、あれは“此方側”ですから会おうと思えばまた会えますよ」
「うん、匂いで知ってる。だけど性欲が抑えられなかった」
ベルにペシリと叩かれ、真面目に歩く。
顔が猫で声も中性的で性別が判りづらい案内の獣人はソラのストレートな表現に呆れ、そして職業柄、とある興味を持つ。
「彼女、ああ見えてやり手ですから匂いでバレるようなヘマはしてないと思いましたが。参考までに、どんな匂いで?」
やり手どころか、帝国情報部ニクラス連邦方面の総司令官である。
二十代から三十代の色っぽい褐色肌のお姉さんにしか見えないが、種族は普通の人間なのに三十年以上も情報部に在籍している大御所で、司令官歴は十年。
情報部の幹部に名を連ねているエリートで、ただの役職無しである猫顔の獣人では元から知っていなければ身内どころか諜報部員だとも気付けない技量の持ち主。
皇帝と情報部本部が仮面の子供に落とされたという話を聞いた司令官が好奇心で見に来たのだろうが、まさか一目で情報部だとバレるとは。
その理由を、参考までに聞きたかっただけ、なのだが。
「だって処女だよ!」
砂漠の町のど真ん中で、大声をあげる仮面の子。
いつの間にか仮面の片割れは露天に逃げ、本を読んで知らん顔。
人々の視線の先には、仮面の子と猫獣人。
「あんな色っぽいのに男の匂いが一切しないとか、まさに異世界が生み出した奇跡だよ。ちょっと変わった種族で長寿なのに生娘。有り得ないでしょ、あの美貌で処──」
「!!」
咄嗟に肉球がある獣の手で少女の白い手のひらを握り、目的地目掛けて一目散に駆け出した。
「うおっ!? ビックリだよどうしたの!?」
手を引いて、人混みを一気に駆け抜ける。
諜報担当として作戦前の目立つ行為を嫌ったのか、羞恥心に耐えられなかったのか。
それとも、女の子だったからか。
「そこの貴方、代わりに案内して頂戴」
「……えっ、あ、はい」
置いて行かれたベルは、さっきの会話を盗み聞きしていた情報部をさっさと捕まえて目的地を目指した。
捕まった情報部はどうしてバレたのか不思議がるが、読んでいたグリモワールにソラから情報部の位置と特徴が送られてきたからで、それに従っただけ。
グリモワールを持っている情報部は今回来ておらず、その能力は同じ情報部にも伝えられていない機密。
ソラの能力は本人に聞いてしまえばペラペラと喋ってしまう、ヘンテコな最重要機密なのだ。